2021.11.16

新規顧客の開拓にも機能する「メディア型のOMOストア」──CHOOSEBASE SHIBUYA

OMO視点の発想によって、利便性の向上と集客を実現

コロナ禍のなか、急速に進んだDX(デジタルトランスフォーメーション)は、小売全体にも広がりを見せています。

オンライン接客やバーチャル試着はその代表格ですが、リアル店舗にもDXは波及し、既存店をテクノロジーによって進化させ、顧客体験価値を高めようという動きが加速しています。

そのひとつの形として生まれたメディア型のOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース・シブヤ)」は、新規顧客の開拓や売上増に寄与するなど、感染症対策に止まらない効果を発揮しています。誕生の経緯や狙い、店舗内の仕掛けや効果などについて、株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター 伊藤謙太郎さんにお話を聞きました。

目次

OMO×未来的空間によって、新規顧客へのアプローチに成功

——西武渋谷店パーキング館1階にオープンした「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、メディア型のOMOストアです。誕生の経緯と狙いを教えてください。

コロナ禍以前、百貨店のビジネスモデルは、店舗を中心としたものでした。そごう・西武としては、ECをはじめ、決してオンラインを無視していたわけではありませんが、プライオリティでいえば、やはり店舗(リアル)が常に上。ECの整備は追いついていませんでした。

そのなかで訪れたコロナ禍によって、私たちは新しいビジネスモデルを模索する必要に迫られました。

一方で、そごう・西武としては「オンライン×リアル」の可能性は感じており、実はコロナ禍以前から「CHOOSEBASE SHIBUYA」のアイデア、メディア型のOMOストアの準備を進めていました。なぜならデジタルネイティブと呼ばれる若者を取り込むためには、「オンライン」を無視することはできないからです。加えて、リアルとECを連動させることで、利便性の向上はもちろん、顧客体験の向上にもつながると考えました。

店名の「CHOOSE」には、自由な購買体験を提供したいという思いが込められています。店舗で見て、ECで買ってもいい。ECで見て、店舗で買ってもいい。もっと気軽に楽しく、若いお客さまにお買い物を楽しんでもらうためには、OMOの視点は必要不可欠です。目指したのは、「デジタル起点で考えるリアル店舗運営」でした。

メディア型のOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」の入口

——これまでの百貨店のイメージを覆すような、独創的な空間も話題になっています。

未来的で居心地のいい空間設計は、こだわった点のひとつです。

おかげさまで、多くのメディアに取り上げてもらうことができましたし、それを見て訪れたお客さまが写真を撮って、SNSに投稿するという好循環を生み出すことができました。

「CHOOSEBASE SHIBUYA」の店内

ちなみに、私自身がTwitterで投稿した写真も多数のリツイートがあり、30万インプレッションを記録したほどですから、ほかの方の投稿も合わせれば、総リーチは相当なものだったと想像されます。

UGC(ユーザー生成コンテンツ)は嘘のないユーザーの生の声ですから、「そんなに素敵なら見てみたい」という行動喚起につながりやすいようで、投稿を見た方がさらに来店されるという流れも生まれました。結果、一切プロモーションすることなく、百貨店と接点のなかった若年層を中心に、多くの注目を集めることに成功しました。

スマホ×ストーリーによって高まるZ世代の「体験価値」

——OMO視点で生まれた「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、デジタルをさまざまな形で活用しています。売上という部分での効果はいかがですか。

寄与していると感じています。「CHOOSEBASE SHIBUYA」では、店舗とECの在庫をリアルタイム連携させることで、スマホひとつですべてが完結するように設計されています。

ですから、買い物かごを持ち運ぶことなく、スマホ片手に、手ぶらで買い物を楽しむことが可能です。

店内に「いらっしゃいませ」と声を掛けるショップスタッフはおらず、商品説明から購入まで、スマホひとつで完結するように設計されている

店内に出迎える店員はおらず、商品説明は、二次元コードを活用しています。そのための「読み込む」という行動は、能動的なアクションと捉えることができます。一見、手間に思える動作をお客さまは自然に行っています。そこにはレイアウトにおいて、モノではなく、ストーリーを並べる美術館型のスタイルを意識したことも功を奏したように感じています。

——自分のペースでストーリーを楽しむために、あえて店内レイアウトにも余白をつくっているのですね。

はい。Z世代を中心としたデジタルネイティブたちは、「自分で選ぶ世代」です。SNSで誰をフォローするかも自分で探して決めますし、自分で判断したいという欲求が強い。そんな彼らの行動特性にも、自らアクションするというカタチが合っていると考えました。

なお、「CHOOSEBASE SHIBUYA」では半年ごとにテーマを変化させ、賛同したブランドや商品が期間限定で出店します。2021年9月からのテーマは、サステナビリティ(持続可能性)に絡めた「TIME LIMIT(タイムリミット)」。店内に並ぶ商品は、これまで百貨店では見かけることの少なかったD2Cブランドを中心に、51のサステナブルなブランドが展開されています。

店内には現在、D2Cブランドを中心に、51のサステナブルなブランドが展開されている

一つひとつの商品にはストーリーがあり、訪れたお客さまは商品の説明とともに、そのストーリーを読んでいる。商品もゆったりと配置することで、快適な空間で、自分のペースで買い物を楽しめる「自由な購買体験」の創出につなげています。また商品もファッションだけでなく、雑貨にコスメ、食品までラインナップすることで、テーマを多角的に掘り下げています。

加えて副次的な要素として、二次元コードを活用したことで知らない誰かが触ったものに触らずに済むという非接触の設計となったことは、衛生面でもお客さまにポジティブな印象を与えているように思います。

