2019.11.15

離れた位置からもスマホで読み取り可能。景観を邪魔せず情報を伝える新たなコードが登場

リアルとネットが繋がる「XPANDコード」の将来性

スマホやリーダーでスキャンして、情報やアプリに繋げるJANコードやQRコード(※)。これらに次ぐ“第3のバーコード”として、近頃注目されているのが「XPAND(エクスパンド)コード」です。
横に細長い仕様で、5m以上離れた場所からも読み取りが可能であることなどから、今までとは違ったリアルとネットのタッチポイントとして機能することが特徴です。その独自性や詳しいメリットについて、XPAND株式会社の南木さんにお話を伺いました。
(※)QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

目次

景色になじみやすく、遠くからも読み取れる

——XPANDコードとはどのようなものでしょうか。JANコードやQRコードとの違いは何ですか。

XPANDコードは、スマホで遠くから読み取れる、横に細長いデザインのコードです。技術的にはJANコードの拡張版であり、他のコードとの最も大きな違いは、その形です。

——どのような経緯で誕生したのでしょうか。

私たちのもともとのビジネスに、鉄道の案内サインのデザインを手掛ける分野がありました。2010年頃に、地下鉄の表示を新たに拡張したいという依頼があり、その過程で試作したのがこのコードです。
例えば、駅のホームやコンコースに、細長い案内掲示板がありますね。これにQRコードなどを表示して、スマホで読み取ると多言語での表示や詳細な情報へと飛べるようにしたかったのですが、QRコードだとデザイン的に収まりが悪く、離れた場所からの読み取りも難しいことがわかりました。
そこで、スペースに合うデザインで、用途にも応じられるXPANDコードを生み出したのです。

手元で読むには便利なQRコードだが、細長い案内板などにはマッチしにくい。この解決策として誕生したのがXPANDコード
案内板や標識からコードを読み取り、手元のスマホに追加情報や翻訳内容を表示する

基本的には、幅30cmくらいのコードを1~5mほど離れた位置からスキャンすることを想定していますが、縮尺を変えなければ、幅3cm~数十メートルまで拡大縮小可能です。
埼玉スタジアム2002で行った実験では、約20m幅のXPANDコードを大型ビジョンに映し出し、215m先から楽に読み取ることに成功しました。

——ありそうでなかった発明ですね。

既存のコードはデータを納める符号化の技術が軸であり、「空間に合わせた場合に美しいかどうか」は想定されていませんでした。そこで、デザインとデータキャリアの面をいったん分けて考え、そのうえで合致させたことがポイントです。

——XPANDコードの作り方と読み取り方はどうなっているのでしょうか。

現状は私たちでコードの制作を請け負っています。リーダーについては、広く実装していただくために、QRコードアプリやバーコード読み取りアプリで読めるように対応を進めています。現在は4種類のリーダーアプリで読むことができます。

上段が無料版。中段がプロフェッショナル向け。下段が企業向け。端にQRコードを表示したり、色を変更することも可能

ちなみに読み取りからサイトへのリンクは安全性に配慮してサーバーを経由しており、コードの改造や、貼り換えて別のサイトに誘導することなどができないようになっています。

——XPANDコードを記載したサインステッカーをコンビニやファストフード店に展開されているとのことですが、どのような内容でしょうか。

「禁煙」「通話禁止」「優先席」「防犯カメラ作動中」など、主にJISやISOに対応した注意喚起や案内表示の下にXPANDコードを記載して、多言語翻訳に誘導するステッカーを販売しています。 XPANDコード自体の認知と普及の試みでしたが、好評です。

大手コンビニやファストフード店、飲食店、医療機関など、全国約1,000カ所で、インバウンドへの対応や、外国人材の受入れ・共生に応じる形で 利用されている

——既存のJANコードやQRコードとはどう使い分けるべきでしょうか。

商品ならJANコードが必要でしょうし、名刺、ハガキ、チラシ、その他紙媒体など、手元で見る印刷物ならQRコードが適していると考えています。 XPANDコードは“空間向け”なので、コードの掲示によって景観を壊したくない場合や、限られたスペースの利用効率を高めたい場合に最適です。また、先述の通り、やや遠くから読み取る必要がある際に適しています。QRコードとはケースに応じ使い分け、併用するのが望ましいでしょう。

