2021.10.06

データ連動やネットワーク化、高機能化で進化する「デジタルサイネージ」のDX

情報表示に留まらない機能の活用とアプローチが可能に

屋内外のデジタルサイネージやディスプレイ広告。裸眼で見られるダイナミックな3D動画表現や、位置情報やスマホのデータとの連動が可能になるなど、表現力、機能性ともに進化が続いています。
屋内外でのデジタルサイネージの活用の動向や、注目のテクノロジーやクリエーティブについて、『月刊サイン&ディスプレイ』編集長の倉田さんに伺います。

目次

サインやパネルの電子化は順調に拡大

——コロナ禍でデジタルサイネージと人々との接触の機会が減ったと言われていますが、最近の動向などをどうご覧になっていますか。

確かに、コロナ禍でOOH等は一旦減少しましたが、ここ数カ月で回復の兆しが見えてきました。
デジタルサイネージの活用は今後も順調な拡大が見込まれており、ある調査では、デジタルサイネージの広告市場規模は2020年の約516億円から2024年には約1,022億円に(※)、デジタルサイネージ自体の市場規模は2025年に約3,186億円と、2017年比で約2.2倍に到達すると予測されています(※※)
※ サイバー・コミュニケーションズ「デジタルサイネージ広告市場調査」2020年11月
※※ 富士キメラ総研「デジタルサイネージ市場総調査(富士キメラ総研のプレスリリース)-2019」2019年6月


——どのような場面で活用が進んでいるのでしょうか。

まず、駅施設や鉄道車両、バス停やバス車内、タクシー、空港、飛行機等々、交通関連へのデジタルサイネージの導入や、パネルやサインの電子化が急速に進んでいます。
高解像度化や薄型軽量化が進み、商業施設や店舗の内外、ビルの壁面等にも大小様々のサイネージが年々増えて、新規のビルやショッピングモールなどは、企画の段階からサイネージの設置計画を含めることが必須となっています。

病院や公共施設、エレベーターやビル内のホール、レジ横、トイレ個室内など、待ち時間が発生する空間や人の足や目の止まるスポットを、最大限に生かす形での設置も増えました。
屋外もLEDの大型ビジョンを始め、新しい形や機能を持つタイプが登場しています。日が差す場所への設置など映像に明るさが求められる場合は、LEDディスプレイが多く使用されますが、液晶ディスプレイやプロジェクターも適材適所で活用されています。

——最近では、新宿駅東口前の「巨大な三毛猫の3Dサイネージ」が、SNSを中心に大きな話題になりましたね。

実は、裸眼で見られる3D動画の放映は渋谷でも実施されており、お笑いコンビのナインティナインが、LEDビジョンから飛び出す演出になっていました。

巨大な三毛猫が話題になった新宿の街頭ビジョンは国内唯一の4K相当画質という最新のスペックで、湾曲を活かした3D表現が可能で、先端の表現手法を駆使できる媒体です。猫が可愛らしいというのもありますが、立体感がより目立ったことで、強いインパクトに繋がったのだと思います。

4K相当の画質とカーブを生かした迫力の表現で、国内外に広く拡散された。新宿駅東口駅前広場と交差点から見上げる位置で、立地も抜群。リアルタイムな動画配信なども可能

欧米や、中国、韓国等ではすでに同様の3Dサイネージの活用が盛んですが、国内では道路交通法等の関係で実現が難しいと言われていました。ただ、国内でも条件をクリアできる場所が絞られてきて、今後もこのような3Dコンテンツ放映を目的としたLEDビジョンが登場する予定です。

データや情報との連動やネットワーク化が進む

——位置情報のデータを連動させた、コンテンツの配信技術なども向上しているのでしょうか。

はい。デジタルOOHの世界では、スマホの位置情報やデータ等を活用して、想定視認数の予測や効果測定を行ったり、センシングによって集まる人々の性別や年齢層、動線、滞在時間、移動のスピード等を収集し、動画の内容や配信のタイミングを最適化する、といった仕組みが実現しています。

また、ネットワーク化させたサイネージをエリアでセグメントして情報を配信したり、天候のデータと連動してリアルタイムな情報を配信するといったことも可能になっています。

例えば、鉄道各線の車内などで、乗客の属性や天気等に合わせて、動画が自動で切り替わるソリューションが取り入れられるケースも出てきています。
車両内のモニターのカメラで性別や年齢などを検知して、乗っている人に合わせた動画を車両ごとに最適化したり、新規顧客向け、既存顧客向けと見てほしいアプローチを変えたり、といったことも可能になっています。
並行して、今までのように「決まった時間帯に決まった回数だけ動画を流す」といった方法ではなく、「条件が揃った時に絞って動画を流す」といった形に、広告の売り方にも変化が起き始めました。

ビーコンを活用して、近隣を通る人に最適化した動画をデジタルサイネージに配信するといったことも、数年前から実現しています。六本木交差点角にある有名喫茶店の壁面などへの導入で話題になりました。
実際に来店したかという効果測定や、メールやプッシュ通知へのリターゲティングとの連動などもできます。
また、ビル内でのエレベーターサイネージなども、ターゲティングのしやすさなどで注目されています。

——店舗内へも、高い機能価値を持ったデジタルサイネージの導入が進んでいますね。

はい。売り場や施設に関連する +α の情報提供はもちろん、リアルタイムでの混雑状況の配信、デジタル試着、AIチャットボットの搭載などが可能になり、OMO施策、省人化などに、デジタルサイネージの強みが活かされています。

