2019.07.25

日本が牽引する「ベビーテック」の未来――高まる期待感と注目度

BtoBでの導入が進む背景、そして今後のポテンシャル

昨年の「CES」で話題となり、一躍注目ワードとなった「ベビーテック」。BAEではいち早く、その概要、可能性を紹介しました。

あれから1年——日本におけるベビーテックを取り巻く環境は、どう変化したのでしょうか?

今年、日本初となる「ベビーテックのアワード」を開催した、日本で唯一のベビーテック専門メディア「Baby Tech(ベビテク)」を運営する株式会社パパスマイルの代表取締役・永田哲也さんに、「この1年の変化、現在地、今後の可能性」についてお話を聞きました。

目次

日本はすでに、ベビーテック後進国ではない

——昨年の時点では、「ベビーテック」という言葉は新しく、日本ではプロダクトもあまり存在しませんでした。あれから1年、変化はありましたか?

そうですね。大いに変化したと思います。

そもそもベビーテックというのは、「テクノロジー×育児」全般を指すものです。1年が経過して思うのは、「実はベビーテックだった」というものが、日本にはすでにあったということです。たとえば、母子手帳のアプリは数年前からありましたし、同様に妊活を応援するアプリも存在していました。

しかし「ベビーテック」という言葉が浸透したことで、同様のサービスにあらためて注目が集まることとなりました。もはや現在、ベビーテックは新語ではなく、新たなジャンルとして認知されているといえるでしょう。

それを示すように、今年のCESでは、さまざまなブースにベビーテック関連の製品が並んでいました。また、アメリカではベビーテック系ベンチャーの資金調達額が2016〜2017年はおよそ2億7,000万ドルだったものが、2018年には総額で500億ドルを突破しました。1年で約200倍。それほどに、ベビーテックへの期待感は高まっているのです。

その背景には、ベビーテックがさまざまなテック分野で活躍できるポテンシャルを秘めていることも影響しています。赤ちゃんのアレルギーを検知するベビーテック製品は“Food Tech”に属しますし、保険関連のベビーテックサービスは“Fin Tech”に該当します。

実際、弊社へのお問い合わせも増加しており、業種も住宅・不動産系からキャラクターコンテンツ系までと、多種多様です。

——日本は「ベビーテック」において後発のイメージがありますが、現在地はどのようなものなのでしょうか?

日本は現在、すでにベビーテック後進国ではありません。私はCESで、さまざまな企業のプロダクトを見ましたが、日本のベビーテック製品の完成度はすでに世界と渡り合っていると感じました。海外製品は、機能特化型が多く、UIも荒削りなものが多い印象でしたが、日本製は複数のデータを連携できたり、細かい使い勝手の部分で“配慮”の行き届いたものがすでに登場しています。

また、アイデアの部分でも日本は海外より先行しています。先日、海外でAIによる赤ちゃんの泣き声からの感情診断について論文が発表され、テック系ニュースで記事になっていました。しかし、すでに日本では約2万人のモニターユーザーのデータをAIで解析し、「赤ちゃんの泣き声診断」機能を実装したサービス(パパっと育児@赤ちゃん手帳)が存在しています。このように、すでに日本がアメリカをリードしている分野も登場しているのです。

実際、すでに既存の企業が新規事業としてベビーテックの分野に参入し始めていますし、日本が今後、ベビーテックのトップランナーとなる可能性も十分にあると私は考えています。

「パパっと育児@赤ちゃん手帳」は、子どもの生活記録を簡単に登録できるアプリ。その中の機能のひとつ「赤ちゃんの泣き声診断」は、80%という高正答率を実現している(写真提供:パパスマイル)

——日本の技術力の高さが「ベビーテック」でも発揮されているのですね。実際、導入は進んでいるのでしょうか?

日本ではBtoBでの活用が主流です。具体的には、保育ICTとして、保育園・幼稚園で利用されているケースが多いです。

たとえば保育士さんには、園で過ごす子どもたちの写真を撮影して、保護者に送付するという、保育業務からは外れているものの、保護者からの期待が非常に高い業務外活動があります。これは保育士さんそれぞれの技量やモチベーションに委ねられている部分になりますので、写真の出来や枚数にバラつきがありました。

その課題を解決すべく登場した「ルクミーフォト」というフォトサービスは、写真撮影以降の工程をすべて自動化し、顔認識機能により、子どもの判別まで行ってくれます。保護者はアプリからアクセスすれば、自動的に振り分けられたわが子の写真をすぐに見ることが可能です。

さらに、ルクミーフォトは、バッジ型の自動撮影カメラを今年発表。保育士さんのエプロンにバッジ型カメラをつけておくことで、子どもたちの園生活での自然な表情をカメラが自動的に撮ってくれます。これにより、撮影から保護者の手元に届くまで、すべての自動化を実現。さらなる進化を遂げました。

保育士の業務軽減につながる「ルクミーフォト」は、すでに2,000施設以上で導入されている(写真提供:ユニファ)

また、政府も保育ICTの分野にはIT導入補助金などの形で支援しているため、保育のICT化を進めるハードルが下がっていることも、BtoB領域でベビーテック導入が加速している要因のひとつでしょう。

ただ、保育ICTもさまざまなものがありますので、保育事業者の方が迷われる可能性もあると思います。そうしたニーズにお応えすべく、弊社では、ベビーテックのスペシャリストとして、複数の保育ICTシステムのご紹介も行なっています。まずはお気軽に、ご相談いただけたらうれしいですね。

遠隔診療にプロモーション、広がる活用法

——先日、御社は日本初のベビーテックのアワード「BabyTech Award Japan 2019」を開催しました。アワードを通して、ベビーテックの“明るい未来”を予感させるようなものはありましたか?

