2019.10.28 ガチャブランド「パンダの穴」の独特な企画の作り方 第一回:「シャクレルプラネット」の企画者が語ります #クリエーター #テクニック #デザイン #商品開発 CREATIVE特集:TEC SOLUTION ガチャブランド「パンダの穴」は現在まで45商品をリリースし、これまで23名の企画者が参加しています。「いったい何を考えているのか?」「頭がおかしい!」「何でこの企画が商品化できたのか?」などさまざまな言葉が寄せられていますが、最大のヒット作「シャクレルプラネット」など4コンテンツを企画した森昭太氏を迎え、何を考え企画を生み出しているのか「パンダの穴」のクリエーティブディレクターの飯田雅実氏がその謎に迫ります。ぜひ、お楽しみください。 お問い合わせ 目次 ガチャの企画は何から考え始めますか? 初企画「考えない人」の生み出し方? ヒット作「自由すぎる女神」の生み出し方? 大ヒット作「シャクレルプラネット」の生み出し方? 異色作「顔ゴリラ」の生み出し方? 広告の企画と「パンダの穴」の企画との違いは? SNSとどう向き合っていますか? 今の時代ってどんな時代だと思いますか? 企画って何だと思いますか? ガチャの企画は何から考え始めますか? 飯田 パンダの穴の企画者に「企画の出し方」をテーマに語ってもらいたいと思っていまして、森昭太さんは、パンダの穴では「シャクレルプラネット」、「考えない人」、「自由すぎる女神」、「顔ゴリラ」、と複数の企画を担当しています。どれも「何でこんなものを考えてしまったのか」といったものが非常に多い企画者なんですけど、いろいろ聞いてみたいと思います。まず、企画を考える時は、何から考え始めますか? 森 昔からガチャガチャは好きなんですけど、今どういうのが出ているんだろう、ってまず調べます。 飯田 まず調べる。 森 はい。調べておかないと、被ったりするかもしれないから、まずは調べます。あとは、パンダの穴の場合って、有名なキャラクターは使えないので、元ネタがないみんなの知らない変なキャラクターを考えても売れないというか、買ってもらえないんだろうなというのは思ってました。この世に存在しないもの、というか。 飯田 それは、認知されないから、購買にはつながらないと? 森 はい、そうです。だから、この世にすでに存在しているものを組み合わせるとか、この世に存在しているものを、ちょっと変えるとか…じゃないと多分ダメなんだろうな、というのがベースにありました。 飯田 なるほど。それは最初の企画「考えない人」の時から、そういうことを考えていましたか? 森 そうですね、はい。多分無意識にそれはやっていると思います。 飯田 無意識に…。 森 皆が知っているものを、例えば動物だとか、食べ物だとか、乗り物だとか、そういう「皆が知っているもの」というのをベースにして、そこから次は言葉をベースに考えるか、ビジュアルをベースに考えるかで分かれるんですけど。 飯田 なるほど。 森 で、何か思い付いたら、スマホのネタ帳に書いている…って感じですかね。 飯田 ああ、アイデアをためておくんですね。 森 ためておく感じですね。常に。 飯田 ためたものをまとめるのは、いつぐらいからやるんですか? 森 あ、もうプレゼンの前日とかです。 飯田 プレゼンの前日、間際になって? 森 間際になって、はい。 飯田 それを一回引っ張り出すと? 森 引っ張り出して。 飯田 そこで選ばれない…プレゼンしないものもあるわけですか? 森 あります。 飯田 あ、あるんですね。 森 何か、あとで見て「あ、面白くないな」とか。 飯田 なるほどね。 森 あと、そうですね、言葉をベースに考えた場合は、それをビジュアルにした時にあまり面白くない…とか、ビジュアルから考えたものもネーミングがイマイチで何か面白くなかったりとか。 飯田 ああ、なるほど。最終的にはネーミングも面白くて、ビジュアル的にも面白いといった総合点の高いものが選ばれて、プレゼンするということですね。 森 選んで、プレゼンします。 飯田 その時の企画を選ぶジャッジメントは何が基準になりますか? 