2019.11.26

コト消費の次は「イミ消費」?――シフトする食の消費価値観

2020年、外食トレンド予測

「消費はモノからコトへ」といわれるようになったのは、2000年代初頭のこと。「モノを売るのでは、経験・体験することの価値を訴求することによって商品サービスの消費が促されることが重要」といわれました。そして近年、2020年を目前にして、日本では「コト消費からイミ消費へ」とシフトが起こっているそうです。

その背景や活用する効果、そして来年の“食のキーワード”について、「イミ消費」の生みの親である、ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリスト 竹田クニさんにお話を聞きました。

目次

消費者はいま、他者や社会に貢献することが大切と考えている

——まず、竹田さんが名付けた「イミ消費」の誕生の経緯について教えてください。

近年、人や社会への貢献や、地球に優しいことを重視する消費者が増えています。こうした価値観は、従来のモノ消費ともコト消費とも違う。そこで私は「イミ消費」と名付けることにしました。内閣府の調査を見ても、「食」においてこうした価値観が浸透していることは明らかでしょう。その流れは現在、外食トレンドの分野にも広がりを見せています。

内閣府が調査したデータの結果

他者支援や社会貢献、健康維持増進、文化の継承などの価値が、消費行動や商品に付帯していて、それを意識的に選ぶ消費行動を「イミ消費」と定義しています。

イミ消費とは、非常に広い範囲におよぶものですが、最大の特徴は、消費行動そのものに貢献感や、自分の支持する活動に参加できたという満足感が得られる点にあります。

少し価格が高くても、こうした「イミ消費」を選択する行動は、「モノ消費」=何を待つか(have)、「コト消費」=何をするか(do)とは異なり、どうありたいか(あるべきか)?という「消費のあり方」(be)を問うものであり、まったくの別物といえるでしょう。

——なぜ、「イミ消費」を求める消費者が増加したのでしょうか?

もともと以前からそういった傾向はありましたが、東日本大震災という未曾有の災害を体験したことをきっかけにその意識が強まったといえます。また近年の甚大化する自然災害などの経験によって、さらに「地球市民として正しい消費をしよう」という気持ちが加速し、定着してきたわけです。

こうした消費価値観の変化は、世界的な潮流といえますが、誰かが旗振り役となって仕掛けたトレンドとは異なります。飲食業界でも、こうした潮流を取り入れ、店や商品の「あり方」を訴求する先進的で意欲的な飲食店が徐々に登場してきています。

消費価値観の大きな変化

イミ消費は、トレンドや一過性のブームではなくて、消費者の価値観の進化ですから、外食産業だけでなく、内食や小売などを含めた食産業全体が向き合うべき課題ともいえます。ですから、「モノ消費」「コト消費」がなくなるわけではなく、依然としてどちらも存在するものと思われますが、「イミ消費」は今後長期的に拡大、定着していくと考えています。

——実際、飲食店は「イミ消費」をどのように取り入れているのでしょうか?

たとえば横浜にある居酒屋では、人気商品である「地元産の生しらす」の売上の一部が海洋資源保護活動へ寄付されるという取り組みを実施し、多くの支持を得ています。また、あるチョコレートメーカーは、原料となるカカオ豆生産国の教育支援に寄付を行う「フェアトレードチョコレート」なる商品を販売しました。どちらも、自らの消費が「人の役に立つアクションにつながる」ことが消費者の共感を生みました。

地域と食の視点では、市民農園で作った野菜をプロの料理人が調理するレストランが話題となっています。食品を無駄にせず、地域のサスティナビリティに貢献するというコンセプトが消費者から支持されているようです。

健康維持増進でいえば、化学調味料の不使用や、糖質や塩分、食物繊維などの栄養素を積極的に表記するなどの取り組みが、健康への意識が高い消費者の共感を得ています。「外食=不健康」なのではなく、心も体にも良い効果訴求があることが、来店促進につながっているのでしょう。

しかし、「イミ消費」が売上に直結するかどうかは、また別の話です。それでも「イミ消費」に取り組むメリットは、店の経営理念に対する共感を生み、消費者のファン化につながる点にあります。

事例として挙げたイミ消費的な取り組みは、どれも手間やコストがかかっています。しかしこうした取り組みは、社会の中で「どんな価値を提供する店なのか?」という企業価値を示すものといえます。つまり、流行っているからやるのではなく、企業としての姿勢・あり方を示すことを目的とすべきと考えます。

現在、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、世界が動き始めています。その波は飲食業界においても同様で、プラスチック製ストローの廃止などはまさに、その代表例といえるでしょう。イミ消費が現在、注目されている理由のひとつには、そうした時代背景も関連しています。

ですから「イミ消費」に取り組むことは、飲食業界だけでなく、さまざまな企業にとって、プラスに作用すると私は考えています。

2020年の外食のトレンドキーワードは?

