シェアリングエコノミーの拡大とともに、自治体や企業などのプラットフォーマー以外が主導するシェアエコサービスが登場しています。個人間出資で展開する、言わば「組合型」のシェアエコはサービスプラットフォーム企業を持たず、個々のコストを抑えることを可能にしました。
今話題となっている共同財布アプリ「Gojo(ゴジョ)」の開発を行った株式会社BrainCat・代表取締役兼CTOの中村貴一さんに人気の背景やそのニーズについてお聞きしました。
グループ内のお金を「見える化」するとQOLが向上する
――「Gojo」は「互助(ごじょ)」からきたネーミングだそうですが、お金をどのようにシェアする仕組みでしょうか。
「Gojo」は複数人のコミュニティで、それぞれのスマホから一つのお財布をシェアできる、無料のコミュニティウォレットです。家族やカップル、また、趣味のサークルなどに所属する人々が、目的のためにお金を協力して貯めたり、必要な分だけ引き出したりできます。応援するコミュニティなどに対して、募金のようにお金を渡すことも可能です。
もともとは、保険に入りにくい人たちのための保険や、相互扶助のシステムが作れないかと考えて、問題解決の一つとして開発しました。日本の古い仕組みの中にも、「Gojo」のような思想を持つものがあります。例えば、銀行の普及前に民間の相互扶助に利用された「無尽(むじん)」「頼母子講(たのもしこう)」などです。
沖縄や奄美には現在も、仲間でお金を出し合って、必要時や困ったときに利用する「模合(もあい)」という慣習があります。今は多くが飲み会などに使われているようですが、県民の約4割が模合に入っているそうですよ。
こういった、民間での個人間融資等を国際的には「ROSCA(ロスカ:Rotating savings and credit association)」といい、国連の実施する貧困対策などでも利用されています。「家族や仲間が必要とするときに助け合いたい」というのは、人間の根源的な要求に結びついているようです。
――海外では似たサービスはあるのでしょうか。また、クラウドファンディングとは、どう違うのでしょうか。
海外ではクラウドファンディングが先行していましたが、「Gojo」のようなコミュニティウォレットはありません。ただ、仮想通貨を使い、イーサリアムというプラットフォーム上でブロックチェーンベースの「ROSCA」を展開している企業があります。
一人または特定の団体でまとまった資金を必要とする場合などには、オンラインサロンやクラウドファンディングが選ばれるようです。マーケティング力があり、広くリーチができますが、お金を集めたあとの管理には向かない場合もあります。「Gojo」はリーチや拡散には現状、不向きです。コミュニティの運営は自治に任されますから、メンバー間に順列などがなくフラットな関係で使われる場合、継続したお金の管理に向いています。実際に、集めた資金管理と可視化を目的に、サロン等から「Gojo」に移るグループもいます。
―― テクノロジーを介した共同財布としての「Gojo」は現在、どんなユーザーにどのようなニーズで使われていますか。
代表的なユースケースは「カップル」「家族」「グループ」の3つです。カップルは同居していたり、結婚準備期間中だったりという場合が多く、生活に関わる共益費のシェアや、結婚式のための貯金などに活用されています。家族間で使われているケースとしては、5人家族のうちの成人した子ども3人が、親の介護費用や実家にまつわる毎月の費用を分担する、といった例があります。グループでは趣味のサークルなどのほか、シェアハウスに住む人々のコミュニティなどのお金の管理に「Gojo」が導入されています。
オンライン上の財布がオフラインでの人々の絆を強める
――同居中の人々などは、細かい支出の分担や記録が便利になりそうですね。
はい。ユーザーへのヒアリングで分かったことですが、「細かな消耗品費をどちらか(誰か)が負担することが多く、モヤモヤしていた」という悩みが「Gojo」で解消されたという意見がありました。
小さな出費をいちいち精算というのは言い出しづらいけど、その出費が自分に続いたら、モヤモヤがたまるでしょう。でも、日用品などを誰も買わなくなるのも困ります。アプリで気軽にワリカンや精算ができれば、生活の質も自然と向上します。「お金の流れがスムーズになると、QOL(生活の質)が上がる」んです。
買った手間が可視化されたり、「いいね!」のリアクションができることで、気持ち的に報われる、という話もありました。
