2021.05.10

日本と中国をリアルタイムでつなぐ、「越境ライブコマース」の効果

ニューノーマル時代における「パルコのインバウンド戦略」

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、世界を行き来することは難しくなり、日本のインバウンド需要は激減しました。しかし日本ブランドの価値が下がったわけではありません。

コロナ禍のなかで、いつか回復するであろうインバウンド需要を見据えて、いま、何をすべきなのでしょうか。2014年からオンラインをフル活用した「24時間パルコ」構想を展開し、現在も越境ライブコマースを通じて、海外に向けてアプローチし続ける、株式会社パルコ 営業政策部 課長 山口 豪さんに「パルコのインバウンド戦略のこれまでと現在」について聞きました。

目次

インバウンド需要に応えるキーワードは「独自性」

——パルコは2014年頃からインバウンドプロモーションを積極的に行っています。インバウンド需要への対応を始めたきっかけを教えてください。

メディアでも取り上げられ、大きな話題となった中国人観光客による「爆買い」が巻き起こったのが2015年。その1年ほど前から、パルコでは、「最近、外国人のお客さまが多く来店されている」という話が現場から聞こえてくるようになりました。

実際に売り場に足を運んでみると、コム・デ・ギャルソンやISSEY MIYAKEといった日本ブランドの店舗に、中国の方や東南アジアの方が多く訪れ、人気を博していました。ならばと、海外向けのプロモーション展開をするようになりました。

当初はタイのインフルエンサーにパルコを訪問してもらい、SNSで発信してもらったり、台湾のテレビ番組と連携したりするなどの施策を行いました。こうして地道な活動を続けた結果、「日本好きなら知っているパルコ」といったポジショニングは確立できたように思います。

2019年にリニューアルオープンした「渋谷パルコ」

——そして2015年を機に、中国人観光客が激増。2019年にリニューアルオープンした「渋谷パルコ」では、インバウンド需要もかなり意識したそうですね。

はい。みなさんもお感じになっていたように、当時は訪日外国人が非常に多く、そのニーズに応えることはビジネスに直結するものでした。加えて渋谷パルコがリニューアルオープンした「2019年」は、訪日外国人旅行者の数が過去最高の年間約3,188万人を記録した年(※1)であり、コロナ前における“インバウンド需要のピーク”と呼べる状況でした。
(※1)編集部注釈 出典:日本政府観光局(JNTO)発表「訪日外客数(2019 年 12 月および年間推計値)」

では、訪日外国人のお客さまから求められる「渋谷パルコ」になるためには、どうすればいいか。それは“独自性”に尽きます。「渋谷パルコにしかないもの」をいかに提供できるか。しかしそれは、訪日外国人のお客さまに人気の日本ブランドを取り揃えることだけを指すものではありません。6階を日本のマンガ・アニメ・ゲームカルチャーを発信するフロアと位置付けたこともその一環です。「Nintendo TOKYO」は、国内初となる任天堂の直営オフィシャルショップですし、「JUMP SHOP」は集英社マンガのオリジナルグッズが購入可能です。

渋谷パルコ6階にある「Nintendo TOKYO」は国内初の直営オフィシャルショップ

同時にリニューアルにおいては、「テクノロジーの活用」も意識し、バーチャルフィッティングやAR/VRを活用した様々なサービスを導入しました。こうして独自路線を打ち出したことによって、国内外のメディアでも多く取り上げられ、リニューアルオープン後も、渋谷パルコは多くの訪日外国人の方で賑わっていました。

会えなくても、売れる「越境ライブコマース」

——しかし新型コロナウイルスの影響で、インバウンド需要は激減しました。そのなかで「越境ライブコマース」に活路を見出したのでしょうか。

はい。1度目の緊急事態宣言の際は、郊外には人がいるのに、繁華街・渋谷は閑散としているという、これまでとは逆転の現象が起きました。さらにコロナ禍のなかでは、当然、訪日外国人の方のご来店も見込めません。
緊急事態宣言中は休館していましたが、宣言が明けたからといって、元通りになるとは考えづらい状態と判断し、「何か手を打とう」と考え、たどり着いたのが「越境ライブコマース」でした。