音声やモーションによって非接触で操作できるタイプや、決済機能や自動販売機能付きのタイプ、AIによる画像診断で性別や年代の収集を行うタイプなど、ユーザーにとって便利な機能の拡張も進んでいます。
店内の空間演出等にも、LEDディスプレイやプロジェクターは欠かせないものとなっていますね。ビル壁面やエントランスの大型サイネージでイメージ動画を流し、ブランドイメージを伝える企業なども増えています。

もう一つ、コロナ禍で急速に進んでいるのが、店頭入り口などへの検温やマスクチェックができるデジタルサイネージの設置です。正確な入場者数をカウントしたり、来店客の属性等を分析する機能を付加して、店舗での接客などCSの向上に役立てようという動きも出てきています。このような展開は、サイネージ活用の新しい可能性に繋がりそうです。

空間や町全体を覆うサイネージ。アナログ表現にも注目

——注目されているデジタルOOHの事例などについて教えてください。

例えば、大阪メトロの構内やコンコースに設置された裸眼3D動画は注目されています。迫力ある映像が、何台も連続したサイネージに同時に映し出されるので、通路を通りすぎるだけでも、動画が表現する世界への没入感が味わえます。

通路では立ち止まってサイネージを見る人は少ないが、3D表現を連続で見せることによって、強いインパクトを与えることができる。最大14駅、249面への配信が可能

2020年5月に渋谷で実施された、スシローによる大規模なOOH施策「すしで、笑おう 渋谷ジャック企画」も、大変話題になりました。
田園都市線渋谷駅構内の大型の横長のデジタルサイネージや、渋谷スクランブル交差点、渋谷スクランブルスクエア等の大型ビジョンにも、同時にスシローの動画が流され、タイトル通り渋谷をシティジャックした形です。

2021年7月のOOH施策「あっぱれ、日本!超すし祭り」の際も話題となったスシローのPR動画。回転寿司のレーンに見立てた横幅約25mのサイネージに、次々お寿司が流れてくる

その他、デジタルサイネージのトレンドを知るには、「デジタルサイネージアワード2021」の受賞作品が、大いに参考になります。特に本年は、斬新性、品質、表現力、実効性などの面で、例年以上と評される作品が並びました。

一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム主催。毎年、公募の中から優秀作が選出され、サイネージ市場の活性化を目指す

デジタルサイネージの活用とは文脈が異なりますが、個人的にはアナログのOOHにもまだまだ可能性があると思っています。“アイデアを活かす”という点では、最新のデジタルに頼ることだけがベストだとは限らないでしょう。

静岡市が製造品出荷額8割以上のシェアを誇る「プラモデル」を生かした、シティプロモーション。組み立て前のプラモをイメージしたモニュメントで地域資源をアピールする
カナダのアートギャラリーが主催する展覧会のPR。「カナダのアーティストによる小さな作品を集める」というコンセプトに添って、小さな屋外広告やポスターが制作された
コロンビアの広告代理店による、メガネレンズのOOH。耐水性が高く、大雨でも曇らないことを実際のレンズを使って証明している
「Ads of the World」2021年7月15日記事より
スウェーデンの広告代理店による、ペットケアサービス企業の“匂い”がするポスター。ペットの犬を惹きつけることで、飼い主にもリーチする

デジタルサイネージのさらなるDX化の可能性

——今後のデジタルサイネージの可能性は、どのように拓けていくでしょうか。

まず、機能、品質、数ともに向上することは間違いありません。企業や個人が内向けに導入する例も増えていますし、海外では映画館のスクリーンをLEDビジョン化したり、テレビや映画の背景やセットにLEDビジョンを活用するなど、今までにはなかった使われ方も出てきています。

表現については、流行りの3D立体映像やホログラムサイネージのような体験型コンテンツや、その場の環境や情報と連動するような、インタラクティブなコンテンツが今後も増えて行くと思います。
現状は人が集まることは難しい状況ですが、大型サイネージを軸にしたイベントやコミュニケーションにも、まだまだ可能性が広がっていると思います。

技術的には、例えば、検温機能付きのサイネージから来客のデータを取得する、サイネージ同士をネットワーク化して接客や売り場作りなどに役立てる等、さらなるDX化が進むでしょう。単なるデジタル化に留まらない、デジタルサイネージの進化に期待してください。

株式会社マスコミ文化協会 『月刊サイン&ディスプレイ』編集長 倉田大資(くらた・だいすけ)さん

伝える情報量を増やすことはもちろん、その場の体験価値や利便性を向上させたり、関連データを活かせるデバイスとして、デジタルサイネージは今後も様々なシーンで求められていくでしょう。
しかし、多様な機能を使いこなすノウハウや、目的に合わせた設置場所の検討、設置後のベストな運用方法など、幅広いプランニングが必要になるため、多くの場合、100%活用しきれないといった課題もあるようです。

電通テックでは、デジタルサイネージの導入から活用までをワンストップで支援するソリューション「リテールDXサイネージ™」を提供しています。設置からコンテンツ制作、運用管理、プロモーションまで、導入の効果を最大限発揮できるようにサポートを行っていますので、サイネージの導入をご検討の際は、ぜひお問い合わせください。

活用の幅も表現力もますます広がる、デジタルサイネージに今後もぜひご注目ください。

Written by:
BAE編集部