中国のEC(電子商取引)の活況は、世界的な新型コロナウイルスの流行で加速度が増しました。人口約14億人の中国。急速な経済成長、近年のDX(デジタルトランスフォーメーション)、物流網の発展、広い国土は、ECの進化を強力に後押しするものです。コロナ禍が完全に収束しても、ECの伸長が鈍化することはないでしょう。
インバウンド消費がほぼ壊滅状態の今は勝負時。経営資源の一部を使い越境ECに取り組むことで、新たなチャネルを開拓する企業が増えています。
最近の中国EC市場のトレンドや越境ECの成功の秘訣について、株式会社電通テックの生津徹が紹介します。
中国EC市場拡大に寄与するデジタルネイティブ世代の台頭
——まず、中国におけるEC市場の規模を教えてください。
中国ではECの勢いが止まりません。2019年時点で社会消費財小売総額約41兆1,649元(中国国家統計局2020年1月17日発表)に対して、ECの市場規模はB2C、C2Cに限定しても約13.3兆元(中国商務省「EC業界報告」)と、3割超がECです。金額ベースの比較では、世界2位の米国に約3倍の差をつけ、断トツです。(1元=約16円※2021年1月時点)
——ここまで、中国でECが伸びる理由はなんでしょうか。
デジタルネイティブ世代の台頭でスマホ完結の販売スタイルが主流になってきていること。それに引っ張られるように、今では中高年世代でもECに慣れてきています。購入までの動線が明確で誰でも使いやすいUI/UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)が、これまでECに不慣れだった層をけん引しました。また店で買うより便利で安いということも浸透してきています。
黎明期は、北京、上海、広州など沿岸都市のトレンドという側面がありましたが、今では内陸の農村部にも拡大。農村の人が自分で作った作物をECサイトで直販するケースも増えてきて注目されていることも、中国全土でECが定着する機運となっています。
活況のECをけん引しているのは、中国ではすっかり慣れ親しまれているライブコマース。ライブ動画を見ながら、視聴者はリアルタイムで商品への質問やコメントをチャットでやりとりすることができます。日本のライブコマースはまだ黎明期と言えますが、中国では広く受け入れられ、億単位で収入を得るKOL(Key Opinion Leaderの略)と呼ばれるインフルエンサー(ECでは情報発信者・動画に出演する売り手)もいます。KOLがすすめる商品を気に入ったら即買い。決済アプリのパスワード入力のみで完結します。
——KOLを起用するメリットはなんでしょうか。
人気のKOLを起用することで、情報の洪水の中に埋もれることなく注目され、信頼の獲得にも貢献しています。フォロワー1千万人以上というKOLもいて、15分間で口紅を15,000本売ったという逸話もあります。これが現在の中国のEC市場です。
中国EC、ライブコマースは進化を続けています。例えば人(KOL)が売るスタイルからAIに任せる販売スタイルの出現。人の介在なしにアバターが出演する形です。取引形態は従来型のB2CからD2C(Direct-to-Consumer)、S2b2C(Supplier to b to C)まで拡大し、フリマアプリも支持されています。S2b2Cのサプライヤーとは、先ほど紹介した農家でいえば作物を作っている人。Sが大文字でbが小文字なのは、大きな小売業ではなく、商売っ気のある個人や個人商店がサプライヤーから仕入れて売っているからです。この形態だと小回りが利き、例えば客が通常の店頭には並びにくい「赤と青のコンビの靴が欲しい」と言えば、それに合わせて売るようなこともできます。
コロナ禍で生鮮食品やクルマもEC、伸長に弾み
——中国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、人びとの生活にどのような変化がみられますか(2020年12月時点)。
中国では2020年の頭に感染者数が急上昇しましたが、今ではほぼ収束、経済的にも復調しています。中国では新型コロナ制圧のための住民への外出制限は厳格でしたので、その間にECで生鮮食品まで購入しようという人が出てきました。
生鮮食品については、中国でも日本同様、手に取り目で見て購入を決めたいという消費者心理が以前は少なからずありました。しかしコロナ禍でECを使う習慣がつくと、「ECで肉や魚、野菜を買うのも悪くないんじゃないか」と認識を改める人が増えてきました。便利さには勝てないのも人間の行動心理です。
——その他、コロナ禍で売れ筋となった商品は。
高額商品ではクルマも日本車含め、コロナ禍で売れました。普段は公共交通機関を使って通勤している都市部の人が感染の恐れが少ない自家用車に切り替えるという需要を受けたものです。現在は収束しているので、そのクルマを利用して週末に家族や友人とキャンプなどアウトドアレジャーを楽しむという流れにもなっています。買い物は手元で済ませても、ライブ感を求める心理は変わらずあります。
それ以外はコロナ以前以後、EC市場の流れはさほど変わっているとは感じません。もともと市場が拡大傾向の中で、EC使用率の伸長に弾みはつきました。
ダブルイレブン(独身の日)の売り上げトップは日本製
——今、中国のECで日本製品は売れるのでしょうか。
それに関してポテンシャルは十分だと思います。2019年は年間900万人以上の中国人が旅行で日本に出かけました。日本の食事、日本の日用品、日本製品全般に経験値を積んでいる人が増えています。継続的に売りやすい食品でいえば、日本米や日本酒は引き合いが多そうです。テッパン人気は化粧品、医薬部外品。これらは以前からニーズがあります。日本米、玩具等、規制撤廃によってチャンスが生まれているカテゴリーもいくつか出てきましたので、インバウンド減に苦しむ地方や中小企業にもより一層商機が広がっています。