——「イミ消費」は、現在における食のキーワードのひとつです。来年以降の外食のトレンドがあれば、教えてください。

消費価値観の変化は大きな潮流をつかむことは重要ですが、外食産業にはミクロないくつかのトレンドが存在し、飲食店の経営においては、トレンドを踏まえた商品開発や販売促進も重要です。

来年のトレンドについて、いくつかご紹介しましょう。

ポータグルメ「ポータブル(持ち運びできる)」+「グルメ(おいしい)」

テイクアウト、デリバリー市場が拡大。人口減少、高齢化、世帯数の減少と分散化などの社会背景から「食のモビリティ」は、大きな市場発展が予想されます。一方、飲食店は「お店を訪れる価値」が問われるようになっています。

また、ポータグルメ拡大のもう一つの理由として、「こだわらない日常の食事では、より時間効率を重視して、簡単かつ美味しく食べたい」というニーズの変化にも注目です。その背景には、テクノロジーの進化が、時間効率=タイムパフォーマンスを重視しながらも、クオリティの高い食を提供することを実現したことも影響しているでしょう。

グローバル化 「お客様」も「従業員」もグローバル

2020年には、関東地方の全人口約4350万人に迫る4000万人の観光客が日本を訪れるといわれています。さらに近年では、外国人観光客だけでなく、外国人定住者も増加を続けています。さらに2019年4月の入管法改正で、「特定技能」という新しいビザ発給が実施されると、現在より多くの外国人労働者が日本で働くようになります。

これからの外食業界にとって、「お客様」としてだけでなく、「働く人々」としても外国人が増えていくことは、市場も労働市場も「グローバル化」していくことだといえるでしょう。そしてこのことは、外国人ばかりではなくシニア、主婦、短時間労働者など多様な考え方や働き方を受け入れる社会、つまり「ダイバシティ」の実現にほかなりません。

来年以降、日本は東京五輪(2020)、さらにワールドマスターズゲーム/中高年齢者の国際総合競技大会(2021)、大阪万博(2025)と国際的イベントも続き、日本の市場はますますグローバル化していくことが求められています。

ジャパンプライド(昭和回帰、日本回帰、地方回帰)

昭和回帰の大衆酒場、国産食材を使ったメニュー・ドリンク、地域再生モデルとしての農場レストランなどが共感を得ています。日本が持つ文化的な価値を再認識・再発見に味わうことに、貢献感や満足感を得る。またこうした日本の価値を、世界に発信する機会に恵まれる2020年に、一層高まると予想されます。

本物、素材感

高級食パンや高級卵サンドなど、本格的な素材や優れた職人の技術にこだわった商品が人気。価格は一般の商品よりも高価ながら、行列も生まれるほど消費者の支持を集めています。バブル時代の「高級品志向」とは異なるもので、特にこだわらない食事や品物は安価な汎用品でも、自分が好きな、こだわりたい食には思い切って消費するというメリハリが感じられるのが特徴といえます。

極み、進化系

商品の特徴的な具材や成分を、量や質で極端に際立たせた商品が数多く登場しています。「極み」は、メガ盛りや厚切り、激辛、強炭酸、強アルコールなどで、視覚的なインパクトが大きく、SNS映えもポイント。「進化形」は、丸ごと生絞り、産地限定、フローズン、無農薬など、普及品とは異なる本格的な味わいや背景にあるストーリーが支持されています。

おひとり様 「孤食化」と「個食化」

ひとりで食事をする「孤食化」。一方で「個食化」は、たとえば家族で食事の際でも一人ひとりが別々のメニューを食べるというものです。ライフスタイルの多様化に対し、少量で多様、便利なメニュー・惣菜が提供することが求められています。

テクノロジー活用 ~生産性向上策のひとつとして~

「IT化」ですと、キャッシュレス、予約管理、シフト管理、経営分析、来客分析・予測、SNS活用など、「機械化・ロボット化」ですと、厨房機器、翻訳機などが挙げられます。こうしたテクノロジーの活用は、業務の負荷軽減、業務クオリティアップだけでなく、その分別の仕事の時間創出などメリットが大きいものです。

今後飲食店は、テクノロジーを活用しつつ、メニュー(調理技術・提供方法)、食材の質、ストーリー、空間の魅力、接客などを、いかに付加価値向上につなげるが重要です。そしてその付加価値の向上には、「イミ消費」のような大きな価値観の潮流を踏まえつつ、トレンドを上手く取り込んでゆくことが重要となります。

ホットペッパーグルメ外食総研エヴァンジェリスト 竹田クニさん

CSRやSDGsに配慮した取り組みが企業に求められる現代において、消費者の価値基準も「モノからコトへ」そして「コトからイミへ」と変化してきています。「イミ消費」という潮流の背景にある消費価値観の変化、そして飲食店ならではの付加価値を踏まえた店舗づくり・事業展開をしていくことがポイントになってくるでしょう。

Written by:
BAE編集部