森 ジャッジメントは…でも自分ですかね。自分が面白いかどうか。 飯田 感性で? 森 はい。 飯田 その時に理論というかロジックとかは使ったりしますか? 森 ロジックですか。例えばどういうのですか? 飯田 例えばターゲットを設定したとして、そのターゲットにはこういう切り口はあんまり売れないんじゃないかなとか、今こんなのがはやっているとか、理論立てて実証していって、自分のジャッジメントに役立てるというか。 森 そういう意味では、本当に自分ですね。 飯田 自分の感性? 森 自分です、自分の感性です。ターゲットがどうとか、あまり考えていないです。 飯田 自分が「面白いな」と思ったものを優先して、ということなんですよね。 森 そうですね、はい。通常の広告の仕事だったらそういうところを考えるんですけど、ガチャガチャの場合は…。 飯田 ああ、そういうことですね。 森 はい、もうそこを考えて何か狭めるのはもったいないな、と思います。 飯田 なるほど。 森 「もう全部出しちゃえ」というか、自分の面白いと思ったものを出しちゃえ、と。 初企画「考えない人」の生み出し方? 飯田 分かりました。パンダの穴で最初に商品化された「考えない人」という企画があるんですけれども、これを企画した時の「企画の出し方」みたいなものがもしあったら、聞かせてもらえますか。 森 まずは皆が既に知っているものがベースにあって、この場合は言葉から考えました。「考える人」は皆が知っているので、そこをちょっと変えて「考えない人」っていう、まず言葉を考えて、ポージングは後から考えました。何か、「考える人」が変なポージングしていたら面白いだろうな、という感じですね。 飯田 それは何かたまたま「考える人」をモチーフにしたい、と思ったのか、「考えない人」というネーミングを思い付いてしまったのか。 森 「考えない人」ってネーミングかもしれないです。 飯田 思い付いちゃった、という感じですか? 森 はい。 飯田 この企画は本当にネーミングで企画が分かり、パンチ力があると思いますけれど。ポージングを決めていく時の、自分の中の進め方というか、「どういうものが面白いのか」という何かポイントみたいなものがあったと思うんですけれども。 森 そうですね。 飯田 何から最初に思い付きましたか? 森 この、「考えないでポーズする人」が多分最初に…。 考えないでポーズする人 飯田 最初に思い付いたんですね。 森 はい。最初に思い付いて、でもこの考える人が座っているこの台座を使って、モノボケする感じですね。 考えないでタックルする人 飯田 ああ…。 森 何か、大喜利みたいな感じで。 飯田 なるほど。 森 「これを使って何をやったら面白いか」というのをいっぱい考えて、それをADと一緒に考えて、絵にした時のバランスだったり。全部立っているのも変だし、寝ていたりとか、開脚したりとか、っていっぱい考えて、あとはバランスで選んでいった感じですね。 考えないで寝ちゃう人 考えないで開脚する人 飯田 この台を使うというのを思い付いたところで、また発想が広がっていった、という感じですね。 森 そうですね、はい。 飯田 そう言われてみると、確かに、この石の部分がすごくポイントになっていますね。 森 そうですね。 飯田 これが自分の中で「面白い」って思えた瞬間って、いつぐらいですか? プレゼンする時にもう既にかなりの自信があったのか、それとも皆から言われて初めて、「ああ、これはもしかしたらすごく面白いのかもしれない」と思ったのか。 森 ああ、でも自分の中で面白いとは思っています。 飯田 なるほどね、そこはもう揺るぎない自信が…。 森 でも「他の人にとっては面白くないかもしれない」とは思っていますけど。 飯田 そうなんですね。 森 でも選ばれたので、「ああ、皆も面白いと思ってくれたんだ」っていう感じですね。 飯田 実はこの企画が私の中では「ああ、パンダの穴というのはこういう方向なんだな」というのが見えた企画でもあり、そして、「こういうシュールな商品が売れる」というのが分かったのが「サメフライ」です。