2019.11.28 オムニチャネルの先にある未来型店舗のカタチ リテールテック新時代へ #AI・ロボット #OMO #インバウンド #リテールテック #店舗販促 MARKETING特集:TEC SOLUTION特集:RETAIL TECH リテールのデジタル化、eコマース(以下、EC)の時代から、いま実店舗でのデジタル革命が起き、変化のスピードはECを凌駕しつつあります。 「OMO」 Online Merges with Offline(オンラインとオフラインの融合)の時代を最も実感できる空間は、オフラインでモノやサービスが取り引きされる店頭といってもよいかもしれません。店が複数のチャネルを整え、購買やコミュニケーションの間口を広げるオムニチャネルから一歩進み、デジタル技術によって店舗でのリアルな体験が楽しくなり、利便性も格段に上がる——日本ではキャッシュレス決済の推進もその流れを後押ししています。 店頭におけるリテールテクノロジーソリューションの今後の新たな展開について、リテール開発室・店頭ソリューション部部長の柳川得郎、第1デザイン&プロダクトセンター・デザイン&プロダクトマネジメント5部部長佐野修一、第2デザイン&プロダクトセンター・海外プロダクト部部長大瀧貴寛が語りました。 目次 リテール業界の課題を語る デジタルが実店舗の課題を解決する 日本の店はこう変わる AIは人間のアイデアと能力を必要としている リテール業界の課題を語る ——リテール業界、特に実店舗主体で店舗展開する小売業は、ECの成長に押され、難しい局面にあると聞きますが、いかがですか。 柳川 昨今のECの成長は、日本の店舗にとっても相当な脅威になっています。とはいえ、アメリカとは違い、狭小商圏で勝負する日本の小売業はその特性を活かし様々なサービスを提供し集客を図っています。この集客力を利用し、ECへの対抗を意識した施策で、実店舗は大きく変わってきています。具体的には、顧客体験の重視です。リアルとECの決定的な違いは、体験ができるか否かで、店舗はそこに着目しています。 佐野 リアルな顧客体験が大切という見方は賛成です。体験価値を感じてもらうためにも、実店舗の現場にいる人の思いは、お客様に店に来てもらいたいということなんです。そのために私たちも協力してイベントの実施をするのですが、ECで簡単にモノが買えるいまは狭小商圏とはいえ、簡単に店には来てもらえません。やはりオンラインとオフラインをうまく融合させることがカギになっています。実店舗でもデジタル技術の活用が今後ますます重要になってくるでしょう。 左から、柳川得郎、佐野修一、大瀧貴寛 大瀧 海外でも同様にEC市場の台頭により実店舗が持つ役割は変化しています。国によって多少の差異があるかもしれませんが、実店舗での顧客体験がブランドと顧客との関係を築く、より重要なプロセスになっていることは間違いないと思います。だからこそ、顧客に対して最善の体験価値を提供しなければなりません。そのためのコミュニケーションツールとしてデジタルサイネージやロボットなど、様々なデジタルツールが使われています。その点は海外のほうが進んでいるかもしれません。 ——海外のトレンドのキャッチアップは、以前に比べれば早くなっていると思いますが、どうでしょうか。 大瀧 日本人の気質として完ぺき主義でなければならないところがあります。例えば中国では先に導入し、あとからアレンジを考えます。その点で、日本は導入が遅れている要因になっているのかもしれません。逆に海外のトレンドを冷静に見れているのかなと思います。 また、店舗で働く人に求められる能力が高度になりすぎています。もとより必要な商品知識に加え、インバウンド顧客対策として外国語のコミュニケーション能力、さらにはデジタルリテラシーとなると、人材の確保は簡単ではありません。ただ、こうしたことも、遠くない未来にはデジタル技術が解決できるのではないでしょうか。 百貨店の化粧品売り場で取り入れられているスマートミラーなど、店舗でのデジタル導入はますます進んでいる デジタルが実店舗の課題を解決する ——では実店舗でのデジタル導入事例を教えてください。 柳川 AIが顧客の動線と購買行動をリアルタイムで把握し、オールキャッシュレスでレジがない『Amazon Go』のような店は、日本でも実験的な取り組みも含め、徐々に出てきています。実際、AIとIoTを活用した省人省力型店舗の実証実験が一部の小売業でも始まっています。「顔認証決済」「ターゲット別広告サイネージ」「ダブレット付カート」で顧客の利便性向上を図り、一方では「棚上での欠品検知システム」や「AIを活用した発注」「電子棚札(ESL)」では店側の負担を減らし、生産性向上につなげる仕組みです。 佐野 顧客体験をデジタルで豊かにするOMOの好例としては、アメリカの大手高級百貨店チェーンの化粧品売り場でコスメの疑似体験ができる「バーチャルメーキャップ」が稼働しています。同社が求めているのは、美容部員がお客様と接点を持つためのコミュニケーションツールとしての活用で、省人化ではありません。