2019.08.09

拡大を続けるVR世界。リアルとバーチャルの間に見えてきた、新たな市場の可能性とは

バーチャルマーケットが切り拓く「パラリアル」な世界

VirtualMarket3コンセプトアートより

拡大が続くVR(仮想現実)世界。タレント的な活動を行う「VTuber」以外にも、VR世界に長時間滞在して、仕事や趣味を楽しむ「VR市民」が増加しています。今、このVR市民の動向や経済活動に、大手通信会社やゲーム会社を始め、アパレル、音楽、広告、投資家など、様々な方面から注目が寄せられています。
実際に、VR内では現在、どのような消費活動が行われているのでしょうか。また、VRとリアルの間にまたがる「パラリアル」と呼ばれる世界に広がり始めた新たな市場には、どれほどのポテンシャルがあるのでしょうか。
世界初のVR展示即売会「バーチャルマーケット」を運営するVR法人HIKKYの舟越さんにお話を伺いました。

目次

仮想現実の世界に誕生した市場が急成長

——米IDCの調査によると、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を合わせた世界市場規模は年平均で約78%成長し、2023年には1,606億ドルに到達すると予測されています。国内では、ソフト、ハード、サービスといったB to Bだけではなく、B to C、C to C市場や、VRの中での経済活動の成長が注目されていますね。

はい。その代表格と自負しているのが、私たちの開催する国内最大・最先端のVR内での展示即売会「バーチャルマーケット(通称:Vケット)」です。2018年8月開催の第1回は、出展ブース数は約80、来場者数は数千人規模でしたが、2019年3月の第2回には、出展ブース数は約400、来場者数は約12万5千人と急成長しました。現在は2019年9月の第3回開催に向けて準備を行っています。開催日数は3日間から5日間に伸ばし、出展ブースも600ブースに拡大します。

参加者は20代、30代の男性が中心ですが、「VR=熱心なゲーマーばかり」といった認識はもはや過去のもので、彼らの趣味嗜好は多岐にわたることが分かっています。また、今年に入って女性の参加者も急増しています。

来場者数詳細 来場者数125,000人 国内については、人口比に近い地域別来場者数が訪れている=地方からも首都圏と同じように来場している
来場者の特徴 ・20代前半~30代前半の男性 ・ヘッドマウントディスプレイという効果な機材を購入し、自らVRに入るモチベーションとリテラシーの高いオタク層 ・趣味に時間とお金を大きく割く
「Vケット2」来場者数の詳細と来場者の特徴。海外からの来場の割合は15%程。うち半数が韓国から、さらに半数は米国からの来場者(バーチャルマーケット3資料より)

——仮想現実世界の市場であるVケットが成長した理由は、どこにあるのでしょうか。

Vケットに関して言うならば、VR世界を快適で楽しくするため、また、経済活動を成立させるために、VR市民(仕事や趣味のためにVR世界で多くの時間を過ごす人々)が作り出した場所であることが、拡大の最も大きな理由です。海外にも企業が主導する近しい形のイベントなどはありますが、規模は数千人止まりで、滞在時間等も短い傾向にあります。国内でも、有名VTuberのライブイベントなどが人気ですし、動画の再生回数は多いですが、Vケットのように1カ所の空間に数日間の開催で、これだけ多くの集客に成功した例はありません。

「Vケット2」の会場の様子。ブースのデザインは一般の出展者が手掛ける。ブース内のQRコードを読み取り、ECサイトからアイテムを購入する(※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です)

Vケットはいわば、有志による村(集合体)のようなもので、集う村人たるVR市民が暮らしやすい環境や雰囲気を最優先して、少しずつビルドアップしてきました。
そのため、Vケットの試みや姿勢とは相反する資本の流入は避けて、広告やPRも徹底してユーザー目線にこだわり、ユーザーが楽しめるもののみを展開しています。また、イベントとしてのプランや成長をSNSや動画サイトを通じてアナウンスすることで、参加者に協力や応援を仰いできました。この点は、他の市場にはない本質的な特徴です。

VR市民の交流に重要な役割を担うのはSNSや動画サイト。VRを不在にしている間も、SNS上で市民同士による活発なコミュニケーションが行われている

現実とVRの間に形成される「パラリアル」な世界

——Vケットでは主にVRアバターやアバターの洋服や小物、モーション(動作や表情)等が販売されていますが、このようなVR上のデジタルデータの販売はさらに拡大するでしょうか。

在庫管理が不要で、量産が可能ですから、今後Vケット以外の市場でも存在感を増していくでしょう。

——実際に、アパレル等のモノづくりを行う企業も、VRアバターのファッションアイテムなどのデジタルデータを制作・販売するといった企画を進めているようですね。

はい。小売り市場の可能性は大きいですし、販売物についても、非常に多くのバリエーションが考えられると思います。

例えば、リアルで販売されているTシャツに、VRキャラが着るデジタルデータをプラスして販売したとします。自分と自分のアバターがお揃いの洋服を着られたら、きっと楽しいですから。これを付加価値として、3,000円のTシャツが3,500円で売れるかもしれません。
Tシャツのデータの二次利用権を付加したり、毎月新しい柄に変化するといったサービスをプラスするなど、工夫次第でさらなる価値の向上も望めます。当然、リアルアイテムとデータを、別々に販売することも可能です。

