再開発が進み、変化し続ける「渋谷」。昨年には、「渋谷の街をエンターテイメントとテクノロジーでアップデートする」をテーマに、5Gを活用し、渋谷の魅力を発見・発信する「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」も始動するなど、テクノロジーとの融合にも積極的に取り組んでいます。
では、テクノロジーによって進化した「未来の渋谷像」とは、どのようなものなのでしょうか。渋谷区観光協会 代表理事/渋谷未来デザイン 理事・金山淳吾さんにお話を聞きました。
若者の街からすべての人たちに愛される渋谷へ
——昨今、渋谷は再開発によって、街の風景がどんどん変わっています。どんな未来を目指しているのでしょうか?
昨年は、渋谷エリアでもっとも高い地上47階建ての「渋谷スクランブルスクエア第1期(東棟)」がオープンするなど、渋谷の景観に変化があった一年でした。今後、渋谷は再開発によって見た目だけではなく、機能もアップデートすることで「観光都市として世界に誇れる未来都市」を目指していきます。
ではそのとき、「渋谷」とは、どの範囲を示すのか。渋谷駅の周辺だけでなく、代官山や原宿までを含めることで、エリア全体の総合力をアピールし、回遊性を高めていきたいと考えています。
2020年は、立体的な都市公園として「宮下公園」が生まれ変わる年です。名称も新たに「MIYASHITA PARK(ミヤシタ パーク)」となり、商業施設の屋上に公園設備が設けられる予定です。またホテルも併設されることになっています。
商業施設で買い物をしながら緑にも触れられる。ホテルに隣接する公園。どちらも想像しただけでワクワクしませんか? また、商業施設は24時間営業となっており、クラブや横丁など、インバウンドニーズにも対応することで「ナイトタイムエコノミー」の充実にも寄与する予定です。
これによって、ますます「渋谷は面白くなる」といえるでしょう。さらに宮下公園といえば、スケボーカルチャーとの親和性が高い公園として知られていますが、そのイズムは「MIYASHITA PARK」にもしっかり継承され、屋上の公園にはスケートボードパークも設けられる予定です。
つまり宮下公園は今年、「カルチャーはそのままにアップデートする」ことで、生まれ変わるわけです。だからこれまで利用していた方も、新しく利用される方も楽しめる。宮下公園だけでなく、同時に渋谷もアップデートされる印象すら私は受けています。個人的にも、開業がいまから楽しみな施設のひとつです。
——今後、若者の街・渋谷と呼ばれた時代を経て、渋谷はどこに向かうのでしょうか?
「SHIBUYA109」が若者から絶大な支持を得ていた80年代、90年代は“若者の街”と渋谷は呼ばれていました。その背景には「渋谷が乗り換えの駅だった」ことも影響していたでしょう。現在は他社路線との直通運転が増え、乗り換えも少なくなったことで、渋谷はいま「乗り換えで降りる街」から「わざわざ下車したくなる街」になることが求められています。
時代の移り変わりとともに若者の数は減少していましたが、いまも昔も、渋谷がアクセスのいい街であることに変わりはありません。そこに目をつけたのがサイバーエージェントなどのベンチャー企業たちでした。こうして渋谷は若者の街から「大人も楽しめる街」へと自然と進化していきました。今後は渋谷区が掲げる「ダイバーシティ」を体現すべく、テクノロジーと融合することで「すべての人が楽しめる渋谷」へと進化を遂げる予定です。
ターゲットは年代で区切ることなく、トレンドに敏感な人たち、としています。そこには、渋谷自体が年齢層で区切らない街づくりを進めてきたことも関係していますし、現代の生活者は趣味嗜好も人それぞれで、年齢でカテゴライズできないということも影響しています。目指すのは、全世代のトレンドセッターから愛される渋谷です。
「渋谷×テクノロジー」によって、観光とエンタメが進化
——テクノロジーと融合するとは、具体的にどのようなことでしょうか?
