今年もアメリカ・ラスベガスで、50年以上の歴史を持つテクノロジー関連のカンファレンス「CES 2020」が開催されました。昨年は、TOYOTAやHONDA、フォード、メルセデスベンツなど、自動車メーカーの展示と発表が増え、自動運転や電気自動車、つまりオートモーティブのトピックが注目されるようになりました。2020年のCESもやはり、もっとも注目すべきキーワードとなったのは「MaaS(Mobility as a Service)」。その話題をはじめ、昨年から引き続き話題となっているヘルステック、フードテックなど、展示会の模様をBAE編集部の視点でレポートしたいと思います。
IoTガジェットは、アクティビティから「家族」の時代へ
CESを主催するCTA(全米民生技術協会)は、今年のトレンドを分析するプレゼンテーション「テックトレンド」の中で、2022年までに、3分の2が現在の4Gから5Gに入れ替わると予想しました。CESで発表されているMaaSでも、IoTでも、5Gが技術のベースになっていることは間違いなく、大企業が5Gを主導することでIoTの形が変わっていくとし、大きな期待を寄せました。
そんなIoTですが、CESのIoTガジェットを展示するエリアである「Sands Expo」の会場で今年もっとも注目されたトレンドといえば、2年ほど前から盛り上がりを見せている「ベビーテック」でした。
IoT系の発表では、以前は「ダイエットや健康志向」を目的とした体を実際に動かす”活動“にまつわるプロダクトやサービスが多い印象でした。そしてこれが浸透すると、代わって注目されたのは「スリープテック」。2年前から全米で、眠りの質が注目されるようになったのと共に、「スリープテック」のコーナーが新設されました。そのあたりから、能動的な活動よりも、普段の生活の質に対してIoTを取り入れていこうという動きが目立ち始めました。
今回、注目を集めた「ベビーテック」は、出展数が増えたこともそうですが、業界大手であるP&Gが本格的にベビーテックの分野に参入したことで、ビッグワードとして、さらに存在感を増していました。今後本格的に一般家庭への普及が進みそうな気配が感じられます。
そのP&Gが発表したのは、パンパースブランドから、世界初のオールインワン・コネクテッド・ベビー・ケアシステムと名づけられた「Lumi」。Lumiは、おむつの中央部分に取り付けるセンサーと、ベビーベッドなどに取り付けられるHDカメラモニター、それを管理するアプリで構成されています。
このように、生活の中にすでに取り込まれている家電をIoT化することで、管理のしやすさや利便性を追求する流れは、最早当たり前になりました。これからの家電メーカーは、育児中の忙しい親たちが不便なく使えるユーザーインターフェースの追求を求められるようになるでしょう。
今回は、ベビーテックや教育のジャンルに「ファミリーテック」という看板がかかげられました。IoT化された家電や、セキュリティなどのスマートハウス(スマートホーム)というカテゴリーと共に、「ファミリーテック」の分野は、家事や育児をスマート化する家族の在り方として、ますます注目を浴びそうです。
MaaSは各社、実践のための準備段階に突入
昨年と同様に発表が相次いだMaaSですが、昨年までは自動運転車そのものの発表が多かったのに比べ、今年はすでに発表された自動車をどう運用するか、活用に向けて動き出す“具体的なビジョン”を発表する場となっていました。
自動運転によって人々が運転から解放されることで、自動車という空間の中でいかに過ごすかということもMaaSの1つのテーマです。そういう意味でも、今回MaaS関連でもっとも大きな注目を集めたのはSONYの発表です。世界各国のメディアのみが参加できるプレスデーのカンファレンスでお披露目したのは、コンセプトカー「VISION-S」。SONYが自動車を発表した、と日本国内でも大きな話題になったため、ご存知の方も多いことでしょう。様々な部品メーカーと共に作り上げたというコンセプトカーには、SONYらしいこだわりが詰め込まれていました。
たとえば「Safety Cocoon(セーフティーコクーン)」という技術。これは、自動車の周囲360°を認識するセンサーで安全性能を高めるもの。また、さすが音響技術のSONY、と思わせたのは、「360 Reality Audio」。シート内に内蔵されたスピーカーで、音楽や映像を3Dで楽しめるなど、自動運転化が進む車内で過ごす時間を充実させるものになりそうです。
韓国の自動車メーカーであるヒュンダイは、Uber Elevateと共同開発した、いわば空飛ぶタクシーのコンセプトモデル「S-A1」を展示。
ブースでは、空飛ぶタクシーが発着する場所をハブと捉えたスマートシティの在り方が提唱されていました。たとえば、自宅でアプリを使って、空飛ぶタクシーでのピックアップの依頼をすると、自動運転の電気自動車が迎えに来ます。そして空飛ぶタクシー乗り場まではその電気自動車が連れて行ってくれるというもの。
なお、移動車両はPBV(purpose Built Vehicle)とよばれ、自宅と病院をつなぐ自動走行車としての概念も提案されており、日本では地方格差の解消につながるヒントの1つになりそうです。
また、航空会社として初の大規模な基調講演とブース出展を行ったデルタ航空は、シームレスでストレスのない旅を提供するための取り組みを発表しました。その発表の中で、一際注目を集めたのは、パラレルリアリティを使った電光掲示板です。
通常、空港の掲示板には、これから自分が乗る飛行機の情報や、チェックインカウンターの場所が示されますが、細かい文字がたくさん並んだ掲示板から、自分の情報を探し出すまでには時間がかかります。その面倒さを解消するため、掲示板の前に立つと、自分に必要な情報だけが見えるというサービスを発表したのです。この技術は空港だけでなく、スマートシティの中での活用法も期待されるものとなりました。
フードテックは利用シーンがイメージできるプロダクトが登場
また今回のCESで、キーワードとして外せないのが「フードテック」です。一般的に「フードテック」という言葉が盛り上がったのは2019年に入ってからですが、CESでは、ここ2年ほど「人工知能が調理するオーブン」や「焼き立てを食べられる食パンの自動販売機」など、料理や食に関するIoT家電が発表されてきました。今年は、単なるスマート化から一歩踏み込み、利用シーンを想定したものが目立つようになりました。
パナソニック発のスタートアップShiftallは、スマート調理家電「Cook’Keep(クッキープ)」を発表しました。Cook’Keepは炊飯器のように見えますが、スマートフォンを使い、遠隔で食材や料理の温めと冷蔵ができる調理家電です。
また、フードテック分野では、実際の機器だけでなく、食材・素材の分野も発展を見せています。カリフォルニア州の企業「インポッシブル・フーズ」は、2017年に大豆レグヘモグロビンを使った、本物の肉そっくりの人工牛肉を発表。すでにアメリカ・香港などで販売されているものの、今回のCESでは「豚肉風」の人工肉が発表され、イベントで試食が振る舞われました。
いま欧米では、ヴィーガンに転向する人も多く、世界的にも地球保護の観点から食肉の在り方が問われています。日本でも、こうした人工肉が近々上陸するかもれしません。
今年も世界各国の多くの企業が出展、ビジネスモデルを転換する技術やビジョンに注目が集まっていました。
CTAは、前述の「テックトレンド」の中で、この10年はInternet of Things、つまりモノのインターネットであったところから、今後は、“Intelligence of Things”になっていくだろうと予想し、モノが知性を持つことで生活が変わっていくと分析。これからは知性を持つモノが、私たちの生活に必要なものを判断し、質を高めてくれるようになるのかもしれません。
- Written by:
- BAE編集部