2019.04.16

訪日外国人の最新動向から見る“求められる日本”とは? インバウンドレポート【前編】

“爆買い”収束後は「四季や文化体験」がトレンドに

2018年の訪日外国人数は過去最高の3,119万人、前年比8.7%増と拡大(※)。訪日外国人による消費額も、2016年は3兆7400億円、2018年には4兆5189億円を超え、高い伸び率を示しています。外国人観光客は一体、何を求めて日本を訪れるのでしょうか。その動向や興味を調査・分析し、本年2月に「インバウンドレポート2018(※※)」を発表した、株式会社ナイトレイの大橋さん、淡路さん、梶谷さんに、各国のインバウンドの動向や消費についてお話を伺いました。
※ 政府観光局調べ。
※※「インバウンドレポート2018年1月~12月 RJCリサーチ×ナイトレイ共同調査レポート」

目次

SNS解析から旅ナカを知るのがデータのトレンド

——政府観光局の統計を見ても、訪日外国人数は米国、タイなどを中心に、2014年度と比較して7割以上の伸び率を示しています。その理由はなんでしょうか。

大橋

国によるビザ発給緩和、免税制度の拡充、観光庁が主導するPR戦略が功を奏して順調に伸びているようです。「2030年に6000万人まで伸ばす」という目標に向かって、観光業やインフラによる施策にも勢いがついていると思います。

また、ただ数が増加したというだけではなく、インバウンドの行動は年々変化しています。カスタマージャーニーを見ると、パッケージツアーや団体旅行が減り、リピーターや個人旅行、個別予約が増加。情報収集や、旅の感想をシェアする手段も、ブログ、SNS、動画と多様化しました。
また、主に中国人観光客を中心としたいわゆる“爆買い”が収束して、日本の伝統文化体験といった「コト消費」が注目されています。それに伴って、インバウンドを対象としたサービスやソリューション企業も伸びています。

訪日外国客の伸び率(2014~2018年)
訪日外国客の伸び率(2014~2018年)

——インバウンドの動向を理解するためのデータには、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」等のほか、どんなものがあるでしょうか。

大橋

最近ではロケーションデータなど、より詳細に旅行者の動きを把握できるビッグデータが広く活用されています。代表的なのは、携帯電話のローミングデータ、スマートフォンアプリによるGPSデータ、クレジットカード決済データが挙げられます。これらを用いることで訪日外国人の滞在、周遊、消費などの動向を国籍別、市区町村単位などのエリア別に把握、分析することができます。
また、ツイッターやインスタグラムなどのSNSの投稿解析も重要で、プレイス+写真による情報のほか、センチメントも読み取れます。これらは旅ナカ(旅行中)の行動把握を可能にしました。

私たちも、訪日外国人がSNS上(Twitterや一部Instagram)で日本国内滞在中に大量に発信したロケーション解析済の約37万件のSNS投稿から、場所が明確に解析できている8万3千件以上の投稿等を対象にレポートをまとめています。2019年2月に発表した「インバウンドレポート2018」では、投稿されたハッシュタグやテキスト、画像の内容、プレイス情報等から、情報量を測る指標である「SNS投稿量スコア」を独自の方法で導き出して、ランキングや分析結果を発表しました。

「USJを好むのはアジア圏の人々」などの特徴が見えた

——2018年はどのようなスポットやショッピングがインバウンドに人気だったのでしょうか。地域別・国別の傾向なども教えてください。

(1)観光・レジャー部門ランキング TOP10 - 地域別
総合ランキング(観光・レジャー部門ランキング)
大橋

まず、総合ランキングを見てみましょう。こちらは先述の「SNS投稿量スコア」による、観光・レジャー部門の10位までのデータですが、TOP10に限らず全体的に、約8割は観光・レジャースポットにあたります。
うち首都圏が約6割、近畿が約3割。ほとんどが「東京に来て大阪か京都に移動する」という、いわゆる「訪日客のゴールデンルート」上にある場所です。

 
淡路

3位の「伏見稲荷大社(京都)」は今、どの国の人からも「日本といえばここ」と認知されています。日本が舞台のハリウッド映画「SAYURI」のロケ地であることや、インフルエンサーによるSNS等への投稿の影響で知名度や人気が上昇したようです。
アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリアの4カ国のデータでも、それぞれ訪問地のトップ4位までにランクインしており、赤い鳥居が並ぶ様子が「インスタ映えする」として定番化しています。ただ、一度お参りして写真を撮れれば満足のようで、リピーターは少ないようです。

また、「USJ」の人気は高いのですが、アメリカ人の割合は低く、関西滞在時にはテーマパークを訪れていないことが分かっています。
アメリカではディズニーリゾートなど、アミューズメント施設が成熟しており、USJのPR戦略としても、欧米圏よりもアジア圏をターゲットとしているようです。大阪府は東京都に比べて中国人の訪問率が高く、USJが中国個人客勧誘のためのインフルエンサーマーケティングなどに力を入れていることも影響しているようです。

(3)グルメ部門ランキング TOP10 - 地域別
グラフ左下:築地市場 月別 SNS投稿量(2018年 月別)築地市場が閉鎖してから各段にSNSの投稿量が減りました
梶谷

「築地市場」や「錦市場」も、アメリカ人の比率が高いことがわかっています。独特の市場の活気を感じられるのかもしれません。ただ、築地は2018年10月の豊洲移転後に来訪者が激減しており、豊洲に移動したことを示す数字は今のところ出ていません。

その他の欧米の人々に人気のスポットを見ると、「ロボットレストラン」「皇居」なども50位にランクインしています。ガイドブックによく掲載されるような東京名所は、安定した人気があるようです。

