2020.07.07

パーソナルデータ活用で感染防止。最新テックと共に変化する中国

ニューノーマル時代を知る 中国編

これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界展望をお伝えするこの企画。今回は海外中国編です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で、世界各国の人々のライフスタイルに大きな変化が起きています。中でも中国では、「健康管理」「働き方」「購買行動」「食生活」「健康志向」という5つのポイントを軸に、新しいサービスや販売モデルが続々と登場。いくつかの事例を紹介しながら、その傾向を読み解いていきます。
※調査データ提供元:株式会社TNC

目次

テクノロジーの活用による健康ステイタス証明を実施

証明アプリの画面。QRコードが緑だと安全の証明となる
出典元:上海発布

新型コロナウイルス感染症の影響が拡大した2020年2月中旬、ロックダウン(都市封鎖)をしなかった上海市では、地方や海外から市内へ戻った人の中で、感染の恐れがある人を効率的に探すためのシステムの必要性から、上海市政府が「微信(WeChat)」と「支付宝(Alipay)」のアプリ内に身分証明コード(上海市内のみで有効)を示す「随申碼(スイシャンマー)」をリリース。

随申碼は、買い物や移動履歴などから、感染の重点地域やクラスター発生地へ行っていないことを証明できる個人コードで、公共施設、オフィスビル、ショッピングモールなどの入口で提示を求めることで、感染の可能性がある人を探すことができます。

上海市内では、さまざまな施設の入口で検温と連絡先と健康状態の登録が必要でしたが、この随申碼の採用により簡略化。すでに国民の大部分に浸透していたアプリプラットフォームを危機下で迅速に応用した、中国らしいテクノロジー活用の好例となりました。

フレキシブルな雇用体制で広がるスタッフシェア

盒馬の公式サイト

働き方改革は、中国でも進んでいるようです。その変化の象徴ともいえる新語が、スタッフシェア「共享員工(ゴンシャンユエンゴン)」。

コロナの影響で売上の大幅な減少に見舞われた40以上のレストランやホテル、映画館は、人員配置を効率化して多くの社員を業務から外し、解雇や自宅待機にはせずに、人員不足に悩む他社に社員を貸し出すなど有意義な活動に人手を振り分けて対応しました。

こうした他店で余剰が生まれた人手を積極的に取り込んだのが、Eコマース大手アリババ傘下のスーパーマーケット「盒馬(フーマー)」です。Eコマースと実店舗を兼ねて営業する盒馬は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりEコマースからの利用が急増し、配達スタッフを早急に増員する必要に迫られていましたが、この対応により人手の確保に成功。生活者の需要に応えることができました。

また他にも、工場の稼働自粛期間が終わっても、社員が地方から戻れない、自主退職するなどで1,000人中約100人しか出社しない状況にあったある製造メーカーは、地元政府の力を借り、現在休職中の人をシェアスタッフとして募り、工場の稼働を再開できたそうです。

この共享員工という新語は、今後も社会に定着するとみられています。

購買の新価値観「身近な個人=My インフルエンサー」

淘小舗はECサイトでのサクラによるレビュー問題に一石を投じそう
出典元:淘小舗公式ホームページ

自粛、在宅期間中のEC需要が増えた中で、購買に関する新たな価値観が消費者の中で生まれてきています。

「淘宝」「天猫」に続くECアプリとしてヒットしたのは、「淘小舗(タオシャオプー)」。販売モデルは、S2B2C。サプライヤーが小売店や仲介業者、広告会社を通さず、一般人に販売のプラットホームを任せる方法です。

※S(大手サプライヤー)、B(チャネルディーラー。ここではシェアする個人。売りたい一般人やインフルエンサー)、C(消費者)。

チャネルディーラーは、自分で売りたいもの、自分のフォロワーたちが欲しがりそうなものをサプライヤーから仕入れ、自分のフォロワーたちに紹介して販売することができ、自分が良いと思った商品を自分の店舗でシェアするだけで収入を得ることができます。また、サプライヤー側はシェアした人を通して自社商品の消費者層の傾向を把握することができ、購入者にとっては、好きなインフルエンサーや友人、知人など、顔が見える人が選んだものであるという安心感が得られます。なお、チャネルディーラーは、商品を仕入れに行ったり、現物の在庫を確認したり、発送したりする必要もないので、手間もかかりません。

