2019.09.02

デジタル×リアルで効果を発揮、人々を動かす「ダイレクトメール」の最新動向とは

マーケティングオートメーションに“リアル感動体験”をプラス

約3.3兆円。電通が試算した国内EC市場におけるカート落ち※1によって損失する金額です。この機会損失に挑むのは、電通テックがリリースした「Direct→One(ダイレクト・ワン)」。「Direct→One」は、一連のマーケティングオートメーション(MA)のプロセスにリアルなダイレクトメール(以下、DM)を組み込み、ユーザーの欲しい気持ちを蘇らせることで成約に結びつけます。カートに入ってから購買になかなか繋がらないお客様に対しても、DMによって購買を一押しすることも可能です。
多くの企業で導入されているMAに、電通テックならではの企画設計力、クリエーティブ力を加えることで、人々の心と行動に強いインパクトをもたらすのが最大のミッションです。
サービス開発の背景とリリースに向けた意気込みを株式会社電通テックOMOプランニングセンターの山中藤子とデザイン&プロダクトセンターの中川和胤が語りました。

※1 カゴ落ちともいう。いったん購入を決めてカートに入れたにも関わらず、買わずにサイトから離脱すること。

目次

オフとオンが行き交う生活者に新たな提案

——デジタルマーケティングの象徴であるMAが進化する今、アナログが効果的と考える背景はなんでしょうか?

山中

MAはデジタルでe-メールが普及したいま、お客様にOne to Oneにメールを自動配信することで多くの企業に導入されています。
One to Oneマーケティング自体は、デジタル時代の象徴ではありません。インターネット普及以前の1960年代にアメリカで始まったメールオーダーがパーソナライズされたマーケティング手法の起点だとされています。広大なアメリカでは、ほしいと思ったときにお店がすぐ近くにないことが多いから、こうしたメールオーダー手法が発達したのですね。顧客の情報が個別にとれるので、例えば商品に対する趣味や嗜好を捉えた状態でプロモーションをかけられるのです。

2000年代からはデジタル化が急速に進み、リアル施策のDMはメールにシフトチェンジし、デジタルコミュニケーションが主流になってきました。メールは、獲得単価でみると効率がいいとされ、多くの企業が活用しています。しかしOne to Oneの考え方がベースにあることを理解せずに、メールを何度出しても効果は出ません。大切なのは、顧客情報から家族構成や購買行動を理解し、そこから見える趣味や再購入のタイミングをヒントにプロモーションをかけることです。顧客と良い関係性を築いていけるなら、手法はデジタルでもリアルでもいいはずですが、さまざまな会社がMAを使うようになると、コスト重視からデジタルで完結させるケースが増えてきました。リアル店舗を持たないECではよりその傾向が強いようです。

中川

メールマーケティングが極まると情報過多になり、1人に対して方々の会社から大量のメールが送られてきます。企業側の都合で設定した時間、頻度でメールを送っても、顧客からはあまり開封されないという状況に陥っています。さらに今はメールアドレスの取得が困難になっています。
一般的に、企業にメール送信を許諾するパーミッション率は、およそ30%だと言われています。30%を母数とした20%が行動喚起に至るなら、全体の6%程度にしかコミュニケーションできていない。つまり90%以上にデジタルが通用していないことになります。その中には意に介さず送られてくるメールマガジンが嫌いという人がいるので、リアルなコミュニケーションなら受け入れてもらえるのではないか、それが着眼点です。

(左から 株式会社 電通テック OMOプランニングセンターセンター長の山中藤子、同社デザイン&プロダクトセンターの中川和胤)
山中

デジタル、リアルの両方にメリットはあるということ。現代を生きる人は皆「オフライン」と「オンライン」をオーバーラップさせながら生活しています。生活行動の中でオフとオンに接点があるなら、デジタルとリアルを統合したコミュニケーションをやっていくほうが自然でしょう。

中川

デジタルは瞬間の勝負ですが、リアルなツールは開封すれば保存率が高いとされています。届いた瞬間だけでなく、1週間後、2週間後の購買行動もあり得ます。また手元にあるとこで家族に見せる、あるいはビジネシーンでは上司や部下に見せるといった行動につながることもあります。周りの人を巻き込めるメディアだと言えます。

デジタルネイティブ世代にも効く感動体験

——デジタル(メール)でのアプローチがあたりまえの若いお客様にも、リアルなツール(DM)が効果的だという好事例はありますか? 

中川

今年発表された第33回全日本DM大賞を受賞したディノス・セシールは好例だと思います。ECの場合、カート落ちに対して、通常リターゲティング広告やメールがMAの中に標準装備されています。同社も同様ですが、そのメールがなかなか見みてもらえず、リターゲティング広告は見てもらいにくいという課題があり、DMならどうかと試したそうです。約20%の売り上げ増につながったと聞いています。
このDMの特徴は企業視点でなく、生活者がトリガーとなる新しさがありました。自宅につい最近買おうとしていた商品のDMが届くのですが、それ以外にも過去にその人が購入したものと同じ傾向の商品などのおススメをまぜてあります。紙が届くインパクトが生活者の背中を押したというわけです。