だから、「サメフライ」と「考えない人」というのは、パンダの穴の方向性を決定づけた商品かな、と思っています。この、「考えない人」があって、次に登場する企画が「自由すぎる女神」なんですけれども、この辺の「企画の出し方」を教えてもらえますか? ヒット作「自由すぎる女神」の生み出し方? 森 そうですね、これは「考えない人」が話題になって、飯田さんから「第2弾」って言われた時に、「銅像でまたネーミングをちょっと変えるだけで面白くなるのは何だろう」って考えた時に、「自由すぎる女神」というのが出た、という感じですね。 飯田 これは裏話がありまして、口頭で企画を私が聞いて…。 森 ああ、そうです。 飯田 「これは面白いな」と思って、すぐにタカラトミーアーツさんにビジュアルがないまま口頭でプレゼンして採用された。という非常に珍しい経緯がある企画ですね。で、一般の消費者の方からすごく反応がありまして、続編まで行ったんですけれども。「考えない人」のように台を使うというようなブレイクスルーのきっかけみたいなものは何かあったりしますか? 小野尾 まず「自由すぎる女神」の第1弾は「トーチと石板でモノボケする」というところと、「女神が何をしていたら面白いだろう」というところですかね。 飯田 どのぐらい考えましたか? 森 100とかです。 飯田 そこから厳選して? 森 厳選しました。 飯田 そういえば、手描きのラフがありましたね。 「自由すぎる女神」ポーズのアイデアスケッチ 森 小さいのをいっぱい描いていましたね。 飯田 面白さを追求したというか。 森 そうですね。実際にスタッフの方に女神のコスプレをして、いろいろポーズをしてもらいました。 飯田 ああ…。やってましたね。 森 いろいろやってもらって、写真を撮って…。 飯田 第1弾と第2弾の違いは何かありますか? 森 第2弾はもう、石板とトーチを持っていないんですよ。で、石板とトーチの代わりに、プラスワンアイテムを使ってボケる、という感じです。 飯田 第1弾との差を企画で出すということですね。 森 そうですね。もう、「日本に来てなじんじゃった」という設定ですね。コピーがそうなっています。 飯田 第2弾の「アメリカには、もう帰れない。」というキャッチコピーですね。 森 「もう帰れない」として、日本に順応したので、名刺交換していたりしている感じですね。 飯田 まあちょっとドライブがかかった感じになっていますよね。 森 はい。 飯田 「考えない人」に少し話を戻してもいいですか? 森 はい。 飯田 そういえば、「考えない人」の一体ずつにストーリーを付けたじゃないですか。 森 ああ…付けましたね。 飯田 あれは最初からそういう構想があったのか…。 森 ガチャのカプセルに入っているミニリーフもやっぱり読んでもらいたいな、というのがあったのと、ただのガチャで終わらせたくないというか、「何か広がればいいな」と思って書いていましたね。 飯田 その「広がり」というのは、例えばどういうことですか? 森 例えば、何かムービーになったりとか。 飯田 ああ…、それがストーリーとなって、映画なのか何なのか…。 森 分からないですけど。 飯田 そういう作品になったらいいかな、と? 森 はい。何かバックストーリーがあるとより面白いかな、と思って。まあ、そんなに皆さんは気付いていないかもしれないですけど。 飯田 でも意外と面白いと思います。そういえば、「自由すぎる女神」はなかったですね。 森 なかったですね、そういえば。 飯田 まあ企画で押しきっちゃったという感じなんですか? 森 そうですね。これが出る前に銅像のガチャブームって何かあったじゃないですか。 飯田 ああ、石膏デッサンのですね。 森 石膏デッサンのです。 飯田 あれ随分前だけど。 森 はい、随分前ですけど。あれに1個1個何か書いてあった気がして。 飯田 あ、そうなんだ。 森 はい。 飯田 でもそれは真面目な文章が書いてあるんでしょ? 森 はい、ふざけていないです。なので「考えない人」は架空のストーリーにしました。 飯田 なるほど。「考えない人」の文章は、今読んでも面白いと思うんですよね。