これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界動向や今後の展望をご紹介するこの企画。中国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を克服しつつあり、経済的にも回復の兆しを見せています。アフターコロナともいうべき状況下で、人々の消費行動や、企業の施策はどう変化しているのでしょうか。発展がめざましい「小売・ショッピング」「食」の分野を中心に、中国の最新動向をご紹介します。
※調査データ提供元:株式会社TNC
サービス開始から急激にユーザー数を伸ばしている動画ライブ配信アプリ「快手(クアイショウ)」では、ライブコマースの手法で野菜を販売する農家が増えています。快手ではライブ配信画面の下にカートボタンがあり、すぐに商品の購入が可能。新型コロナウイルスによって野菜を卸せなくなった農家が、畑や農作業の様子を紹介しながら作物を販売するスタイルで、視聴者はライブ中に直接農家の人に品質やサイズなどを聞くことができるので、安心して商品を購入できると評判になっています。
また、リアルの販売においても変化が起きています。外出自粛期間、必要に迫られた多くの高齢者が「盒馬(フーマー)」など食材デリバリーのアプリの利用法を習得する動きがありました。一方、高齢者が主な顧客だった八百屋や市場は、危機感から町内会単位のグループ販売を実施。数十世帯向けに一度に格安で販売する方法は、一部地域で定着しています。
以前のように売買ができなくなってしまった状況が続く限り、売り手と買い手が互いにメリットを享受しながら効率的に売買ができるスタイルは、今後も様々な形で出てくるのではないでしょうか。
【参考URL】
https://www.kuaishou.com/
コロナ禍で打撃を受けたアパレル業界において、オンラインでの顧客体験の向上はもはや必須のものになってくるかもしれません。
北京のパークビュー・グリーン・ショッピングモールは、オンラインでのライブストリーミングサービスを開始。ヨガウェアなどを販売する「lululemon」は、店舗にプロのトレーナーを招き、オンラインでのライブストリームでトレーニングセッションを提供することで顧客体験を向上させました。ライブストリームでは、ブランドの最新の店頭アイテムをフィーチャーしたことで、セールスにもつながったといいます。
また、北京の西単にあるジョイシティ・ショッピングモールでは、20以上のブランドのライブストリームプロモーションを実施。営業担当者は、「ライブストリーミング中の3時間の売上は、通常の1週間の利益に達し、ライブストリームで接客した顧客数は、7か月間の実店舗の来場客数にほぼ等しい」と述べています。
顧客体験を生み出すツールとして、今をリアルに感じて楽しめるライブストリーミングはまさにうってつけの手法。日本でもライブコマースが再び脚光を浴びており、中国での事例は非常に参考になりそうです。
【参考URL】
http://www.parkviewgreen.com/eng/
https://jingdaily.com/how-will-stores-prepare-toreopen-in-a-post-virus-china/
スピード感を持って変化する中国の今後の動向として、注目しておきたいのが業態とサービスの多様化、5G技術、そして「人によるサービス」の強化です。
「盒馬(フーマー)」は、学生などのさらに若い層の顧客を取り込むことを狙いとし、2019年8月にコンビニサイズの「盒馬mini」をオープン。その一方で、深圳(シェンチェン)には4万平米の大型ショッピングモール「盒馬里(フーマーリー)」をオープンさせました。盒馬里は、全世代が楽しめるように店内は小売、飲食、生活サービス、子どもと教育の4つのゾーンに分かれており、アプリを活用すれば、60もの店舗がOMO(オンラインとオフラインの統合)に対応可能となります。さらに、アプリ内には、食材販売だけでなく、生活に必要な、清掃、家電洗浄、引っ越し、クリーニングなどの注文ページが登場。その他、委託ではなく自社でスタッフの育成も行い、サービスの質向上にもつながっています。現在、リリースへ向けて準備中の5Gスマホで使えるスーパーアプリを利用すれば、スマホ内で実際の店内を見ながら、商品選びができるようにもなるそうです。
さらに「盒馬」は、生鮮食品の自社農場を全国に500か所、所有。この資源を生かして、イチゴ狩りなどの体験を提供するなど、今後は旅行、教育の分野へ進出する可能性も高いといわれています。また、深圳のモールでも、親子連れに向けて読み聞かせコーナーや居心地のいい空間など、サービスやオフラインで体感できるものを、今後強化していくとみられています。