山中

MAの中にDMを組み込むような手法は、技術があって丁寧にやれば、できる、という話で、その気になればどんな会社でもできる時代になってくでしょう。顧客の行動導線をどう把握するかが重要で、例えばカート落ちをする人たちをいかに特定し、どのタイミングでいかに働きかけるかで結果が変わってきます。
大切なのはそうした設計力と、人を動かすクリエーティブ力だと思います。

中川

そうですね。今のCRMの考え方として、感動体験を創造していくことが主軸にあるとされています。せっかくお客様との関係ができても、それができずに「休眠対策が課題」という会社が多い。休眠を作らない、優良顧客を維持する対策が重要です。

「Direct→One」のスキームとは異なる事例ですが、感動体験を届けた一例として、ある大学がオープンキャンパスに来た受験生にDMを送ったそうです。クリスマスの時期は受験生にとっては追い込みの時期。そのタイミングでクリスマスツリー状のカードを届けました。カードを開くとポップアップで満開の桜が出てきます。「桜の時期に会いましょう」というメッセージを届けたわけです。中には机の上に置き、受験後の春をイメージしながら勉強しているシーンをSNSに上げた人もいました。効果は高く、同年の志願者は過去最多だったそうです。
一般的に若い世代にDMは効かないと考えられています。しかし実際には、若い世代ほど有効だという調査結果(日本ダイレクトメール協会調べ)があります。デジタルネイティブ世代にDMはかえって希少で新鮮に受け止められるようです。

顧客理解のベースに立った設計力とアウトプットで図る最適化

——お客様の購買の後押しをしたいタイミングで、DMを24時間以内に送るということは技術的には可能な時代になった。だが、人の心を動かすには感動体験を創る設計力とクリエーティブ力が重要だということですね。「Direct→One」の特徴につながっていく部分だと思いますが、具体的にお聞かせください。

山中

まさに電通テックの強みはそこにあります。顧客一人一人の趣味や購買に至るまでの行動、ライフスタイルに理解がなければ、パーソナライズされた設計はできません。その上で一人一人にいつ何を届けるのか、それがデジタルなのかリアルなのかという組み合わせを含めて企画設計していきます。デジタルが持つ即時性とコストの優位性、リアルツールならではの豊かな表現性の両方を生かしていく考えです。

類似のサービスは既に世の中にあります。例えば、MA連携の自動印刷という技術面を訴求しているとか・・・。弊社ではデジタル・リアル連動で顧客育成を図り、効果を求めていきます。

中川

API連携もはずせない部分です。MAツール自体は事業会社に既に入っていて、マーケティングを内製化されているところが多いのです。既存のMAツールに連携させる形で、DMを導入することが可能なので、コストも抑えられると思います。MAツールの提案ではなく、DMソリューションのひとつとしてとらえていただきたいと考えます。

山中

そのとおりで、電通テックは特定のMAツールでなければできない仕組みではなく、ノウハウを提供しています。クライアントのMAツール環境に合わせていく姿勢があるので、クライアントサイドに蓄積されているノウハウやデータを白紙にする話ではありません。MAは顧客理解のために使い、その上でデジタルとリアルを駆使した設計を行います。

中川

メールの開封率が低いからリアルに回帰するという話ではありません。DMも大量に郵便ポストに入り、封も開けられずに捨てられていた時代はありました。デジタル技術が生かせず、最適化ができていなかったのです。リアルなDMはデジタルがないと生かせず、デジタルだけで訴求していくとビジネスがシュリンクしていくという危機意識があります。

山中

顧客をどう育成するか悩まれている企業、特にライフタイムバリューを重視し、一人一人の顧客と長く良い関係を続けていきたいと考えている企業に最適な設計、クリエーティブ(アウトプット)を提供する準備が弊社にはあります。

中川

これから「Direct→One」に本格的に取り組んでいきますが、今ある形がゴールではなく、PDCAサイクルを回しながら変化に対応していきます。24時間でDM発送の準備が整う技術があるからといって、すべて同じスキームの中に当てはめたのでは、本来の私たちのサービスの本懐である生活者ごとのOne to One (ワン・トゥ・ワン)、企業の商品の特色に合わせたOne to One (ワン・トゥ・ワン)ではなくなります。顧客理解への旅は続いていきます。

山中藤子

株式会社 電通テック OMOプランニングセンターセンター長
1992年 電通入社 2017年 電通テックに参画。
現在、マーケティングプロセス改革、OMO(Online Merges with Offline)領域をテーマにプランニング・プロデュース・組織運営に関わる。トイレタリー、化粧品、飲料、食品、エンタメ業界でのマーケティングプランニングや商品開発などを手掛ける他、アイデア発想支援を基盤としたファシリテーション技能をいかしたセッションチームリーダー、またデジタル部門でのプランニングおよびマネジメントを経て、現職に。

中川和胤

株式会社 電通テック デザイン&プロダクトセンター
印刷会社営業を経て1999年に電通テック札幌支社に入社、金融・通信・メーカー・小売など印販促を中心としたプロモーションプロデュース業務に従事。2007年より東京本社勤務となり、電通営業局に駐在し不動産・住宅メーカー等を担当、帰任後は通販のダイレクトレスポンスや化粧品のリテンション領域においてWebディレクション業務に従事。
現在は印刷業務を推進しながら、新規ソリューションの開発を兼務。
 
主な資格:上級ウェブ解析士・DMマーケティングエキスパート・プロモーショナルマーケター・印刷営業士など
 

Direct One
Written by:
BAE編集部