2019.08.16

次世代IoTやモビリティ社会の進化のカギを握る「ワイヤレス充電」 に画期的な技術が誕生

「どこでも充電部屋」が叶える電源コードなしのライフスタイル

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  • 私たちの生活の利便性を向上させるIoTやモビリティ。活用の際に通信技術と同様に重要視されるのが、各機器への給電システムです。スマホやスマートスピーカー、電気自動車など、どれも毎日使うには、現状ではマメな充電が欠かせません。この手間を面倒に感じる人は少なくないでしょう。
    今後、通信と同様に、エネルギーの供給のワイヤレス化や自動化は実現するでしょうか。本年6月に配線やコードを使わずに磁界を利用して電子機器に給電する、画期的な技術(通称:どこでも充電部屋)を開発・発表して話題となった、東京大学大学院工学系研究科の教授・川原圭博さんと、笹谷拓也さんにお話を伺いました。

    目次

    部屋に入るだけでスマホが充電される技術が登場

    ——先ごろ研究室から発表された、磁界を使ったワイヤレス充電技術は、工学分野はもちろん各種メディアでも大きな話題となりました。「どこでも充電部屋」とも呼ばれる、こちらの研究内容について教えてください。

    笹谷

    簡単に言うと、部屋の天井と壁と床に送電機器を埋め込んで磁界を発生させ、室内空間に電力を送ることで、スマホなどの電子機器を充電できる仕組みです。

    3m四方の部屋全域でワイヤレス充電が可能。部屋に入るだけでスマホが充電されていく 
    写真左が実験部屋の全景。床、天井、壁に金属板を埋め込み、送電共振器として利用する。駆動コイル(写真右)を起点に、室内の全域に磁界が発生する
    写真左は電源装置。写真右のスマホにセットされているのが受電器であるコイル型共振器
    笹谷

    「マルチモード準静空洞共振器(Multimode QSCR)」と呼ばれる送電構造で、広範囲に数十ワット程度の電力が送れます。2017年に「Disney Research」(ディズニーの映画やアトラクションに応用される技術を研究する施設) が考案した「準静空洞共振器(QSCR)」という技術がベースですが、従来のように室内に大型の機器(導体棒)を設置する必要をなくしました。

    室内を磁界で満たす構造を示した図
    室内を磁界で満たす構造を示した図。広範囲に磁界の流れを生み出す革新的な送電構造を考案したことで、室内のどこでも充電が可能。また、従来は難しかった小さい機器への充電を実現

    ——実装されれば、スマホやスマートスピーカーなどが自動で充電されるほか、照明などもコードレスにできるのですね。

    笹谷

    はい。将来的には、部屋のどこにあっても電池が切れないIoTシステム等への応用が期待できます。
    安全面については「ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)」のガイドラインによる基準の範囲内で実験を行っています。なお、現状では冷蔵庫や洗濯機など、大電力を使う機器は充電できません。これらの充電には非常に強い磁界が必要で、安全性とのバランスが崩れてしまうためです。

    ——今回の実験で、安全かつ実用性の高い状態が実現したということでしょうか。

    川原

    はい、大きな空間で小さな機器に安全に電力を送ることはこれまで困難でした。例えば、スマホは小さいけれども、電力の消耗の早いデバイスです。そこにうまく充電できたという点は、学術的にも実用の面でも、非常に意味があります。

    「浮遊するデバイス」や「充電なしの電動バイク」も可能に

    ——このシステムが家庭に実装されると、暮らしにはどんな変化が起きるでしょうか。

    川原

    充電はもちろん電池交換や配線の手間もなくなり、家電などはコードがなくなるだけでも、使い勝手が大幅に変わるでしょうね。これまでにないデザインの機器も誕生すると思います。例えば「浮遊するデバイス」などの実現が可能です。モニターなどは使う際に室内に浮かせて、天井に収納できるようになるかもしれません。

    笹谷

    研究室では実際に「空中に浮かぶ照明」に関する予備実験を行っています。コンセントや電源なしで常時点灯、位置なども自在に動かせるというイメージです。

    白いバルーン状の球体が照明機器のモデル。1メートル程の高さに浮いていると仮定した状態での実験中の様子
    川原

    自律型ロボットや、IoT家電同士の連携も進化するでしょう。店頭や家庭用のロボットを見たことがあると思いますが、現状はバッテリーが不可欠で、その分の大きさや重量が増しています。ワイヤレスで充電できれば、軽量化・小型化、また長時間の稼働が実現でき、本体の機能向上や普及に繋がるでしょう。
    掃除ロボットなどのIoT家電も、バッテリー切れや充電の心配をせずにすみます。一度セットすれば、日々の家事は家じゅうのロボットと家電が協力して請け負ってくれる、といったことも、夢ではなくなるでしょう。

    ——実現すれば、ライフスタイルや家事にまつわる時間の使い方なども大きく変わりそうですね。室内だけではなく、屋外でもワイヤレス充電は可能になるでしょうか。

    笹谷

    「充電部屋」の技術を応用する場合、要するに天井と壁と床を覆えばいいので、考え方によっては十分可能です。実験では壁面に電流の流れやすい厚手のアルミ板を使用しましたが、より薄いアルミ板や網のような素材も使えます。給電性能とはトレードオフになるものの、素材や形状を変えた、様々なデザインが考えられるでしょう。
    駅や空港などの公共機関に充電スペースがあれば便利です。効率化、軽量化が実現すれば持ち運びもできそうで、イベントや災害時の給電などにも役立てられると思います。