XPAND株式会社 代表取締役社長 南木 徹(なんもく・とおる)さん
XPAND株式会社 代表取締役社長 南木 徹(なんもく・とおる)さん

人混みがあっても頭越しにスキャンして情報を入手

——XPANDコードは現在、どのような場所で導入されているのでしょうか。

帯広駅のバスターミナル「おびくる」の、十勝バス発車案内サイネージに採用されています。

発車案内のサイネージに表示されたXPANDコード。 読み取ると、バスのロケーションシステムにリンクする

展示会や見本市会場内でのアテンドにも好評です。ブースに人混みがあってなかなか近づけない場合などにも、ブースやパネルの上部に設置したXPANDコードを読み取って資料をダウンロードしたり、他言語に翻訳して手元で確認する、といったことを可能にします。

近づかなくてもスキャンできるため、「スキャンする=関心がある」ことを周囲の他人に知られにくい。プライバシー保護の観点から見てもプラスに

——QRコードとの組み合わせで、ビーコンとしても利用できるそうですね。

フランスで開発された施設内特化型ナビ「Mapwize」のシステムを採用して、施設内ナビゲーションに使えるサービスを展開しています。
施設内ナビはBLEビーコンやWi-Fiを使って測位するタイプが主流ですが、私たちのサービスはXPANDコードやQRコードを読み取り、位置補正を行う簡易なタイプです。位置情報は取得せず、身体の向きや進む方向をジャイロで追随します。

展示会や見本市会場など、通信環境が安定しにくかったり、ネット上で詳細な地図が提供されない場所で、必要な時に自分や目的地の位置のみ知る、といった使い方を想定していますが、今後Wi-Fi等との複合で、拡張していける可能性があります。

——プロモーションなどに密着した例はあるでしょうか。

試験搭載の段階ですが、アドトラック(広告トラック)の110インチ大型モニターの表示の下部にXPANDコードを表示して、停車中またはごくゆるやかな走行中に読み取ることに成功しています。

画面への表示も可能。マルチパネルやモニターのベゼル(つなぎ目)をまたいでコードを表示しても読み取れる

景観とテクノロジーを生かす街づくりに最適

——今後、XPANDコードの活用はどのように広がっていくでしょうか。

展示会、イベント、スポーツ競技等では、もっと活用してもらえると考えています。例えば、遠距離から演者や選手のウェアやユニフォームのXPANDコードを読み取ると、スポンサーの一覧と特別なコンテンツが表示されるといった使い方が考えられますね。
他にもクラウドファンディングを行った際に、応援してくれたファン全員の名前を表示するといったこともできそうです。野球の独立リーグや、Jリーグの下部組織チームから、そのような使い方について関心が寄せられています。

ユニフォーム等を撮影した写真上のコードをスキャンすることも可能

また、看板や大型ビジョン、車体ラッピング、駅構内の広告、電車内の中吊り広告など、交通広告や屋外広告(OOH)との相性がいいことは間違いありません。

どんな空間にもなじみやすく、悪目立ちしないが、コードであるという視認性は保たれる

郊外にテクノロジーを活用した都市計画設計を進めている東南アジアや中東の都市から、スマートシティの交通標識などに、XPANDコードを使えないかというご相談をいただいています。景観の保護を重視する欧州各国や、看板文化が根付いている香港や台湾などの都市でも、街中の情報提供を拡張するという点で大いに役に立つのではと考えています。

XPANDコードが導入された都市と、QRコードのみの都市のイメージの比較

——今後の課題と、展望について教えてください。

技術的な課題としては、大きいコードを近くから読めるようにしたり、光が反射する看板でも読めるようにするなど、読み取りの精度をさらに高めていきたいと考えています。
スマートグラスなど、他の技術との掛け合わせにも将来性があるかもしれません。例えば、視覚障碍者用のスマートグラスで街中のXPANDコードを読み取り、音声ガイドに役立てるといった使い方がイメージできます。

最も大きな課題は、認知度の向上です。基本的に、ユーザーからの視認性や識別性は優れていますし、「スマホでコードを読み取る」というアクションも普及して、詳しい説明はいりません。
ただ、現状はXPANDコード自体を知らないという人がほとんどだと思いますので、引き続き駅や展示会など、人が集まる場所での利用や紹介を進めていきます。サインを起点に情報を繋ぐという点から、空間の価値向上に寄与できると考えています。


「景観になじみやすいが、識別性には優れており、遠距離からも読み取れる」という、ありそうでなかった発明を実現したXPANDコード。ネットとリアルを繋ぐ新しい扉として、求められる機会が増えそうです。今後、OOH施策やイベント、展示会などにおいても、新たなクリエーティビティや利便性の向上をもたらすでしょう。

Written by:
BAE編集部