近年、世界的にクラウドファンディングの市場は拡大傾向にあります。日本では、2016年度から急激に伸び始め、現在も成長を続けています。
なぜ、いまクラウドファンディングが多くのユーザーから注目を集めているのでしょうか。そこには現代ユーザーのどんなインサイトがあり、どのような活用法があるのでしょうか。クラウドファンディング業界においてパイオニア的な存在である、株式会社CAMPFIRE 林田 憲志朗さんにお話を聞きました。
成長が見込まれる「国内クラウドファンディング市場」
——まず、クラウドファンディングの概要と、市場が拡大している背景について、教えてください。
クラウドファンディングとは、群衆(クラウド)と資金調達(ファンディング)を組み合わせた造語です。2000年代のアメリカで誕生し、急速に市場が拡大していきました。
言葉自体は新しいですが、不特定多数の人から資金を募り、何かを実現するという手法自体は昔から存在していたものです。たとえば、これは有名な話ですが、アメリカの「自由の女神」も独立100周年を記念して、世界中から寄付を募り建設されたものです。プロジェクトを立ち上げ、資金を募る。仕組みはクラウドファンディングとまったく同じですよね。
日本でも寺院や仏像などを造営・修復するために個人からの寄付を求める「勧進(かんじん)」がそれに該当します。
いま挙げた事例は、クラウドファンディングにおいては、どちらも「寄付型」に分類されます。また、この他に「購入型」「融資型」「株式型」「ファンド型」「ふるさと納税型」の計6つのタイプがあるといわれています。なお、一般的に認知度が高いのは、支援した人へのリターンのない(お礼や活動報告はある)「寄付型」と、リターンとしてモノやサービスを得られる「購入型」です。
アメリカでクラウドファンディングが浸透した背景には、「寄付大国」と呼ばれる土壌があったことも影響していると考えています。日本では東日本大震災を機に、急激に寄付文化が浸透し、そのなかでクラウドファンディングが新たなチャネルとして活用されたことで、注目を集めることとなりました。
——世界的に注目を集める「クラウドファンディング」。その市場規模について教えてください。
世界のクラウドファンディング市場は、2019年に6兆9,000億円に達すると見られており、取引額の成長率は年間17.1%増(2019〜2020年)で、2022年までに総額11兆円を超えると予想されています。
日本国内のクラウドファンディング市場規模は、2017年度(2017年4月~2018年3月)の新規プロジェクトの支援額を元に見ると、前年度と比べて127.5%増の1,700億円。さらに2018年度には、2,000億円を突破する見込みです。
クラウドファンディング市場において、日本は後発、“まさにこれから”の段階にありますから、今後の成長もまだまだ期待できると考えています。
現代のユーザーニーズを知ることができる新たな場
——クラウドファンディング上で人気のプロジェクトは、現代ユーザーのニーズが反映されているとお考えでしょうか?
はい。日本においては東日本大震災の被災者支援として活用され始めた経緯がありますから、当初は「被災地にお弁当を届けたい!」というプロジェクトが即日で目標金額を達成するなど、“協力”“助け合い”という文脈でのプロジェクトが人気傾向にありました。
これは当時の日本全体の課題でもありましたから、クラウドファンディングの動向にも、世相は反映されていると感じます。
——クラウドファンディング市場が日本でも拡大してきたことで、プロジェクトの内容に変化はありますか?
はい。クラウドファンディングの認知度も向上してきたことで、「自分のiPhoneが壊れたので修理代を募りたい!」など、ユニークなプロジェクトが目標金額を達成しているケースも出てきました。
そのプロジェクトに支援した方は、その後の報告などを見ることで、顔も名前も知らないユーザーと「一緒に楽しむ」という目的があると考えられます。そこには一種、知らないネットユーザーとライブ配信を一緒に楽しむ行為と近い連帯感があるのかもしれません。
——ちなみに、クラウドファンディングを利用するユーザー層とは、どのようなものなのでしょうか?
