これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界動向や今後の展望をご紹介するこの企画。今回は海外アメリカ編です。
引き続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で、世界各国で新たなライフスタイルが定着しつつあります。アメリカでは、非接触が考慮される暮らしの中から生まれた消費者インサイトに寄り添った新しいサービスや施策が打ち出されています。今回は、その中のいくつかの事例をご紹介します。
※調査データ提供元:株式会社TNC
飲食店のテイクアウト需要も増加傾向にある中、非接触デリバリーサービスが徐々に浸透しつつあります。
アメリカでは、Googleの親会社であるAlphabet傘下のWingが、ドローン配送プロジェクト「Project Wing」を2014年に立ち上げ、2019年に米連邦航空局(FAA)の認可を取得したことで、ドローンを使ったデリバリーサービスが本格的に始まっています。
これまで米国内では、ドローンを活用したデリバリーサービスはバージニア州クリスチャンズバーグでのみ利用が可能でしたが、大手薬局チェーンWalgreensによる日用品の配達から始まり、新型コロナウイルス感染症の影響で気軽にパン屋やカフェに行けなくなった地域の利用者からのリクエストに応える形で、地元のベーカリーとコーヒーショップでの配達が始まりました。
ドローンで配達できる荷物の重量には限界がありますが、ソーシャルディスタンスが重要視されている今の社会情勢の中で、ますますニーズが高まっていくことが予想されます。また日本でも、2019年には経済産業省が自動走行の配送ロボット実用化のための官民協議会を立ち上げるなど動きは本格化しており、こうしたサービスは今後さらに拡大していきそうです。
レストランの営業規制の影響を受けて、自炊をする人が増えるという傾向は日本国内でも見受けられますが、これまでレストランにのみ食品を卸していた食材問屋が一般消費者向けの販売を始めるなど、アメリカでは販売側にも新たな動きがみられています。
普段はなかなか入手できない、ミシュランレストランで使われている高級食材を一般に販売するという動きは、自宅で料理をする機会が増えていることもあって、グルメ志向のニューヨーカーから好評を得ているようです。
生鮮食品を販売するNATOORAは、オンライン注文の開始一週間で1,000件以上の注文を受けたといいます。業者側も、一般家庭でも消費できるような小分けサイズのパッケージに切り替える等の対応に追われているようです。
日本においても、数年前から家に食材一式が届いて料理ができるミールキットのような商品が人気を集めたり、新たな生活様式の中で有名店のテイクアウトなどの需要も高まっています。レストランのサービスや形態も、これからは柔軟な変化が求められていくのではないでしょうか。
在宅勤務が中心となるなど、私たちの働き方にも大きな変化が生まれていますが、慣れない連日のZoom会議や、最初は息抜きだったオンライン飲み会にも疲れを感じている人が多い中、カリフォルニアにある動物保護ファーム「Sweet Farm」が始めたサービス「Goat-2-Meeting」が話題になっています。
「Goat-2-Meeting」は、事前にZoomの招待状を送っておくと、ラマやヤギ、牛や七面鳥といったファームで飼育されている動物を映して、会議に参加させてくれるというサービス。見飽きた画面に動物が登場する非日常の光景に、かなり癒やされると好評のようです。料金は、時間とZoomの参加者数によって65ドルから250ドルまであり、利益はファームの運営に寄付されます。
このサービスは、Zoomでのコミニュケーションやリモートワークにおけるストレス解消の取り組みとしてはもちろん、自粛で運営ができない動物園などの施設PRにもなっている好事例といえるでしょう。
先が見えず、人との接触が制限されるロックダウン中は、身近な癒やしの存在であるペットの魅力が広く認知される機会にもなりました。
大手ビールメーカーBuschは、2020年3月25日から4月25日(もしくは規定人数に到達するまで)、ミネソタ州で「Foster a dog, get beer」キャンペーンを展開。動物シェルター「Midwest Animal Rescue & Services」で保護されている犬を受け入れることにした先着500名に、ビール3ヶ月分(約100ドル分のビール)を進呈するキャンペーンを実施しました。
このキャンペーンは、ロックダウン中の人たちにとってペットが精神的支えや癒やしになることを印象づけただけでなく、世の中の動物愛護運動を促進させ、さらに外出自粛でシェルターを訪れる人がいないという状況の解決を実現しました。ビール会社として、「自分を癒やしてくれる犬の横にBuschのビールがある、飲む相手に犬もいる(独りじゃない)」という状況を生み出せるウィンウィンな施策といえるでしょう。
外出自粛によるストレス増加や、将来への不安を抱える人も増える中で、五感を活用し、精神を落ち着かせるなど、マインドフルネスの実践につながる施策も登場しました。
Equal Partsは、“料理というのは最も手軽、安価にフロー状態になれる方法”と謳っているキッチンウェアブランド。新型コロナウイルス感染症の影響下において、料理をすることは、料理に関心を持ち始めた人や精神の安定を保ちたい人にとって有効であり、単に食事を作るということだけでなく、日常の中で数少ない、消費者から生産者になれる方法でもあるという独自の考えを持っています。
そうした背景から、Equal Partsでは料理シーンにマッチしたプレイリストをSpotifyで提供し、自社のブランディングや商品への購買導線に結び付けています。
料理×音楽というこれまでにないサービスではありますが、人々が自宅にいる時間が増えていく中で、シチュエーション×音楽や、空間×音楽などの新しい掛け合わせが生まれ、音楽活用の幅はこれまで以上に広がっていくかもしれません。
外出禁止令が発令される中、人と人との非接触のオンラインサービスが、より暮らしに寄り添うものとして多様化しつつあるようです。
近年では、インターネットとつないでインストラクターの指導を受けながら自宅でトレーニングができる、「フィットネス業界のNetflix」とも呼ばれるエクササイズバイクPelotonの大ブームが記憶に新しいですが、外出禁止令でジムに行けなくなった今、健康志向の高いアメリカ人に、Mirror、Tonal、Tempoといったスマートミラーを使った自宅エクササイズが注目されています。
Mirror(https://www.mirror.co)は、スマートウォッチとリンクさせて心拍数等を確認しながら、鏡に自分の姿を映して、画面に映るインストラクターと一緒にワークアウトができます。ミラーの本体価格は1,495ドルで、サブスクリプションは月額42ドルからあり、内容によって料金が変わります。一台につき家族6人まで登録可能で、ワークアウトのジャンルは20種類以上。それぞれ15~60分、計1万種類以上のストリーミングから選べるほか、人気インストラクターのライブ中継クラスもあるなど内容も充実しています。
ヘルス市場は、今後さらに伸びることが期待されている市場です。個人のヘルス管理から、企業における社員のメンタルヘルスチェックまで、多岐にわたるサービスが展開されていくことが見込まれます。中でも、スマートミラーは店舗販促のみならず、消費者一人ひとりの日々の生活に浸透していくことができる強みがあり、日本でも浸透していく可能性は非常に高いといえるでしょう。
非接触が重視される暮らしの中で、本来の人とのつながりやコミュニケーションをいかに担保していくか。テクノロジーの力やアイデアを掛け合わせ、最大限のフレキシビリティを発揮して、消費者インサイトに響くサービスを展開するアメリカの取り組みは、これからの日本社会にとって参考にすべき点が多いのではないでしょうか。