リアルタイムで動画を配信する「ライブ配信」が、デジタルネイティブの若者たちを中心に人気を集めています。
最大の特徴は、“ライブ(生)”であること。ユーザーがリアルタイムで配信者とコミュニケーションできる点にあります。では、そこにはどんな効果やメリットがあるのでしょうか?
若者向け動画メディアのパイオニアであり、昨年からライブ配信サービスをスタートしたC Channel株式会社の執行役員・丹羽 歩さんに「ライブ配信の特徴や優位性、企業が活用する上でのポイント」などを聞きました。
ライブにしかない「縦と横のつながり」が生む効果
――若い女性向けの縦型動画メディアとしてスタートした『C CHANNEL』は現在、HOW TO系の動画で人気を集めています。さらに昨年10月からライブ配信のサービスも始めました。その背景について教えてください。
LINEのビデオ通話などによるコミュニケーションに代表されるように、近年、スマホを使ったリアルタイムでの1to1のコミュニケーションが拡大しています。「ライブ配信」もその潮流のひとつとして捉え、「見たい、または配信したいユーザーのニーズがある」と考えて、昨年からサービスを開始しました。
また、ライブ配信全体の現在地という意味では、タレントやインフルエンサーはライブ配信によって、既存ファンとの交流だけでなく、新規ファンの獲得にも成功しています。一方、企業の場合は、プロモーションを軸に、商品販売、ファンとの新しいコミュニケーションの場として活用するなど、配信者の目的に合わせて利用されている印象があります。
――「ユーザーのニーズ」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
現代の若者たちには、「リアルタイムで感動を共有したい」と考えているユーザーが多くいます。だから音楽業界も、CDは売れないけれど、ライブは盛況という状態にありますよね。
ライブ(生)の強みは、インタラクティブな点にあります。テレビのように一方通行ではなく、掛け合いがある。これは音楽のライブでもそうですし、「ライブ配信」においても同様です。
テレビを見ながらSNSで実況してユーザー同士が盛り上がることがありますが、これを私は「横のつながり」と呼んでいます。一方でライブ(生)は、そこに「出演者とユーザー」のコミュニケーションを加えた「縦と横のつながり」で構成されています。だから臨場感も感動も、より大きくなり、ファン化も促進されるわけです。
インフルエンサーがライブ配信を積極的に利用するのも、この“ファン化につながる”というメリットを感じているからでしょう。
――「縦と横のつながり」は、エンゲージメントの向上にもつながっていそうですね。
はい。まさにエンゲージメントを高められるのは、そのまま「ライブ配信の最大の強み」と言えます。それほどに、“生の感動”“生の結びつき”というのは、強い絆を生み出すんです。
そしてその特性を生かしたビジネスとして、特に中国で盛り上がっているのが「ライブコマース」と言えます。そこで注目されているのが、中国版インフルエンサー「KOL」です。彼らの影響力は大きく、すでに商品の認知拡大や販売において、重要なキーパーソンという位置付けになっています。
なお、日本より中国の方が「ライブコマース」が伸長している理由としては、通信技術の発展が著しく、動画やライブを視聴しやすい環境が整っていること、また“キャッシュレスの普及”という社会的な背景も影響していると考えています。中国は偽造通貨が流通した過去があるため、現金より電子マネーへの信用度が高い。その結果、若者からシニアまで、誰もがキャッシュレス決済を利用する国になりました。
しかし日本ではまだまだ現金が強く、「キャッシュレス決済=(電子マネーではなく)クレジットカード」と考える方も多く、特に若年層では、ネット決済できないユーザーが多く存在していることもひとつの要因と考えています。
そうした問題が解決されると、日本における「ライブコマース」もさらに加速するのではないでしょうか。
イベントをアップデートする「ライブ配信」
――ライブコマースも含め、企業が「ライブ配信」を活用するメリットは、どんな点にあるのでしょうか?
ライブコマースは、テレビ通販やフリーマーケットのオンライン版と言えます。その最大の違いであり、メリットになるのが、「誰が購入したかがわかる」という点です。データドリブン時代の現代において、データの取得は大きなメリットです。性別、年齢、嗜好性などのデータから見えてくるものは、企業にとって重要な資産になるでしょう。また「何がいくつ売れたか」リアルタイムで把握できますから、効果測定しやすいのも利点のひとつです。
加えて、ライブ配信は“編集不要”の動画コンテンツですから、通常の動画コンテンツよりもスピーディーにコンテンツ化できる点も魅力と言えるでしょう。
もしかすると、「ライブコマース(ライブ配信)」を、企業によっては新しい試みだと感じるかもしれませんが、デジタルネイティブの若い世代にとって、「動画を見ることは普通のこと」です。むしろ、動画で情報を取得することに慣れた彼らにとっては、「動画やライブ配信」の方が“利便性が高い”と捉えている印象すらあります。
今後5Gが普及すれば、さらにその流れは加速するでしょうから、もし若年層にアプローチしたいのであれば、認知向上、商品ベネフィットの訴求には、「ライブ配信」は非常に有効なアプローチのひとつになりえるでしょう。
――では、配信における注意点とは、どのようなところにあるのでしょうか?