まず疑似体験をしてもらい、その後美容部員が実際の商品を使ってメイクをしてあげます。さらにその様子をサイネージで録画し、お客様の携帯端末に配信する。同時にお客様の電子カルテが作られ、次回のメイク体験も予約できるのです。 大瀧 海外のほうが具体的な導入は進んでいますよね。一つ一つのツールは万能でなくても、顧客との接点をどうアレンジしていくかが重要になってくると思います。例えば接客ロボットが店にあっても、それだけでは不足。それをほかのツールとつなぐことで、ひとつのサービスとして提供するという発想が必要です。 日本の店はこう変わる ——日本におけるリテールテクノロジー導入状況はどうでしょうか。 大瀧 日本でもモバイルIDを使ったキャッシュレス決済は浸透してきていますね。消費増税後、キャッシュレス優遇施策で更に加速すると思います。また、電子棚札(ESL)を導入してダイナミック・プライシングを行っている店舗も増加しています。そういった様々なデジタルツールを使用したソリューションをどうエンゲージメントしていくのかが重要だと考えています。 柳川 本来、実店舗が最もやらなければならないことは、顧客満足の向上です。満足すればその店に通い、売り上げはおのずと担保されます。ECにはできないリアルな顧客体験をプロモーションという形で創ってきたのがこれまでの電通テックであり、この経験値をもとにデジタル技術を融合させて新しい顧客体験を提案していくことが私たちの役割でもあります。 考えるのは大きく2方向で、ひとつは「省力化と省人化」、もうひとつは顧客一人一人に対する「最適化」。一人の人が欲しい商品や、サービスを、最も心地よい最適な形で提案していくことが大切です。そのためにはコミュニケーション機能の充実が最も重要ですね。 佐野 具体的には「リテールテクノロジーソリューション」に取り組んでいます。ロボット、デジタルサイネージ、電子棚札(ESL)の導入アレンジや、顧客体験のコンテンツを提案していくことで、店頭のサポートをします。それによって、顧客情報の収集と活用、人材不足の解消、労働負担の削減による生産性向上といった、日本の実店舗が持つ課題の解決につなげます。 大瀧 電通テックが導入を支援している『Cruzr』(ヒューマノイドロボット)は、顧客データ、在庫データとの連携だけでなく、表情とアクションを交えた接客、顔認証による個人特定、コールセンター接続、セキュリティアシスタント、データ収集と管理が行えます。省力化、省人化だけでなく、新しいエンターテイメントとしての顧客体験も実現します。 AIは人間のアイデアと能力を必要としている ——これまでも接客を目的としたロボットはありましたが、定着は難しかったように感じます。何が課題だったのでしょうか。 大瀧 接客ロボットなどは目新しくて最初は目を引くかもしれませんが、実用的でないと直ぐに飽きられてしまいます。また、操作が複雑すぎても利用しませんよね。直感的に操作ができ、実用的な機能を備えていることが重要なんだと思います。分かりやすいインターフェイスと飽きられない仕掛けをつくり、更にはスマートフォンや様々なデジタルツールとの連動も必要な要素だと思います。ロボットを店頭に置くだけではだめです。 柳川 確かに多機能をロボットに搭載しても、戦略的にどういう役割を担わせるのか考えないといけません。私たちはクライアントと課題を共有し、その答えからロボットのコンテンツを設計していきます。お店に来る顧客一人一人に最適化する手前で、クライアントや店によっても課題は異なるので、そこも一つ一つ一緒に考え、答えを出していく。その過程では人の力と知恵が必要ですが、そこはクリアしていかないとデジタルやAIで実店舗の課題は解決できません。店が変わるためには、つまるところ人と人とのコミュニケーションと、アイデアや能力を形にしていくことがキーになるのだと考えています。 柳川得郎 株式会社電通テック リテール開発室・店頭ソリューション部部長 日雑・飲料・食品メーカー全般の店頭及びプロモーションプランニングを担当。店頭におけるコンシュマーインサイトの発見とそれに基づいたコミュニケーション設計~ショッパーマーケティング領域~店頭販促物提案の活動が中心。㈱電通リテールマーケティング創立メンバー。VMDインストラクター。上級WEB解析士。 佐野修一 株式会社電通テック 第1デザイン&プロダクトセンター・デザイン&プロダクトマネジメント5部部長 国内大手流通クライアントを長年担当。その経験を活かし「リテールテクノロジーソリューションプロジェクト」に参画。 大瀧貴寛 株式会社電通テック 第2デザイン&プロダクトセンター・海外プロダクト部部長 2008年に電通テックに入社。2008年~2012年まで販促プロダクト領域を担当。2013年調達、管理拠点設立のため、中国東莞市に駐在。2017年からは上海拠点のローカライズ化を担当。 Written by: BAE編集部 関連記事:近接マーケティングに効果を発揮する、最新の「ビーコン」活用法 関連記事:飲食店オーナーのOMO的ビジネスのパワーアップ 関連記事:インバウンドの消費行動を広げるバーコード活用の展望