渋谷には無数の店舗があり、訪れる人によって行きたい場所も、感じる魅力も違う多面性があります。しかしそのニーズに正確に応えるためには、アナログだけでは限界があります。
観光案内をしようにも、スタッフのおすすめと、ユーザーが求めるものが合致するとは限りません。そこでテクノロジーと融合することで、観光案内もアップデートする予定です。現在すでにハチ公前にある観光案内所には、有人+テクノロジーを活用した多言語マップが設置され、アナログとデジタルのハイブリッドによる案内を実施しています(2020年4月13日現在、観光案内所は新型コロナの影響で、期限未定で臨時休業中)。
こうして細かなニーズや、インバウンドニーズにも対応することで、「ロンドン、パリ、東京」ではなく、「ロンドン、パリ、渋谷」と呼ばれるようなグローバルな観光都市へと成長していきたいと考えています。
——5Gが普及すれば、テクノロジーが観光面で活躍する場面も増えそうですね。
はい。現在、KDDI、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会の三者で「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」を発足し、渋谷区全体を「5Gエンタメ」の街として盛り上げていくプロジェクトが進んでいます。アート、音楽、ファッションといった渋谷が有するエンターテインメントなどのさまざまな文化を5Gによって深化させることで、さらに「楽しい街」へと進化していくことを目指しています。
今年の1月には、ハチ公前に5Gの基地局が設置され、周辺の特設ブースでは、1964年の渋谷にタイムスリップできる「au 5G体験イベント〜渋谷 1964 to 2020〜」が行われました。
ブースでは「1964 TOKYO VR」より提供された3DVRデータをもとにライゾマティクス社が制作したXRコンテンツを参加者が体験。ノスタルジックな渋谷の光景に、参加者それぞれの年代によって、さまざまな感慨がわき、思い出を語る方もいれば、若い方だと、景観の違いに驚かれている方もいました。
その反応の大きさに、5Gエンタメのポテンシャルの高さを実感するとともに、歴史は本来、目には見えませんが、見ることができれば、それは街を楽しむ新たな手段となり、魅力となりえるのだと感じました。
また「街×プロジェクションマッピング」にも大きな可能性を感じています。
先日、渋谷・スペイン坂で、プロジェクションマッピングを活用し、路面に「右通行と左通行のライン」と「歩行する矢印の向き」を表示する施策を実施。矢印と同じ向きに沿いたくなる摂理をパブリックアートとして表現し、声かけなどを行わず、自然と上りと下りの歩行者に分かれる、円滑な交通整理に成功しました。
人を誘導するだけでなく、景観にも変化があったことで、訪れた人たちをワクワクさせる効果も生み出すことができ、“見えるテクノロジー”の持つポテンシャルの高さを実感することができました。
渋谷がさらに飛躍を遂げる2027年
——今後、渋谷は観光都市として、さらなる進化を遂げていくのですね。
渋谷は、動物園や水族館、遊園地のような大きな観光資源がある都市ではありませんが、「人を集めることのできる」街です。そこにテクノロジーをプラスすることで、街全体をメディア化したいと考えています。メディアとは、人と情報をつなぐ場所です。現在も、渋谷のビルには大型ビジョン広告などのOOHがありますが、プロジェクションマッピングを活用すれば、場をさらに増やすことが可能です。
さらにARを活用すれば、スタンプラリー的な要素をAR空間上に設けることで、街歩きイベントも実施できるなど、さまざまな可能性が秘められています。
ほかにも、ソニーと立ち上げた、官民一体の創造ラボ「♯SCRAMBLE」で披露された、未来のデジタルペン「Doodle Pen(ドゥードゥル ペン)」は、AR上でどこにでも落書きができるガジェットです。これなら街を汚さず、どこでもグラフィティが楽しめる。いつか「サイバー界のバンクシー」がそこから生まれる可能性もありますし、新たな才能が育まれる場としても期待しています。
このように、カルチャーとテクノロジーを組み合わせることで、新たな形に生まれ変わらせることもできれば、加速することもできると感じています。
——2027年をターゲットに、3万人規模を収容可能な「代々木公園サッカースタジアム構想」も推進しています。これまでなかった大規模イベントが渋谷で増えることで、さらに注目を集めることになりそうです。
渋谷には、さまざまな施設がありますが、実はこれまで大規模のスタジアムがありませんでした。それが解消されることで、大きな飛躍を遂げ、さらなる活気が渋谷に生まれることになるでしょう。その点でもこの10年は、渋谷にとって重要な年になると考えています。
ほかにも、渋谷区はすでにLINE公式アカウントと連携し、LINE上で子育て情報発信を行っていますが、このプラットフォームの活用を推奨しており、ユーザーにとって必要な情報をパーソナライズ化して届ける構想もあります。
そのすべては、渋谷区の基本構想に基づき進められているもので、私はその実現のサポートをしている立場にあります。渋谷区は、官民一体のまちづくりを推進しています。さまざまな企業と連携することで、美しい未来を描いていこうとしています。
トレンドに敏感な人々が集まる渋谷だからこそできることがあります。その渋谷で受け入られるということは、大きな意味を持っていますし、そこに魅力を感じている企業も多く存在しています。ぜひ「渋谷」に興味のある企業には、積極的に参画してほしいと思います。そしてその輪を広げるサポートを、今後も私は全力でやっていきたいと考えています。
テクノロジーと融合することで進化する「渋谷」。その未来では、ARやプロジェクションマッピング、デジタルサイネージ、5Gなど、さまざまな技術が活用され、街全体がメディアとなって、訪れる人々を楽しませることになりそうです。その動向に、世界から注目が集まるのではないでしょうか。
- Written by:
- BAE編集部