人気ゲームのワールドやIT企業によるプラットフォームなど、VR世界やXR上に広がる「メタバース」。その中で、趣味やコミュニケーションを楽しんだり、仕事や買い物をして過ごしたりすることが、カルチャーを越えたライフスタイルの一つとして、世界中の人に受け入れられ始めています。
並行して、仮想空間内での商品の販売や、PRや販促、OOH等を行う企業も増えてきました。VRコマース、VRマーケティング等と呼ばれるこれらの事例や効果について、世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」を主催するVR法人HIKKY 代表取締役 CEOの舟越さんに伺います。
人々が集い、活発な交流や経済活動が行われる“メタバース”の世界
——ITやエンタメ関連の企業だけでなく、小売りやインフラなど、幅広く様々なジャンルの企業や団体が、VR空間内等での販売やPRに取り組む例が増えてきました。背景にはどのような理由があるのでしょうか。
ここ数年で、VRやXRを活用したエンタメや経済活動が確立し、「メタバース」という概念がブームになっていることが、最も大きな理由でしょう。
コロナ禍で、ユーザーとの新たなコミュニケーションの方法が模索される中、VR空間やメタバースのメリットや可能性に注目する企業が増えてきました。
◆VR空間……VR(仮想現実)を活用したバーチャルな空間。VR空間を活用したVRゲームや、VR店舗、VRワールドなどが存在する
◆XR(クロスリアリティ)……VR、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などの総称。「VR×AR」などを組み合わせた世界などを指す場合もある
◆メタバース……現実世界をVR空間内やゲーム内などにトレースした世界。人が集い、コミュニケーションや経済活動が行われる。多くのプラットフォーマーがメタバースの構築に乗り出している
VR空間に、体験、映像美、ゲーム、コミュニケーション等を求めて人々が集まり(VR市民とも呼ばれる)、アバターなどの3Dアイテムのほか、洋服、PC、飲食物といった “リアル商品” が売れるようになりました。
しかも、既存とは違う層にも売れることなどもわかってきて、VRやメタバースへのアプローチが、感度の高い企業を中心に、当たり前になってきた――という流れができてきたのです。
——HIKKYが主催されている「バーチャルマーケット(以下、Vケット)」にも、多くの企業が参加していますね。
はい。2019年9月開催の「Vケット3」の出展企業数は30社でしたが、今回(2021年8月)の「Vケット6」には、70以上の企業やIPによる出展がありました。VRの幻想的なワールド内に、一般のクリエーターによる展示のほか、様々な企業ブースやIPのアバターが展示されました。
出展企業の業種やジャンルは非常に幅広く、純粋に「Vケット」の規模や品質を評価してくれた企業、自社のVRプラットフォームとは別の場所での展開を試したいという企業、とにかくVR世界で何かに挑戦してみたいという企業など、意識や考え方も様々でした。
——「Vケット」に参加するユーザー層も拡大しているのでしょうか。
以前は、ネットカルチャーやゲームに親和性の高い男性ユーザーが「Vケット」に参加する “VR市民” の中心でした。しかし、HMDを持っていない人でもPCやスマホから参加できるようになったことから、さらに様々なユーザーが興味を示してくれるようになりました。近年の来場者数は100万人を越えています。
いわゆる“乙女ゲーム”に関連する出展や、有名アーティストのライブの開催などをきっかけに、女性の割合も増加しています。参加者の年代の多くは、男女ともに20代、30代です。開催中は24時間オープンのため、中国や韓国、欧米からも多くの来場があります。
魅力ある企業ブースが多数出展。リアル商品やPRが充実してきた
——「Vケット6」で特に話題となった企業ブースの様子などを教えてください。
どのブースも人気でしたが、今回の見どころをいくつか厳選して紹介しましょう。
東日本旅客鉄道
「バーチャル秋葉原駅」を設置。本物そっくりの構内や改札を通り、3Dモデルの車両に乗り込むと、Vケットワールド内の上空を1周できる。JR東日本が掲げる「Beyond Stations構想(※)」の一つである、「新たなビジネスを創発する拠点」としての駅のイメージが体験できるコンテンツに。
※ 生活における「豊かさ」を起点に、駅のあり方を変革し、暮らしのプラットフォームへと転換する、JR東日本によるビジネス構想の一つ。
ヤマハ発動機
スーパースポーツバイク「YZF-R1」と、パーソナルモビリティ「MOTOROiD(モトロイド)」を3Dで再現。自分のアバターで試乗でき、出展会場入り口からワールド内を自由に疾走することが可能。実写さながらの車両の動きや、サウンド、爽快感が体験でき、バイクが持つ魅力や乗る楽しさが体験できる。
BEAMS
1Fエリアでは「キン肉マン」「PUI PUIモルカー」などとコラボしたソフビ人形などのリアル商品や、3Dアバターを展示販売。2Fは、牛乳石鹸共進社とビームス ジャパンによるコラボ企画をイメージしたエリア。アバターをチェンジして銭湯に入るなど、ユニークなギミックが楽しめる。リアルタイムでのオンライン接客も実施された。
大丸松坂屋百貨店
次世代型店舗「バーチャル大丸・松坂屋」は、百貨店業界初の「飛び出すカタログ」を設置。夏のおすすめグルメの銘品の魅力が、3Dモデルとともに表現された。ECサイトへのリンク等から、実際の食品を購入できる。
NTTドコモ(XRブース)
近未来的なモデルのブース内に、ドコモによるXR事業を紹介するエリア、パートナーであるコンテンツ企業との取り組みを紹介するエリア、XRを活用した人気アニメのコンテンツを紹介するエリアなどが展開された。
東京藝術大学COI拠点×三井不動産株式会社
東京藝大の学生や出身クリエーターによるアート作品31点を展示。来場者が、気に入った作品に「イイね」を押せる仕組みに。審査員の講評なども実施され、高く評価された作品は、リアルギャラリーでの展示が予定されている。
ちなみに、ワールド内の道路やビルなどには、企業の看板やサイネージも沢山設置しました。近づくと音楽が聴こえたり、二次元コードで別のサイトに誘導したり、といった機能や役割があるだけではなく、サイネージもVR内での体験を支えるコンテンツの一つとして制作しています。
VRならではの体験を通じたコミュニケーションがカギに
——昨年の「Vケット」等と比べても、アイテムの販売やPRがさらに進んだ様子が見受けられます。
そもそもの「Vケット」は、2018年に3Dアバター等の個人間売買を目的にスタートしたVRイベントです。しかし、回を重ねるごとに沢山の人が集まるメタバースに成長し、お話ししてきたような大手企業による参入が相次いだことで、リアル商品やPRに関するコンテンツも充実してきました。
盛況なのは「Vケット」だけではなく、その他のVRイベントやVR店舗で成果を得る企業も増えています。もちろん、我々の中でも企業参入のポイントやノウハウなどの積み重ねができてきました。
VRコマース、VRマーケティングの成功のカギは、VRならではの体験やコンテンツを実現する、魅力的なアイデアや技術が次々と発明されてきたことや、リアルとバーチャルを融合させた取り組みなどにあると考えています。
後編では、実際の企業ブースやVRコマースの効果や、企業参入のポイント、今後のVRマーケティングの可能性等についてお話しします。
- Written by:
- BAE編集部