——「VRとリアルが重なる部分」に、新しい価値が誕生しつつあるイメージでしょうか。

そうですね。私たちはリアルとバーチャルを行き来して生活することや、リアルとバーチャルが重なった世界を、「パラリアル」と呼んでいます。
小売りだけではなく、医療やゲーム関連では、すでにVRを使って多くのことが実現されつつあります。今後VRが全産業に関与していくことは間違いなく、それに伴ってパラリアルも拡張していくでしょう。

広告やプロモーションの領域についても、パラリアルには多くの可能性が広がっています。例えば、VR世界ではユーザーは多くの場合、ゴーグルを装着していますから、視界全体をジャックすることができてしまいます。だからこそ注意が必要なのですが、工夫次第で「ユーザーが求めているもの」を見せられる新たな広告のスペースが生まれます。

——具体的には、どんな表現の可能性があるでしょうか。

VR上では様々な実験・体験も可能です。

目の前で未来のテクノロジーを再現したり、広大な空間を登場させたり、自分が巨大化したり、空を飛ぶことなども、自由自在です。音楽に合わせて色や光を浮かべたり、何かに触れると一瞬で変身するなど、VRにしかできない表現方法や、VRならではの演出を工夫することで、ユーザーを魅了できると思います。

例えば、「Vケット2」の中では、ある企業の協賛で、ユーザーにドリンク型のアイテムを配布して、それをゲットすると自分のアバターの周りにキラキラの星が飛び出す、という仕掛けをして、好評を得ました。ユーザーに実際にドリンクを試飲してもらうことはできなくても、星による表現を通じて「アバターが喜び、美味しいと感じた」というように見せることができます。VRの中ではそんな風に、アイデア次第でユーザーにいくらでも新しい価値や未知の体験を提供できるのです。

自らの望む姿に形を変えることも、現実には不可能な体験をすることも可能(バーチャルマーケット2資料より)

魔法のようなクリエーティブにこだわらなくても、すでに現状のイベントやキャラバンなどの多くは、VRを活用することで、低コストでより大きな効果を得ることができるでしょう。
例えば、PRのために数千人をリアル会場に呼んでゲーム大会を開催するには大変なコストがかかりますが、Vケットで参加者を募れば、同規模のゲーム大会もVR内で気軽に開催できるはずです。またリアルの大会と同時にVR空間でも観戦できるようにすれば、遠隔地からでも会場と同じ体験を楽しむことができます。混雑や順番待ちの行列もなく、目の前でキャラクターの対戦が見られたり、多言語対応の実装によって、世界中から人を迎え入れることができます。アンケートや投げ銭等の仕組みも設置できますから、テストマーケティングの場としても気軽に活用できます。

「VR内ではユーザーが限定される」という懸念もあるかもしれませんが、今後は現実との差はどんどん縮まっていくはずです。現状でも、決して参考にならない市場ではないと思います。パラリアルならではのクリエーティブや、仕組みを利用した広告やPRは、今後も確実に増えていくでしょう。

舟越 靖(ふなこし・やすし)さん
VR法人HIKKY(ヒッキー) 代表取締役 舟越 靖(ふなこし・やすし)さん

5Gによって都市はVR化する

——今後もパラリアル市場が順調に伸びていくための、課題などはあるでしょうか。

バーチャルアイテムの販売等については、データの価値や永続性、クリエーターの権利等を、IDやブロックチェーンを使ってどう担保・管理していくかという点や、どんなアバターモデルの仕様にも適応できる規格作りなどが課題です。
しかし、現状では資金と技術さえあれば、どれもクリアできます。ただ、ガラパゴス化してしまわないよう、ルールや取り組みは柔軟に決めていく必要があるでしょう。

店舗展開やイベント等についても、どんなアイデアも技術的にはやろうと思えば可能にできる時代になりました。今後5Gや8Kが浸透すれば、リアルタイムで現実と見間違う体験が可能になります。
私たちも、アパレル流通・販売の大手企業「WEGO」とコラボレーションして、リアルアイテムとVRアイテムの両方を、オンラインでもオフラインでも買うことができる、パラリアルなブランド「VADER×VADER(ベーダー ベーダー)」を展開します。最終的には、VRの中でユーザーと店員が双方向のコミュニケーションをとることができ、現実と同様に買い物ができる状態を目指していきます。

パラリアルの進化によって「もう一つのリアル」ができれば、経済的な市場も間違いなく広がるでしょう。私たちは近い将来、「都市はVR化する」と予測していますし、その始まりとして、東京のVR化を推進していきます。ただ、冒頭でもお話しした通り、VR世界は誰のものでもなく、市民主導で形成される集合体です。パラリアルでのビジネスやプロモーションに取り組む際にも、「集合体にとって何が望ましいか」という点を、意識し続ける必要があるのではないでしょうか。


今後はデバイスの普及や5Gによって、VR市民の数はさらに拡大が予想されています。
VRの特性を生かした表現や演出を活用したり、既存のアイテムに新しい価値や未知の体験を付加することで、リアルとバーチャルの双方にアプローチできるような、今までにない物販モデルやサービスも登場しそうです。リアルとバーチャルにまたがる「パラリアル世界」の企業活用は、今後ますます拡大しそうです。

Written by:
BAE編集部