しかし注意が必要なのは、中国に工場を持つ日本企業が、日本と同品質を担保できるなら中国工場で製造した商品でも売れるかというと必ずしもそうではありません。メイドインジャパンであることへの安全安心神話のようなものが日本製品の魅力でもあるからです。単にイメージだけではなく、製造時の基準が日本で求められる基準と中国では異なります。そこに中国人は敏感に反応します。海外のオリジナルを買いたいのです。
——日本製品でECでの売れ行きが良い商品はなんでしょうか。
中国ECの大型プロモーション「ダブルイレブン」(日本では独身の日として知られる)。このビッグセールで2020年の売り上げトップは、日本製品でした。ヤーマンの美容ローラーなど、美容関係の強さが際立っています。
日本企業が中国でECビジネスを行う際には、淘宝網(タオバオワン)、京東商城(JD.COM)に出店するか、出店する小売企業に卸すのが一般的です。この2つのプラットフォームが中国全体のEC市場の大部分をカバーしています。
——日本企業が中国で越境ECを行う際の課題は。
製品や販売チャネルではなく、ビジネスのスピード感にあります。中国企業はトップダウンで「明日やるぞ」となると、本当に次の日にアクションを起こしますが、日系企業は決裁に最低でも数カ月かかることが多い。これでは今しか大きく売れないような旬の商品、例えば現在中国でも大人気の『鬼滅の刃』グッズの販売は難しいかもしれません。準備に必要な時間が半年から一年間も掛かるようなスピードですと、販売開始するころには別の話題に関心が向かっていて売れる物も売れなくなるからです。もう一つはいわゆる“転売ヤー”の問題。この問題は中国政府としても法律で取り締まる動きがあります。
中国越境EC、成功の秘けつは「スピード感」と「一貫性」
——進化や多様化が進む中国EC市場で日本企業が成功する秘けつはなんでしょうか。
やはりスピードでしょう。約300兆円規模にせまる勢いの中国EC市場で、日本からの越境ECはまだわずか1.5兆円程度(2018年度)です。パイは十分にありますが、言葉や法律などの障壁を感じ、一歩が踏み出せない会社や団体も多く機を逸しているようです。インバウンドに期待が持てない今、スピード感を持って取り組むことで活路が見えてくると思います。
電通テックでは、現地駐在の日本人社員によって最適な導入実行プランを立案・運営することが可能です。中国税関との許諾申請のやり取りや、日中間の商品発送サービスもスピーディに対応させていただきます。
またタオバオ(淘宝)やJD.COM(京東)に掲載するサイト制作、輸出の手続き、物流という商品流通の一連を完成させても、KOLあるいはAIを活用した商品の売り方やプロモーション、情報の拡散、リピート購入の促進などを仕掛けなければ、ビジネスの継続、成功にはつながりません。中国は市場も大きいですが、その分商品数も膨大で有効な仕掛けがないと埋もれてしまうからです。KOLに誰を起用するかも重要なポイントです。中国では養成講座もあるほど人気職業になっていますが、1,000人あるいは1万人に1人残れるかどうかの世界を勝ち抜いてきたKOLの力は侮れません。こうした人気KOLを起用したライブコマースの運営も、我々であれば実現可能です。
また、「モノ」から「人・コンテンツ」重視となっている中国ECのUI/UXを加味したサイト構築にも精通しています。ウェブページの制作も、売りたい物の特性によってイメージを構築していかないと失敗します。例えば観光地の名菓を売るサイトの背景が会議室の壁なら興ざめです。自由に行き来できない今だからこそ、穴場の観光スポットの紹介と商品販売をリンクさせるなど、消費者心理を刺激する工夫が求められます。
——日本企業が中国での越境ECを成功させるには、スピード感を持ちながら、一貫してサポートしてくれるパートナー探しもカギとなりそうですね。
そうですね。我々は2002年に中国に電通テック北京を立ち上げて以来、中国における日系企業のプロモーションを数多く支援してきました。長年の事業展開で築いた多様なネットワーク、中国のマーケット事情・消費者特性を熟知したプロモーションノウハウと企画運営力を生かし、ECサイト運営にとどまらない、ブランド価値そのものを向上させる越境ECソリューションを提供可能です。出店準備からプロモーション活動、商品の発送管理までワンストップサービスのスピーディな提供も私たちの強みです。また、日本と中国をライブでつないで販売会を行うような新しい試みにも自在に対応できますので、特に越境ECに初めて進出するケースにはお気軽にご相談ください。
中国との越境ECには、日本国内の縮む内需を補完し、さらなる国内外における新商品開発、売り方革命の契機となる魅力があります。日本市場でもようやくライブコマースに着手する企業や店が増え始めています。プロモーションのデジタル革命は、グローバルなトレンド。中国14億人市場には、そこでの成功体験が形を変え、日本や他国進出に応用することでシナジーを生み、ビジネスが大きく成長していくポテンシャルがあります。
生津徹
株式会社電通テック ビジネスディベロップメント部門
2003~2007年中国(北京、上海)赴任、2011~2013年中国(北京)赴任。2016~2018年のインドネシア(ジャカルタ)赴任を経て、2019年より再び中国(北京)赴任。中国並びに東南アジアでBTL領域に従事。現地と日本を結ぶプロデューサーとしてプロデュース並びにマネジメント業務に携わる。
- Written by:
- BAE編集部