「ライブコマース」の場合、商品を売る以上、「売り手」役の出演者が必要になります。商品の特徴を説明しながら、さらにユーザーの質問にリアルタイムで回答していく。そのスキルは誰でも持ち合わせているわけではありませんから、必然的に配信に慣れたインフルエンサー、『C CHANNEL』の場合は人気クリッパーということになります。
そこで重要になるのが「誰に出てもらうか」です。コスメなら、コスメ好きのインフルエンサーをアサインすべきですし、ジャンルに適した人選が必要です。
ちなみに、ライブコマースの場合、洋服よりコスメの方が売りやすい傾向にあります。なぜなら「洋服はわからない」要素が多いからです。特にサイズ感などは、着てみないとわからないため、その場で購入しづらいようです。
――ちなみに、ライブコマース以外に、企業がライブ配信を利用する例はありますか?
はい。ライブコマースだけでなく、「イベントのライブ配信」について興味を示している企業は多いですね。弊社では毎年「Super! C CHANNEL」というイベントを開催しているのですが、このイベントはライブ配信も行うことで、幅広いユーザーとコミュニケーションできる設計になっています。
昨年は来場数延べ約1.2万人、ライブ視聴者数は約25万人を記録しました。イベントは本来クローズドな場ですが、ライブ配信を併用することで、会場のキャパ以上の多くのユーザーと、リアルタイムで深くつながることを可能にしました。
これにより、これまでイベントといえば“口コミ期待”の場でしたが、ライブ配信を組み合わせることで、エンゲージメントを高めつつ、同時にSNSによる拡散も期待できる場へとアップデートすることができました。
企業ブランディングに「ライブ配信」を利用するメリット
――今後、企業が「ライブ配信」をブランディング目的で利用する可能性については、どのようにお考えでしょうか?
ブランディング目的の場合も、自社または自社ブランドのファンであるインフルエンサーがいれば、そのインフルエンサー独自の視点で語ってもらうのがベストな選択だと思います。しかし、もし該当者がいない場合は、少しハードルは上がるかもしれません。たとえばTwitterの企業アカウントにも「中の人」がいますが、顔出しはしていませんから、出演できない可能性もありそうですよね。さらにユーザーの質問にリアルタイムで回答する必要もあることを考えると、「誰を出すか」は非常に悩ましい問題だと思います。それでもぜひ、イベントのライブ配信などから、トライしてみてほしいと個人的には思っています。
なぜなら、ハードルの高さは確実に存在するものの、実現できれば、「ユーザーとエンゲージメントを深められる」という大きな収穫が待っているからです。
――すでにニコニコ動画では、ゲーム開発者が生で出演し、ユーザーの疑問に答えるような番組も人気ですよね。
はい。やはり製品について、いちばん詳しいのは「中の人」ですし、その人しか知らない商品の裏側や秘話があるものです。それにユーザーにとっても、リアルタイムで、何を聞いても答えてもらえるなんて、こんなにうれしいことはないですよね。そこで生まれる“生のつながり”は、ユーザーのファン化につながりますし、中の人にとっても、普段なかなか聞けないユーザーの生の声を知る機会にもなります。
一方で、生放送であるライブ配信には課題もあります。なぜなら「企業側のコントロールができない」からです。たとえば、予期もしない質問が飛んで来た際に、回答できるかどうか、という問題もあるでしょう。
そして、そうしたトラブルがライブ配信にはつきものです。ですが、ピンチはチャンス。その対応によっては、もっとユーザーが企業を好きになってくれることだってあるのです。ですから個人的には、ぜひ広い視野、かつ寛容な心で「ライブ配信」をさまざまな形で活用してもらえたらと思っています。
ライブ配信は、企業とユーザーのリアルタイムコミュニケーションを実現。ライブにしかない「縦と横のつながり」によりエンゲージメントを深めます。今後5Gの普及によりさらに広がると言われる動画市場において、ライブ配信は今まで以上に幅広い場面で活用されていくでしょう。
- Written by:
- BAE編集部