渋谷パルコでは、コロナ禍のなか、インバウンドと“つながる”戦略として「越境ライブコマース」を実施

本当は日本に行きたいけれど、行けない海外のお客さまがいる。オンラインを活用すれば、会えなくても、つながることはできますし、商品を購入することだってできる。コロナだからといって、日本ブランドの価値が下がっているわけではないと感じていましたし、需要はあると考えました。

また、「中国でライブコマースが流行し、定着している」ことは知っていましたし、越境ECの市場が拡大傾向にあることも知っていました。であれば、2つを組み合わせれば、中国人ユーザーのインサイトをつかめるのではないかと考え、緊急事態宣言中に準備を進め、6月に初めて配信。以来、月に1〜2回ほどのペースで実施するようになりました。

——新型コロナウイルスの影響があるなかで、「越境ライブコマース」の出演者のアサインなどはどうされたのですか。

配信には、日本在中の中国人インフルエンサー(KOL)を起用しました。彼女たちに店舗に来てもらい、中国へ発信。1日4時間の配信を行ったケースもあり、ときに店舗の売上をライブコマースが上回る、ということもありました。

今回配信に利用したのは、ライブコマースアプリ「ShopShops(ショップショップス)」です。多くのライブコマースアプリは、インフルエンサーがスタジオや自宅からライブ配信を行いますが、ShopShopsでは、ブランドの店頭にインフルエンサーが「出張」し、ショップの中からライブ配信を行うのが特徴です。スマホ一台あれば配信できる手軽さで、中国人向けの「越境EC」ツールとして、アメリカでも注目されています。

日本ではまだ「ライブコマースの定番アプリ」は出てきていない印象ですが、中国ではライブコマースという手法が定着していることも、実施するうえでプラスに作用したと考えています。

そのなかで昨年10月に開催した、商業施設としては初となる、越境ライブコマースの大型イベント「SHIBUYA PARCO×Shopshops SPECIAL 4 DAYS」では、前半の2日間は日本の人気デザイナーズブランドを中心に、各ショップよりライブ配信を実施。後半の2日間は大型特設会場にて、1日に一挙に7店舗が参加し、1,000点以上のアイテムを紹介しました。

こちらも国内外のメディアで大きく取り上げられたことと、コロナ禍でも中国人ユーザーの消費意欲が高かったことも手伝って、最大で3万人近いユーザーが視聴するなど、注目を集めました。

売れる理由は、「ジャパンブランド」への信頼感

——「越境ライブコマース」での購入は、ユーザーにとって送料が高くなるなどの懸念もあります。どのようなものが売れやすいのでしょうか。

傾向としては、大きく2つあると思います。輸送費などのコストを含めても、中国で買うよりも安い商品。特にセール品などは人気でした。もうひとつは、「日本でしか買えないもの」です。これはたとえコストが掛かっても、ほかに替えがききませんから、ユーザーは購入意向が高まります。

後者の場合は、高額の商品も売れ行きはよく、たとえば日本ブランドの10万円近くするラグジュアリーなバッグや、スタイリッシュな帽子、アクセサリーなども人気でした。その裏には、「日本への信頼」もあったように感じます。

中国のライブコマースは定着しているものの、一方で、偽物を売られる、といったリスクは残っています。しかし日本発であれば、「間違いなく本物だろう」という信頼感が中国人の方にはあります。だからこそ、高価なものでも売れたのではないかと推測しています。一方で、ファッションアイテムは点数が多くないですから、売り切れてしまうこともあります。