世の中の変化に合わせてスピーディーに新サービスを提供し続ける中国のこうした機動力には、変化の激しい現代社会において見習うべきものがあります。
【参考URL】
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1642957011727870483&wfr=spider&for=pc
http://baijiahao.baidu.com/s?id=1652130074163854824&wfr=spider&for=pc
中国国内に200店舗以上を展開する餃子のチェーン店「小恒水餃(XIao Heng Dumplings)」は、北京にて自動運転の餃子デリバリーを運行中。5G通信と車体のセンサーによって障害物を避けて運行できる無人デリバリー車には、保温機能がついており、一度に最大24食分の配達が可能。客はスマートフォンを操作してデリバリ―車から餃子を取り出すシステムとなっています。
無人配送は世界的に研究が進んでいる分野であり、日本でも実用化が期待されるところです。
非接触が推奨される環境下でも対応できる、食関連の様々な業態やサービスも始まっています。
2020年5月末、日系企業も多いエリアのオフィスビルのロビーにオープンした「24h智能便当店」は、無人の弁当店。店内には調理、盛り付けなどを行うロボット3台が設置されており、スマホで注文と支払いを済ませるとオーダーした弁当を受け取ることができます。オーダーから受け取りまでの流れがスムーズなので、非接触需要だけでなく、デリバリーを頼んでも受け取る時間が読めないという多忙なビジネスマンにも重宝されるなど、新しい需要も掘り起こしています。
また、上海市内では二大デリバリーアプリ「餓了麼(ウーラマ)」「美団(メイトゥアン)」が、保温保冷機能付きの料理用宅配ボックスを1,000か所設置。料理がボックスに届くとスマホにQRコード付きの通知が届き、利用者がボックスの指定の位置にコードをかざすとオーダー品が取り出せる仕組みです。非接触で配達できることに加え、取り違えや紛失、料理が冷める、また傷んでしまうといった問題も同時に解消。主にオフィスビルや医療機関のロビーに設置され、職員のランチや残業時の夜食に利用されています。
非接触が推奨される状況をきっかけに生まれたサービスが、意外なニーズにも結びつく可能性があることがわかる事例といえるのではないでしょうか。
【参考URL】
https://m.sohu.com/a/398175725_120209938/?pvid=000115_3w_a
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1664778212092866620&wfr =spider&for=pc
2020年現在、中国の独身者の人口は2.5億人といわれ、そのうち7,000万人が一人暮らしだといわれています。コロナだけでなく、災害(大雨による水害)、独身者の増加、晩婚化など、中国の社会問題を汲み取ったインスタント食品が増加しています。
「自嗨鍋(Zihaiguo)」(重慶金羚羊電子商務有限公司)は、カップの下部に水を入れると発熱し、沸騰する、ガスと電気不要の一人用火鍋。TikTokと人気を二分する動画投稿アプリ「快手(クアイショウ)」でライブ販売したところ、10分で5,000万個を完売しました。社会問題となった水害時の備蓄、コロナ以降ブームのアウトドアシーンで使えるなど時代にマッチした商品であり、インスタント麺より具材が豊富で飽きないことも人気の理由とされています。
注目すべきは、重慶金羚羊電子商務有限公司がIT企業であるということ。世界的にいわゆる「フードテック」が注目を集めていますが、食品×テクノロジーという潮流が如実に表れた事例といえるかもしれません。
【参考URL】
http://www.zihaiguo.com/
https://www.cnylsp.com/
https://www.haidilao.com/
http://www.sdyyws.com/
以前より中国では盛り上がりを見せていたライブコマースが、コロナ禍の「外出したいけどできない」というジレンマをうまく解消し、さらに加速していったという動きが今回ご紹介した事例からも伺えます。OMOの進化もすさまじく、注目に値する事例ばかりです。そうした動向の中で改めて実感するのは、ニューノーマル時代の消費者行動に素早く応じる中国企業の仕事の速さと機動力でしょう。また、そんな企業が開発する新しいサービスや商品を、壁を作ることなく受け入れる消費者の柔軟性も、これからのニューノーマル時代の企業と消費者の関係性を築くためにはポイントになってくるかもしれません。