男女比は約6対4。年齢層は20〜40代が中心で、圧倒的に関東圏在住のユーザーが多いのが特徴です。
加えて、新しいもの好きで、モノより体験を好む傾向にあります。そんな彼らを熱狂させたプロジェクトが「バーチャルシンガー『花譜』のファーストワンマンライブ」でした。目標金額500万円を80秒で達成し、その後も支援は増加し続け、4,000万円(2019年6月初旬時点)まで拡大しました。これは「購入型」のプロジェクトで、支援するとリターンとして、ライブチケットなどが得られるというものです。
そこに私は、日本のアイドルの“推し文化”と同じものを感じています。楽曲より、握手券を目当てにCDを購入する。付加価値があり、参加型のものがユーザーの支持を得る。それと同じことが、クラウドファンディング上でも起きたわけです。また、世間的に有名でなくても、熱狂的なファンがいれば、プロジェクトが成立している点は、ファンマーケティングに通じるものがあります。
そのため、購入型、投資型にかぎらず、クラウドファンディングにおいては、いかにそのプロジェクトの背景やストーリーを、支援者に伝えられるかがとても重要な要素になってます。
——クラウドファンディングにおいても、“ファンマーケティング”は重要なキーワードになっているのですね。
はい。Vチューバーだけではなく、インフルエンサー的な存在の方がプロジェクトを立ち上げて、目標金額を達成するケースも増えています。たとえば、芸人の西野亮廣さんはCAMPFIREでさまざまなプロジェクトを立ち上げ、成功している代表格ともいえるでしょう。
さらに2017年から自治体がクラウドファンディングに参入したことで、地域活性化を目的としたプロジェクトも増え、人気を集めています。そこには日本的な「互助会文化」というか“助け合い”の精神が息づいているように思います。
ですから、クラウドファンディングというプラットフォームは、情報感度の高いユーザーが「いま何に興味を持っているか?」を知ることができる新たな場としても活用できるわけです。
今後、テストマーケティング利用はさらに拡大
——最近、企業がクラウドファンディングを利用するケースが増えているのも、そうした背景を受けてのことなのでしょうか?
そうですね。すでにアメリカでは、リターンとして製品を渡す「購入型」のクラウドファンディングをテストマーケティングに利用することが定着しており、シリコンバレーには専用のショップもあるほどです。
日本ではこれまで、商品開発にお金をかけ、10万個販売することを目指していましたが、「本当に売れるかどうか」は、発売してみないとわからない状況にありました。しかしクラウドファンディングを利用すれば、商品への反響を事前に把握することが可能です。もし反響が大きければ、クラウドファンディングの後、一般発売するという段階を踏むことができます。つまり、これまで許されなかった“失敗”ができる環境が生まれたわけです。
その成功例ともいえるのが、「ラジオ局が本気で作る、今までにないラジオ【Hint(ヒント)】」プロジェクトです。“カッコいいラジオ”というコンセプトのもと生まれたプロダクトを、CAMPFIRE上でテスト的に販売したところ、これが大ヒット。最終的に3,000万円以上を集めました。
——最後に。今後、クラウドファンディングはどのように発展していくとお考えでしょうか?
現在、これまでありそうでなかった「気軽にテストマーケティングができる場」としてのクラウドファンディング活用が広がりを見せています。その流れは今後、さらに加速していくものと考えています。
また最近では、日本のコスプレ文化などが人気を博している東アジアを軸とした、グローバル展開にも注目しています。現地の会社と連携し、すでにプロジェクトを立ち上げたこともあるのですが、反応もよく、日本製品を海外に流通させるプラットフォームとしても、今後クラウドファンディングが活用される可能性もあるでしょう。
弊社としては、より多くの方がクラウドファンディングを利用しやすい環境を整備することで、日本から「お金がないからできない」をなくしていきたいと思っています。
昔からあった仕組みをデジタル上に展開した「クラウドファンディング」。その市場は近年、大幅に拡大しており、参加するユーザーや企業も増えたことで時代の潮流を読み取れる場としての活用が期待されています。そこにはストーリーへの共感、ライブ感や一体感を楽しむ、というニーズがあり、支援者と起案者のエンゲージメントを高める効果がありそうです。
最近では、企業が「気軽にテストマーケティングができる場」としての活用も広がっており、新しい視点での商品やサービスも誕生してくるのではないでしょうか。今後も新しいマーケットとして広がるクラウドファンディングの動向に注目です。
- Written by:
- BAE編集部