映像作品にしたいというのも考えていたんですね。 森 何か広がれば、って。 飯田 なるほど。で、次が「シャクレルプラネット」ですね。 森 はい。「シャクレルプラネット」です。 大ヒット作「シャクレルプラネット」の生み出し方? 飯田 今、まさに人気が出てきているキャラクターですけれども、これもどうやって企画を考えたのか教えてもらえますか? 森 どちらかというと、さっきまではネーミングから入っていたんですけど、「シャクレル」は割とビジュアルから入っていましたね。何か「動物ものをやりたい」というのが頭の中にあって。「どんな動物ものが面白いんだろう」って思った時に、「しゃくれさせたら面白いかな」という。 飯田 ああ…。 森 僕自身が割としゃくれていて、というのがやっぱりあるんですよ。あと関西人だというのがあって。 飯田 ああ、そうだね。東京だと「しゃくれ」ってあんまり使わないかもしれないね。 森 はい。もう結構「しゃくれ」「しゃくれ」ってイジられたりもしていたので、「しゃくれ」という言葉が自分の中の言葉の引き出しの手前の方にあるというか。「しゃくれ」という言葉が頭の中に割とあったので、「動物をしゃくれさせたら面白いかも」と思い付いた感じですね。 飯田 それは動物というモチーフを選んで、「しゃくれ」っていう言葉が浮かんだのか、それともしゃくれている動物の絵が浮かんだのか。 森 しゃくれている動物の絵です。 飯田 あ、そっちが先なんだ。 森 はい。 飯田 それは何でそれを思い付いてしまったの? 森 「何で」…? 「何で」…。 飯田 フッと思い付いてしまったの? 森 フッとですね。 飯田 それは例えば「動物ものを考えよう」って思ってから企画が出るまで、どのぐらいの時間が掛かりましたか? 森 ああ…忘れましたけど、「動物で何か」ってずっと考えているうちに出てきましたね。 飯田 何日間か掛けて考えているうちに…。 森 はい。何日間か…。 飯田 ある日突然? 森 ある日突然ですね。 飯田 で、浮かんだ瞬間に「あ、面白いな」と? 森 「面白いな」と思いました。 飯田 「自分の感性が思った」と。 森 「見たこと無いな」と思いました。 飯田 なるほど。で、そこから、「シャクレルプラネット」というネーミングに行き付くまでさらに時間が掛かりましたか? 森 そうですね。コンセプトが決まってから「ネーミングどうしようかな」って考えた時に、「アニマルプラネット」という動物を紹介する番組があって、ああいう感じで何かいろんな動物がしゃくれていて、そういう番組とか面白いなと思ったので。 飯田 ああ、最初に言ってましたね。 森 それで、しゃくれた動物が住んでいる架空の世界を創造していった、という感じです。 飯田 これを思い付いた時は、自分の中では「考えない人」とか「自由すぎる女神」と比べると、面白さで言うとどのぐらいですか? 森 広がりはより「ある」な、と思いました。何か、本当に皆が面白いと思ってくれたら、いっぱい作れそうだなと最初に思いました。でもまさかこんなに続くとは思っていなかったです。 飯田 動物の種類がいっぱいあるので広がりそうだと。 森 はい。 飯田 最初に考えた動物は何だったんですか? 森 ライオンですかね。あ、パンダかもしれない。ライオンかパンダですね。 飯田 最初ラインアップを考えている時に、地上のものと、海のものと、両生類とか、いろいろ混じっているんですけれど、これは意図的にそういう風にしたんですか? 森 あ、そうです。バランスを考えて選びました。大きさとか…。 飯田 地球規模で? 森 はい、地球規模で。大きさとか、あとは住んでいる場所とか、バラけるようにしました。 飯田 正直、こんなに続くとは思っていましたか? 森 いや、思っていなかったです、最初は。 飯田 私も思っていませんでした。そういえば「シャクレルプラネット」にはポーズというか動きがないですが、何か理由はありますか? 森 これ、動きが出ると、アゴに目が集まらないんですよね。 飯田 ああ…。 森 皆、直立不動だから、アゴを皆に見てもらえる、そこに注目が集まる…っていうのをADと話をしていて。