淘小舗は、今後、ECアプリ業界の中でも存在感を出していくと見られています。「顔が見える人が薦める正規品=信頼できる商品」という新たな価値観が生まれつつある一方、既存のECサイトにおいては「サクラレビュー」が問題になっており、他人の感想を信頼できないという人も増えているようです。

食の価値の再発見と家族コミュニケーションの構築

微博で「美食治癒系」と画像検索してみると、優しい風合いの料理写真が並ぶ

在宅時間が増加し、自炊をする機会が増えたことで、改めて食の価値が見直され、また家族で一緒に食事を作るといった家族コミュニケーションが増える、などの食生活における変化もみられました。

この変化は、SNSでの数値にも表れており、中国最大のSNS「微博(Weibo)」のトレンドワード「#美食治癒系」は2020年4月12日時点で投稿数は272万、閲覧数は29億回に及び、「#在宅美食日記(在宅グルメ日記)」も26億回閲覧されました。

外出自粛期間に初めて粉から自分で作ったパン、武漢の医療スタッフたちが激務の合間に食べているアレンジカップラーメン、昔から路地の一角で営業している屋台の味など、人とストーリーが垣間見える食べ物の投稿が激増。こうした状況の背景には、料理の見た目が悪くても、温もりのある食べ物や伝統食の見直し、家族と作ることによる絆の構築などがあるとみられています。

レストランが昔ながらの料理や地方の伝統系メニューなどをPRする投稿に「#美食治癒系」のハッシュタグをつけて紹介するなど、自炊の枠を超えて、スイーツ、お菓子、コンビニフードなどもこの話題に追随する兆しもみられています。

健康志向の高まりに応えるクイックな商品開発の促進

クルミミルク、GABA、テアニン、亜鉛、リン脂質などを配合した卡慕寧(カームーニン)
出典元:每日頭條

免疫力向上や肥満対策といった健康志向の高まりも、新型コロナウイルス感染症をきっかけに生まれた大きな変化の一つです。「高栄養・効能・低カロリー」をキーワードにした飲料が、各飲料メーカーから次々と販売されました。

「伊然」
2020年2月に、乳業メーカー「伊利(イーリー)」は、牛乳由来のカルシウム96mgをとれるゼロカロリーのソーダ水「伊然(イーラン)」を発売。感染症研究の第一人者である、鐘南山医師の乳製品を多く摂る食生活が知られたことがきっかけで牛乳やカルシウムが見直されたことを受けて販売された伊然は、運動不足気味のカロリーが気になっている消費者に受け入れられました。

「卡慕寧」
同じく2月、クルミミルクの販売メーカー「養元(ヤンユエン)」が、精神的な不安やストレスを軽減するクルミ飲料「卡慕寧(カームーニン)」を発売しました。卡慕寧は、「心のマスク」として大きな注目を集め、赤十字社を通して1,000万元分が病院や感染者の多い地域に寄付されました。

「健消軽飲」「越光米稀」
江中食療は4月、サンザシ、山芋、陳皮、麦芽などを配合した消化促進に効果的な漢方飲料「健消軽飲(ジェンシャオチンイン)」、清代の「四臣神湯」を再現した茯苓、蓮の実などの成分が胃もたれなどを防ぐ「越光米稀(ユエグワンミーシー)」を発売しました。どちらもゼロカロリーで、在宅太り予防に適う漢方飲料となっています。

「益原素」
3月末、茶葉メーカー「大益(ダーイー)」が初めて発売したのが「益原素」。ヨーグルト、納豆(中国産の大豆が多い)などの発酵食品が注目を集める中、発酵茶のプーアール茶に着目した健康飲料で、りんご4個分の食物繊維入りで腸内環境を整え、免疫力を高めることができるというものです。


パーソナルデータの活用や、労働力のシェアリングなど、最新テックをフル活用して、迅速に新型コロナウイルス感染拡大という難局に対応していく姿勢には目を見張るものがあります。他方、コロナによる消費傾向の変化は、いずれ日本でも同じような動きが追随して生まれることが想像に難くありません。今後の中国の動向にもますます注目していきたいところです。

Written by:
BAE編集部