    (写真右)東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授 川原圭博さん (写真左)東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程 笹谷拓也さん

    ——家電業界だけではなく、住宅メーカー等とも親和性が高そうです。電気自動車への充電などにも関わってくるでしょうか。

    川原

    電気自動車への充電は今後必ず求められる技術だけに、すでに様々なメーカーや研究機関が検証を行っています。今回の充電部屋のような方法をベースにするならば、車庫での充電などができると思います。
    車体の底面に給電装置を設置して、高速道路の走行中や信号待ちの際に電力を補給するといった仕組みなど、今回の提案方式とは、また異なる実現方式も提唱されています。

    ——満充電でも数十キロしか走れない電動スクーターなどは便利になりそうです。ワイヤレス充電は、モビリティ社会の変革をリードする技術と言えるでしょうか。

    川原

    はい。実はワイヤレス充電の研究は、小型のモビリティと街作りには特に関わる分野です。米国では電動スクーターのシェアリングサービスが当たり前になってきましたし、国内でも各地で電動自転車のシェアが拡大しています。ただ、これらを維持するには、人的なリソースとコストがかかります。現状ではメンテナンスの他に「人がバッテリーを回収して、充電して、戻す」作業が必要だからです。

    この課題に対して、無線給電が一つのキーになると考えています。街中の充電スポットで小回りのきく乗り物などを気軽に充電できれば、シェアエコは拡張できるでしょう。

    研究室から考案された給電システムの一つ。パネルを繋げて充電スペースに。屋外への設置も検討される
    川原

    重い物を運ぶのに、街角に置いてあるカートを借りたり、短距離を電動キックスクーターで移動できれば、人の選択肢や行動、移動にまつわるコストも一新できます。あと数十年のうちに次世代のパーソナルモビリティが普及して、街中でワイヤレスで給電を受けて走れるようになるでしょう。
    充電スポットの設置位置などによっては、集客やPRにも活用できるかもしれません。

    街中での活用のため、研究室とメルカリが共同開発した、空気でふくらむパーソナルモビリティ「poimo(ポイモ)」(試作品)。8月に竹芝地区(東京都)で技術展示を行う

    2030年頃にはワイヤレス充電が生活の一部に

    ——その他のジャンルでも、ワイヤレス充電に関する研究は進んでいるのでしょうか。

    川原

    内視鏡や遠隔医療ロボットなどの医療機器との連携や、ドローン開発との連携についても、具体的な検討が進んでいます。ドローンはワイヤレス充電で飛び続けられるようになれば、物流はもちろん、災害時の救護活動などに革命が起きるでしょう。
    また、超小型の浮遊デバイスや、ハサミで切ったり、折り紙のように折ったりできる給電シートなどのアプリケーションも開発しています。

    ——今日伺ったような充電の技術が社会へ実装・浸透するまでには、どのような課題が考えられるでしょうか。

    笹谷

    「充電部屋」に関しては、より広い部屋で効率よく電力を送るためのシステム改善を行っていきますし、装置の小型化・軽量化にも取り組んでいます。安全で便利な技術だということを、より多くの人に知ってもらいたいですね。
    「給電」という見えないものを受け入れてもらえるデザインや、気持ちよく使ってもらう仕掛けなども考えていく必要があると思います。

    川原

    全体の課題としては、技術の促進や安全性の担保と並行して、電波法令上の整備や、国際標準規格化などを進める必要もあります。
    一例として、総務省の発表では、2030年頃までに、短距離・小電力のコードレスな屋内外での給電が実現して、バッテリーレスなネットワークが組める。電気自動車等へのワイヤレス充電ができるようになる等の内容が示されていますが、産官学が協力すれば、十分実現可能なイメージでしょう。

    参考:「2030年代に向けたワイヤレス技術トレンドとイノベーション促進」(2018年1月・総務省発表資料)
    参考:「2030年代に向けたワイヤレス技術トレンドとイノベーション促進」(2018年1月・総務省発表資料)
    川原

    次世代の充電イメージは技術的にはほぼ出揃っていて、機器に対して最適化していく段階に来ています。電子機器も、家電も、乗り物も、通信ケーブルだけではなく、電源コードや充電設備から自由になれなければ、本当の意味での「次世代ワイヤレス」とは表現しにくいでしょう。
    今後も、社会変化や必要とされるシステムを見極めながら、実社会で使える技術を開発していきます。世界中の人々を充電から解放することでライフスタイルを便利に変え、より豊かな社会の実現を目指したいですね。


    効率化の実現と利用の拡大が見えてきたワイヤレス充電。電子機器や家電を中心としたIoTの進化に伴い、今後、より求められることとなり、さらに、パーソナルモビリティやドローンなどを活用した、モビリティ社会の形成にも大きく関わる技術と言えるでしょう。
    今後は本格的な実証実験などによって、“コードレスな生活”のイメージの共有が進められると、ワイヤレス充電は身近な技術の一つとなり、私たちの生活の中に浸透していくでしょう。

    Written by:
    BAE編集部