なので、ほぼ動きはないんですよね。 飯田 ないですね。あと何か秘密みたいなのってありますか? 森 秘密ですか? ああ、シロクマとかはケツアゴにしていたり、しゃくれ方にもバリエーションを付けていきました。 飯田 途中からそういう感じになって、3辺りからですかね? 森 はい、3ぐらいからです。 飯田 アゴも形も微妙に…。 森 形も、尖らせたりとか。ゾウとかはもう、鼻を横から出したりとか。 飯田 最初は原型師さんが「アゴの造形をどうしたらいいのか分からない」というのがありましたよね。 森 ああ、そうですね。何回も出し戻しをして、アゴのしゃくれさせ方はこだわりましたね。 飯田 アゴの大きさとね。あとは少しかわいくしたり、ちょっと憎たらしくしたり。 森 そうですね。ちょっと頭を大きくしていますね、どの動物も。 飯田 デフォルメですね。 森 はい、デフォルメしています。 飯田 あと、キャッチコピーが、「シャクレは、進化だ。」となっていて。造形だけではなくて、ストーリー性みたいなものも同時に考えていると思うんですけれども、その辺も教えてもらえますか? 森 僕もしゃくれていたからなんですけど、日本ってしゃくれている人をイジる傾向があるけど、海外とかでは別にそんなことないので。 飯田 ないですよね。国によっては逆だったりします。 森 これでいじめられると嫌なんですけど、僕はそんなつもりで作っていないんですよ。「しゃくれ」って、格好良かったりチャーミングだったりするよね、という想いが僕の中にありまして、しゃくれをポジティブなイメージに変えられるといいなと思い「シャクレは、進化だ。」というコピーを考えました。で、「考えない人」と同じですけど、ストーリーを付けたら、より「シャクレルプラネット」の世界観に深みが出るな、と思ったので、「絶滅を乗り越えた」ということを考えました。アゴをしゃくれさせることによって、いろんなものが食べられるようになって、絶滅を乗り越えた世界…というものにしたんですよね。そうすると、もう何でも食べられるから、弱肉強食の世界じゃなくなり皆楽しく生きている世界、みたいなものにしたという感じです。 飯田 少し経ってから漫画の話がありましたが、漫画を企画する時は、ガチャを企画するのとは全然違うと思うんですけれども…。何か違った思い入れはありましたか? 森 最初に怖いやつ考えましたよね。 飯田 最初は、割とハードな。 森 そうですね。「シャクレルプラネット」っていう惑星に調査をしに来た地球人が…。 飯田 …が襲われる、みたいな。 森 怖い感じの。 飯田 凶暴な動物たちが。 森 それがちょっと「何か怖いね」って話になったかな。で、ギャグものを。 飯田 平和な感じにしたんだよね。 森 平和な、はい。で、今のストーリーになった感じですかね。 飯田 ガチャの商品を作るというのと、漫画のプロットを作るというのは、全然違うものですか? 企画の仕方としては? 森 いや、もう完全に一任されていたので、僕が面白いと思う世界観で、もう本当に自由にやらせてもらった、って感じですね。 飯田 売れたかどうかはちょっと…? 森 売れたかどうかは分からないですけど。まあ、でもすごい貴重な経験をさせてもらいましたね。 飯田 やりきった感じですか? 森 でも面白かったですね。広告の仕事とは違う面白さがありました。漫画家の方と一緒に仕事するって、あまりないので。 飯田 でもガチャの企画から漫画やいろんな商品になっているけど、一番根源になるところで言うと、「動物がしゃくれていると面白い」っていうところから始まっているから、そこを思い付くか・思い付かないかは大きいかと思います。では続いて、異色の商品「顔ゴリラ」についてはどうでしょうか? 異色作「顔ゴリラ」の生み出し方? 森 「顔ゴリラ」も「シャクレルプラネット」と一緒で、割とビジュアルから考えました。 飯田 これは、何から最初に思い付いたの? 森 何ですかね、動物ものでまた考えている時に、「ゴリラの顔って何か面白いな」って思って。