データ活用の最大のメリットは、ファクトによる「店舗改善」

——「CHOOSEBASE SHIBUYA」で取得したさまざまなデータは、どのように活用しているのでしょうか。

本来、店舗の「状態」を正しく判断するのは非常に難しいことです。しかし「CHOOSEBASE SHIBUYA」ではリアルタイムでさまざまデータを取得していますから、すぐに課題が浮き彫りとなり、改善策を講じることが可能です。

まず、店内のレイアウトや購買体験を最適化するためには、行動データを見ることが重要です。どの棚がどれくらい見られているのか。エビデンスに基づいた改善案を検討・実施することで、高速でPDCAを回すことが可能となっています。

特に、今回出展いただいたブランドの多くはD2Cブランドであり、オンライン中心でお客さまとコミュニケーションをされていますから、店舗のノウハウをお持ちではありません。

そのなかで、スマホを活用することで、二次元コードでウェブカタログが閲覧された回数や、カメラの映像のAI分析によって行動データが取得できることは「見たのに買わなかった人数」の把握につながりますから、「購入しなかった理由」を検証し、商品説明を変更するといった具体的な改善策を打ちやすくなります。

同時に、売上のいい店舗の分析も行うことで、成功例を他店にすぐに応用できることもデータ活用のメリットと言えるでしょう。

つまり、店舗とECの在庫がリアルタイムで連携することで、「買ったもの」はもちろん、「買わなかったもの」まで見えてくる。そのデータをどう活用するかが、店舗設計において非常に重要だと感じています。

ほかにも「CHOOSEBASE SHIBUYA」では、カメラの映像から来店数やお客さまの性別や年代、スマホ経由の商品のお気に入り登録数や購入数などのデータを取得しています。日々それらのデータはチェックしており、気づいた点があれば都度改善しています。ファクトがあれば、実行に移しやすい。これもデータ活用のメリットではないでしょうか。

——今後さらに取得するデータを増やしたり、店舗改善以外にもデータを活用したりする予定はあるのでしょうか。

そこはまさに現在、検討している部分です。

一方で、さまざまなトライアルをすることも「CHOOSEBASE SHIBUYA」においては大切だと考えています。なぜならOMOは、これからの百貨店に欠かせない、重要なキーワードだからです。

オフライン(店舗)とオンライン(EC)を融合した「CHOOSEBASE SHIBUYA」で得たノウハウを他店でも活用していく。そごう・西武がOMO時代に合わせた進化を遂げるための実証実験の場としても重要な役割を担っています。

——「CHOOSEBASE SHIBUYA」内にはカフェも併設されていますよね。これからの時代における店舗(リアル)の役割をどう捉えていますか。

併設されているカフェ

店舗は体験の場。居心地のよさも含めて、楽しい時間を過ごしてもらうことが重要だと思っています。ショッピングの場合、歩き回りますから、「買う」だけでなく「休む」ことができたらユーザビリティは高まると考え、カフェを併設しました。

実際、利用率も非常に高く、カフェに寄ったついでに買い物をする、といった新たな消費行動も見られますし、多様な商品ラインナップも含め、広い入り口を用意したことは全体的にプラスに作用していると感じています。

加えて、カフェでの購買・行動データは、これまで把握できなかった新たなデータであり、顧客理解を深める一助になりえるとも考えています。今後、さらに多様なシーンでのデータが取得できれば、より一人ひとりのお客さまに寄り添ったサービスをご提供できる可能性もあると考えています。

行動データと購買履歴の連携によって、さらに「顧客理解」は深まる

——「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、ニューノーマル時代における新たな店舗像を提示していると思います。最後に、今後の展望を聞かせてください。

「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、モノを買う場所ではなく、“意思を買う場所”。目指したのは、未来への選択肢を届けるストアです。そのなかで意識したのは、テクノロジーを活用し、店舗革新をもたらす「RaaS(Retail as a Service:小売のサービス化)」の視点です。

「いらっしゃいませ」と声を掛けるスタッフがいないのも、二次元コードによるウェブカタログ活用も、どちらもRaaS的な発想と言えます。加えて、出店者の費用も定額+売れた分のフィーとしているのも同様です。

「未来への選択肢を届けるストア」というコンセプトは、店内にも掲げられている

幸い、今日まで訪れたお客さまの多くが「おしゃれ」や「楽しい」といったポジティブな感想を残してくださっています。

今後、店舗で取得した行動データと、ECの購買履歴を掛け合わせれば、これまで以上に深い顧客理解を生み出すこともできるはずです。今回のターゲットであるデジタルネイティブの若者たちは、自分で情報を取りに行く能動的な方が多い傾向にありますから、顧客理解から生まれる「体験」はきっと彼らの心にも刺さると信じています。

そのためには、便利で楽しいだけではない、「未来への選択肢」を届けるメディア型のOMOストアとして、データを活用しながらさらに進化していきたいです。そしてそのノウハウが、そごう・西武全体の発展にも寄与できたらうれしいですね。

株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター 伊藤謙太郎さん

店舗とECの在庫情報のリアルタイム連携を起点に、スマートフォンを活用することで、買い物かごはなく、接客スタッフもいない新しい形を生み出した「CHOOSEBASE SHIBUYA」。データ連携により店舗の「状態」がすぐに分かり、店舗運営の改善にもつながり、加えて共感性の高いコンセプチュアルなショップにすることで、若年層を取り込むことにも成功した同店。その成功のカギは、「体験の設計」にありました。いかにオフラインとオンラインをつなげ、体験価値を高めるか。その視点は今後、さらに重要になりそうです。

Written by:
BAE編集部