大橋正治さん、淡路 誠さん 梶谷麻佑子さん
左から、株式会社ナイトレイ セールス&マーケティング 部長 大橋正治(おおはし・まさはる)さん、同社セールス&マーケティング 淡路 誠(あわじ・まこと)さん、梶谷麻佑子(かじたに・まゆこ)さん

――東アジア(韓国、台湾、中国、香港)の人々の傾向はいかがでしょうか。

淡路

上位8位までは総合ランキングと同じ顔ぶれです。ただ、9位に「六本木ヒルズ」や10位に「道頓堀」がランクインしています。

ショッピングでは、1位が「ローソン」、2位が「ドン・キホーテ」と、上位は日用品の販売店です。ローソンの独走は、全店が「Alipay」を他のコンビニより先行して導入していることが中国客に口コミで広がったことや、空港や駅ナカなど、行動のハブになる場所へ積極的に出店しており、便利で安心であることが影響しているようです。

梶谷

また、東アジア圏の人々はアニメやゲームに関するスポットへ買い物に訪れていることが分かりました。ショッピング部門に、中野ブロードウェイなど、アニメ・ゲーム系のスポットがランクインしています。うち多くは韓国の人々でした。

ただ、「東アジア圏に日本のアニメが人気」と、一概には言い切れません。例えば、「三鷹の森ジブリ美術館」は台湾からの来客が多いのですが、「ポケモンセンター」にはアメリカや東南アジア圏など、世界中の人が訪れています。周知の通り、日本のアニメやゲームには外国客を呼び込む力があります。しかし、出かける先などは、「それぞれの国で具体的にどのコンテンツが人気か」に左右されるようです。

淡路

それ以外の細かい所では、北海道のスキーリゾートなどは台湾の人々から人気で、ハイシーズンにはオーストラリアの人々もたくさん訪れます。「自国に降らない雪が見たい」「自国に雪がない季節もスキーをしたい」といったニーズがあり、それに対応する細かなサービス等を行うことで、熱心なリピーターを獲得しているようです。

――東南アジア地域の傾向はいかがでしょうか。

梶谷

東南アジア地域(タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、カンボジア、ブルネイ、ラオス)のデータからは、「日本の自然や歴史への関心の高さ」がうかがえます。

例えば、伏見稲荷大社はもちろん、竹林の小径(京都)などが人気のほか、タイやインドネシアの方が、白川郷(岐阜県)にも出かけているようです。このような場所は、同じアジア圏でも気候が異なる国の人々からは、「日本らしい自然の風景を味わえる場所」と捉えられているのかもしれません。その他にも、奈良公園、新宿御苑など、四季折々の自然が楽しめるスポットのほか、大阪城や清水寺など、歴史的建造物や景勝地の人気も上昇しています。

アクティビティへの高い満足度で「コト消費」が上昇

——インバウンド全体の消費動向の推移や展望について教えてください。

大橋

観光庁による「訪日外国人の消費動向」のデータでは、ここ数年と同様に宿泊や飲食を抑えて、買い物がトップです。ただ、平均額は2015年と2017年を比較すると一人当たり7.4万円から5.7万円に下がりました。購入品目が、単価の高い家電やアパレルなどから、日用品に推移していることが理由でしょう。

訪日外国人数と消費額推移
一人あたり消費金額、費目別消費
大橋

今後の消費行動については、「なんとなく日本に来た人々」だけではなく、「動機・目的を持って来日する人々」や「体験消費」に、充分な可能性があります。
「○○の写真を撮りたい」は定番になりましたし、先述のアニメ関連の買い物やスキー客なども好例でしょう。「しまなみ海道(広島県~愛媛県)」でのサイクリング客なども増加しています。
ほかにも、着物、忍者、書道、居酒屋、茶道、お花見、お祭りなどは、人気があるようです。観光庁による日本での旅行中に体験したことについての調査でも、四季の体感や日本文化の体験率が増加しています。

リピーターが増えていることも、「コト消費」には追い風になりそうです。数字でも、2017年時点で、訪日客のうち60%が東アジア圏を中心としたリピーターであり、多くのアクティビティの満足度が高かったという回答が得られています。

来訪回数、訪日旅行自体への満足度、アクティビティの満足度
大橋

今後のインバウンドが、「コト消費」メインの旅にシフトしていけば、「その場でしか体験できないこと」のために、東京や関西以外の地方まで足を延ばす可能性もあります。実際に、地方でも分析やPRに力を入れて、インバウンドの集客に成功しているスポットもあります。

もっと日本の各地に足を運んでもらうためには、リピーターに目を向けてもらうきっかけづくり、そして、訪日観光客の興味にかなう「コト」づくりに力を入れることが、一つのポイントになってくると考えられます。

「日本風の丁寧な“おもてなし”はもちろん、日本の歴史や自然、美味しいグルメなどにも、まだまだ大きなポテンシャルがあると思います」

財務省の調査によると、日本の旅行収支は2015年から黒字転換しました。近年は、SNS映えするスポットや日本の四季や歴史を感じられる場所への訪問や、アニメやゲーム関連の買い物など、「目的を持った訪日」が増えているようです。リピーターの増加や、「コト消費」の代表であるアクティビティに対する満足度の高さからは、引き続き大きな伸びしろが見出せそうです。

※本記事中のグラフはすべて「インバウンドレポート2018年1月~12月 RJCリサーチ×ナイトレイ共同調査レポート」「インバウンド業界レポート2018年下半期版」による。

Written by:
BAE編集部