「ゴリラの顔が面白いし、それが何かかわいいものに付いていたら面白いんじゃないか?」と思ったというところですね。 顔ゴリラ企画書 飯田 これ、白い動物ばかりなんですけれども、最初は白だけじゃなくていろんなことを考えていると思うんだけれども、これもシミュレーションは相当やった結果なのかな? 森 そうですね。やっぱりこのゴリラの黒が際立つのは体が白いやつだろう、ということで、はい。で、「かわいい動物」というので選びました。 飯田 最初に「この組み合わせ面白いな」と思ったのはどれなんですか? 森 アルパカですかね。 飯田 あ、やっぱりアルパカなんだ。 森 はい、アルパカです。 飯田 やっぱり、最初に考えたのがメインビジュアルになっているんですね。 森 そうですね。 飯田 白いアルパカでゴリラの顔を入れた時に、「あ、これだ!」って、思う瞬間はありましたか? 森 そうですね。 飯田 あと、これ、微妙にゴリラの表情を変えているじゃないですか? それは何か意図はあったりするんですか? 森 これは、ゴリラって結構表情が豊かなので、そういうのを活かしたいな、と思った…という感じですね。 飯田 へえ〜。そして、キャッチコピーが「目を覚ますと、顔がゴリラになっていました。」となってますが。 森 はい。 飯田 カフカの『変身』みたいですけれども、これもやっぱり商品だけではなくて、そのバックボーンの物語を作っていますが。 森 はい、そうですね。「普通の動物が突然ゴリラの顔になった」という設定にしたら、何かこれは漫画にもなりそうだし、皆も「どういうこと?」って思ってもらえるかな、と。 飯田 このネーミングも「シャクレルプラネット」みたいに後付けですか? 森 後付けですね。 飯田 ああ、なるほど。この企画は言葉から発したのかなと思ったんだけど違うんだね。 森 はい。 広告の企画と「パンダの穴」の企画との違いは? 飯田 少し企画に関する質問をしたいんですけれども、例えば、商品企画を考える時と、広告の企画を考えている時の何か違いみたいなものってありますか? 森 うーん、広告の仕事は割とターゲットのこととか時代性とか、今どういうものがウケているのかとか、そういうのも踏まえつつ考えています。広告ではクライアントさんが売りたい商品があるので、それを、ターゲットの人にどう売るかというのを考えるんですけど、ガチャに関してはもう自分が「面白い」と思うものを選ぶ、という感じですかね。その先のターゲットとかを全然考えていません。 飯田 それはある意味正しいと思いますけど。あと、質問で「ガチャの企画を考える時に誰へ向けて考えますか?」という質問もしたいと思っていましたが、それはもう「ない」ということですね。 森 誰に…そうですね、自分です。 飯田 商品の場合は、まずは自分ということですね。 森 そうですね。 飯田 広告の企画を考える時に、コストのことをどのぐらい考えますか? 森 広告に関しては、ちゃんと考えるようにしています。 飯田 それは、どうしてですか? 森 やっぱりそこを考えないと実現されないからですね。 飯田 なるほど。 森 「世に出すためには、そこは避けては通れないんだ」と思って。コストとスケジュール。 飯田 コストとスケジュールの条件の中で…。 森 …の中で、一番面白いものを考える。 飯田 最善を尽くすと。 森 はい。 飯田 そういうスタンスに…。 森 …に、変わってきました。 飯田 変わってきましたか。 森 大人になりました。 飯田 なるほど。それはどのくらい前からですか? 森 5年前くらいですかね。 飯田 20代ですか? 森 20代ですね。 飯田 後半ぐらいですか? 森 はい。 飯田 ということは、あまりにも採用されない案がいっぱいあったということですか? 森 そうですね、非現実的というか「通るわけないじゃん」と言われ。 飯田 まあコストは、やっぱり大事でしょう。 森 大事だと思います。 SNSとどう向き合っていますか? 飯田 先ほど、「時代性」みたいな話も出ましたが、時代の雰囲気とかを、企画にどうやって盛り込んだりしていますか? 森 時代の雰囲気ですか…。 