はい、多くありました。まず、会場にノミネートされた製品やサービスを展示していたのですが、訪れた一般のお客様の反応が非常によかったのが印象的でした。当初用意していたチラシもすぐになくなり、急きょ追加して対応したのですが、ベビーテックへの関心の高さを肌で感じました。

アワードを受賞した製品やサービスはどれも甲乙つけがたいのですが、“世界初”という点では、IoT型胎児モニター「分娩監視装置iCTG」&周産期遠隔医療プラットフォーム「Melody i(メロディ・アイ)」は、日本の技術力の高さを示したベビーテックでした。

これまで分娩監視装置は、基本的に病院内での利用が主でした。病院から個人への貸与もありましたが、初期のショルダーバッグ型携帯電話のように大きく、使いにくいものでした。それを、国内で初めて、超小型化・モバイル化し、いつでもどこでも妊婦さん自身で計測できるようにしました。さらに、妊婦さんが計測しやすいように、胎児の心拍音が聴こえるスピーカーをつけるなど、自宅での利用シーンを想定している点も素晴らしいと感じました。

また、計測した結果と遠隔による医療従事者の診断を合わせることで、妊婦さんに安心感を与え、通院や入院などの負担を軽減。加えて、受診前に計測ができるため、胎児の異常を早い段階で発見でき、予期せぬ事態を防ぐことにもつながります。
 

ハート型の端末「分娩監視装置iCTG」で、胎児の心拍と妊婦のお腹の張りを計測。結果は、コミュニケーションプラットフォーム「Melody i」を通じて、医師に送信され、遠隔で医師から受診推奨などの診断を得ることができる(写真提供:パパスマイル)

特筆すべきは、このサービスが香川県で生まれている点です。東京には産婦人科が多数ありますが、日本全体として産科は急激に減少しており、それは香川県も同様です。そのなかで妊婦さんの不安を解消するためには、「遠隔診療」が必要になりますよね。だからこそ、このサービスは生まれたのです。

遠隔診療は海外でも注目されている分野ですから、世界で戦えるベビーテックは、地方のニーズから生まれる可能性も十分にあると、私は考えています。

——ちなみに現在、ベビーテックをプロモーションに活用する、という展開は生まれているのでしょうか?

現在「ベビーテック×プロモーション」を実現しているのは、実在する企業の仕事体験ができる社会体験アプリ「ごっこランドⓇ」でしょうね。

従来の子ども向けの仕事体験アプリは、“職業”にフォーカスしたものが大半でした。しかしこのアプリは、あえて企業名(店舗名)を前面に出しているのが特徴です。

さまざまな職業に触れるなかで、子どもは自然とその企業に親しみを覚え、ファンになります。すると、子どもは親に「あの串カツ屋さんに行きたい!」などとアピールするようになるんです。つまり、「ごっこランドⓇ」内に存在する企業は、子どもを通じた親へのアプローチを実現できるわけです。実際、私の子どもがそうでしたから、その効果の大きさは私自身が実感しています(笑)。

データの活用が進めば、消費者の選択も変化する

——日本におけるベビーテックを取り巻く環境は、この1年で大きな変化を遂げました。そのなかで、最大の変化は、何だとお考えでしょうか?

難しいところではありますが、いちばんは言葉の認知度ではないでしょうか。この1年、「ベビーテック」がメディアでも多く取り上げられ、一般の方にまでその言葉が浸透してきました。

その時流に乗って、「日本初のベビーテック製品」というキャッチフレーズを掲げたプロダクトが誕生したのも昨年夏のことです。

今後も、多種多様なベビーテックの製品が生まれてくるでしょう。そこには、声のインタフェースによって、子どもの利用も広がっているスマートスピーカーから取得した情報や、表情認識技術によって取得した赤ちゃんの感情のデータが活用されるケースもあるのではないでしょうか。

たとえば、ベビーテック製品のカメラと表情認識技術を組み合わせて、赤ちゃんの感情を分析・収集します。このビッグデータを活用すれば、これまでブラックボックスになっていた「赤ちゃんのインサイト」がわかるようになります。同データを基に商品開発やサービスを考案すれば、“本当に赤ちゃん自身がほしいもの”が形になる日も来るかもしれません。

これまで親が“感覚”で選んでいたものを、赤ちゃん目線で選べるようになる。それが実現すれば、消費者の選択も変わってくるのではないでしょうか。

永田哲也さん
株式会社パパスマイル 代表取締役 永田哲也さん

昨年の段階では、言葉だけが先行していた「ベビーテック」。しかし現在、技術力と発想力によって、日本は世界トップレベルのプロダクトやサービスを生み出しています。ベビーテックの分野を日本が牽引することができれば、そこに新たに大きな市場が生まれる可能性も十分にありそうです。

Written by:
BAE編集部