ちなみに、ユーザーの男女比は6:4で女性が男性を上回り、カップル間では、「Gojo」の導入を提案するのは女性側が多いようです。女性のほうが細かいお金の管理や記録への関心が高いのかもしれません。
――その他に、「Gojo」のユースケースやユーザーの特徴などはありますか。
趣味や興味で繋がった人々に使われるケースもたくさんあります。例えば、有名な銭湯の壁画イラストレーターの方が所属する銭湯ファンのコミュニティは、メンバーが全国にいて、イベント費用の管理や相談などに「Gojo」を利用されています。面白いところでは、東京のUber Eatsのドライバーたちが集まり、待機スペースを共同で借りているという例もあります。夢の実現や独立のためにお金を貯めている人たちもいます。フリーランスで働く人同士が集まって、万が一の未払いや、新しいことに挑戦したいときなどに、サポートし合うといった形です。
多くのコミュニティがツイッターやフェイスブックで積極的に交流していますが、「Gojo」内のコミュニティの場合、オフラインでの集まりもマメであることが特徴です。
彼らの特徴は、とにかくエッジなサービスに興味を持っていて、最先端の生き方をしていることです。個人間送金サービスやキャッシュレスペイメントなども、積極的に活用したいと考えていますね。
拡張型家族から見える「コミュニティへの所属欲」とは
――運営を通して見えてきたインサイトなどはあるでしょうか。
目立つ要素は二つですね。一つは、現代でも多くの人に「何らかのコミュニティに属したい」という欲求があること。金銭的な関わりを保ち、その管理を行うことは、繋がりを保つための大切な要素の一つであるという点です。
もう一つは、シェア文化の拡大です。お金、物はもちろん、考え方や目標なども、自分だけが所有するより、大勢でシェアできるコミュニティを実現するほうが幸せ度が上がると考える人が、増えているようです。シェアハウスでの暮らしや、血縁があっても、なくても、自由に協力しあって誰かと暮らすという「拡張型家族」がそれにあたります。
場所にもよりますが、既存の町内会や地域の互助会など、社会的な慣習に基づく繋がりは昔よりも薄れています。しかし、既存のスキームからはみ出したところに、多くのコミュニティやグループが生まれています。
それらの信頼性を高めて、繋がりをより強固にする大切な要素の一つが金銭面の管理です。全員でお金をプールしてやりくりをすると、結束は自然と高まって抜けにくいでしょうし、「今月は予算が余ったから飲み会やイベントを1回多く開こう」という話にもなると思います。それが、連帯感を生む心地よさや、家族的な安心感に繋がる可能性もあると思います。
――夢や生き方の実現に「Gojo」が活用される例も増えているようですね。
はい。例えば、地域の町内会はほとんど機能していなくても、地域を大事にする若い世代が集まって、町おこしや困りごとを解決する「ネオ町内会」のような地域包括ケアシステムを形成するコミュニティもあります。田舎で農業ボランティアをしたいとか、荷物を持たずに定住しない生活をしたいといった願望を行動に移す人々もいます。
収入は低くても、みんなのためになることや夢を叶える生き方で充実を感じる「意味報酬」を重要視する人が増えていることも、コミュニティの結びつきが求められる理由の一つでしょう。特にミレニアル世代は行動力が高く、金銭的な価値にとどまらない幸福を意識していますね。
――新しい価値観に沿うシェアリングエコノミーは、今後も拡大するでしょうか。
シェアエコ自体も増えていくと思いますし、「シェアリングエコノミーをシェアする」流れも生まれてくると思います。
家やシェアカーなどのモノはもちろん、動画配信サービスなども、複数人がそれぞれ使う分だけ費用を負担できれば、より安く便利になりますよね。今後はそういったニーズに合わせたオンライン決済サービスなども出てくるでしょう。
生活空間や車などにとどまらず、お金や目標、暮らしにまつわる考え方や生き方そのものも、家族や仲間とシェアする流れが拡大しています。背景には、仲間や地域での繋がりや助け合い、金銭にこだわらない価値観などを重要視する、ミレニアル世代の台頭があるようです。大企業の参入が目立つシェアリングエコノミーですが、個人間出資で展開する組合型など、今後もバリエーションの増加が予想されるシェアリングエコノミーの文脈に、より高い関心が寄せられそうです。
- Written by:
- BAE編集部