渋谷パルコの「越境ライブコマース」では、主にファッションアイテムを紹介した

その点、大量生産するコスメなどは、「越境ライブコマース」との親和性は高いと言えると思います。事実、コロナ禍においても、日本の化粧品類の輸出額は上昇傾向にあり、財務省「貿易統計」によれば、2020年の輸出額は前年比16.6%増の5,615億円で、8年連続で増加(※2)しています。ここでも評価されているのは「ジャパンブランド」であり「ジャパンクオリティ」だと言えるでしょう。
(※2)編集部注釈 出典:大阪税関「化粧品の輸出」

——これまで「越境ライブコマース」を何度も実施してきたなかで、見えてきたポイントや課題があれば、教えてください。

まずは、回数を重ねながら、どういうアイテムが売れやすいのかを分析することが大切だと感じました。やはりやってみないとわからないことは多く、帽子が人気だったことは私たちにとっても想定外の出来事でした。

加えて、商品のブランドイメージと、紹介する人のキャラクターのミスマッチをなくすことも重要です。マッチング精度が高ければ高いほど、売上に直結する効果的な越境ライブコマースの実現につながる傾向にあります。

——販売以外にも「越境ライブコマース」を実施するメリットがあれば、教えてください。

情報を発信したいと思ったとき、そのネタを作るのも大変ですよね。しかしライブコマースであれば、商品を紹介することが情報発信になりますし、ユーザーエンゲージメントを高めることにもつながります。

今回、越境ライブコマースを実施した理由として、コロナ禍のなかでいかに売上創出を実現するか、そして「いかにインバウンドとのつながりを継続するか」という目的がありました。店舗でライブコマースを行い、商品を含め、売り場を見せることはブランドの世界観を感じてもらうだけでなく、パルコ訪問への興味喚起にもなりました。“つながりの継続”という点においては、コロナ禍のなかで最大限のアプローチができたのではないかと考えています。

今後、商業施設は絆を強固にできる場所へと進化する

——2014年からオンラインをフル活用した「24時間パルコ」構想を展開してきたパルコは、今後、オンラインとオフラインをどのように使い分けていくのでしょうか。

コロナによって、すべてのDXが加速しました。当然、買い物の仕方も変わっていくでしょう。ですが今後も、ショッピングの根幹にあるニーズは「便利で楽しい」であることは、オンラインでもオフラインでも変わらないと考えています。

オンラインは利便性が高く、配送スピードも向上していますから、「いつでもどこでも買える」という強みがあります。一方でオフラインには「触って、見て、体験できる」という楽しさがあります。どちらがいいではなく、どちらもよくなければいけない。そういう時代が確実に近づいていると感じています。そのときに備え、パルコでも「VR試着」や「仮想空間の活用」など、便利で楽しい買い物を実現するテクノロジーも積極的に活用していけたらと思っています。

「今後ショップは、認知・体験する場所としての役割をより担うようになる。ショッピングセンターは、その体験が複数できる場として、個々のブランドとお客さまとの絆を強固にできる場所として機能すると考えている」と当社の役員が申しているのですが、そのなかで、「オンラインもオフラインも便利で楽しいパルコ」をいかに作っていくか。そのためのトライアルを、今後も続けていきたいと思っています。

パルコ 営業政策部課長 山口 豪さん
株式会社パルコ 営業政策部 課長 山口 豪さん

ニューノーマル時代における新たな購買体験や、EC上での体験価値向上を模索する中、「越境ライブコマース」や「越境EC」は、行けない国のモノが買えるサービスとして旅行ができない“いま”だからこそ、そのニーズは高まりを見せているのではないでしょうか。そのなかで、いかにインバウンド需要を捉えるかが今後重要な鍵となりそうです。

また、電通テックでは、中国EC市場への参入や売上拡大を支援する「越境EC&ライブコマースサポート」を提供しています。中国現地での販促実績を持つ電通テック北京広告有限公司と連携し、EC出店や税関手続き等の各種申請支援といったロジスティクス面だけでなく、現地の人気インフルエンサーであるKOLを起用したライブコマースの立案・運営といった販促支援まで、一連の販売活動をトータルにサポートいたします。

Written by:
BAE編集部