飯田 多分、何らかの形でやっていると思います。感覚的にかもしれないけど。 森 うーん。 飯田 「シャクレルプラネット」は時代性を意識して企画していないけれども、何かしらの時代性に触れていると思います。 森 そうですね、触れていますね。 飯田 それはもしかしたら「ガチャだから」っていうところかもしれないし、「癒やし」につながっていたり、もしかしたら「笑い」みたいなものが今の時代にはやはり必要かも、とか、そういうところにつながっているかもしれない、って思うんですが。 森 何か今、SNSとかのせいかもしれないんですけど、「出オチ」というか。 飯田 はい。ネタですね。 森 はい、何かネタにお金を使う人が増えているな、と思います。「出オチにお金を使う」というか。それをSNSで発信して「面白い」と自分が思われたい欲求がすごいあるのかな、と思います。…そこまで言うとよくないかもしれないんですけど、何かそういう時代性があるな、と思ったんですよね。ちょっと何か毒があったり、ちょっと変なものが求められているのかな、と思います。 飯田 企画を考える時にそういうSNSとかは、意識したりはしないんですか? 森 ああ、広告の場合はちょっとしますね。 飯田 ガチャの場合は、結果的にそうなっているという感じですか? 森 結果的にそうなっている、という感じですね。広告の場合もそうですね、「あれ見た?」とか言ってもらえるようにしよう、と思っていますね。 飯田 例えば意識的にSNSで取り上げてもらうように作るものと、全く意識していないんだけど現実的にSNSで拡散されているものがあるとするじゃないですか、この違いって何かありますか? 森 多分、「これ、SNSで拡散するだろう」って思って作ると、ちょっと透けちゃうと思うんですよね。 飯田 そうなんだよね。 森 そこを上手いことトボけなきゃいけない、って思っています。 飯田 自分で自分をちょっとだます、というか。 森 じゃないと、多分勘付かれると買ってもらえなかったりとか、「出た、こういう広告」って思われちゃうというか。そこを上手いことやらないと、バレちゃいますね。 飯田 そこは上手いことって、できるんですか? 森 やるようにはしています。あまりトレンドとかを意識しない、ってことかもしれないです。割とこんなふうに、自分が面白いと思うことでやって出してみる、とか。ちょっとでも何か狙いに行くと、やっぱり透けちゃうというか、怖いです。 飯田 「狙いに行く」という目的はあるんだけれども、その行程は、それを狙いに行かないことによって、「その目的を果たす」ということですね。 森 はい。 飯田 ややこしいですね。 森 結構バランスは難しいんですよね。 飯田 バランスは難しいですよね。 森 言葉にするのも難しい…。 今の時代ってどんな時代だと思いますか? 飯田 今、少し時代の雰囲気みたいなものが話の中に出ていたと思うんですが、今、自分が考えている「今の時代ってこんな感じの時代なんじゃないかな」って何か言えるとしたら、どんな感じで今の時代を捉えていますか? 森 本当に皆が自分の趣味とか、そういう、趣味・嗜好を重視して生きているな、というか。何か「皆がこれ好きだから」って言って走らない、というか。 飯田 多様性みたいなところですね。 森 多様性ですね。先日、オンラインフィルムの授賞式に行っていたんですけど、そこで審査員の方が言っていたんですけど、バズらせようと面白い動画を作っても今の若い人は「世の中的にバズっているものをバズらせようとしない」傾向にあるそうなんです…。 飯田 はい。 森 「話題です」とか言われても、皆拡散させない。昔は皆、「え、どんなの? 面白い面白い」って乗っかってやっていたんですけど、今はそうしなくて。どちらかと言うと、自分が「面白い」と思うものを「これ、見てよ」って勧めるようになったというか。自分と同じ趣味の人たちに勧めるようになって、「皆が面白いって言っているものは、私はいい」みたいな感じになってきているというのは「確かに」あると思いました。 飯田 「マス」っていう考え方がもう崩れ去っているということですよね。 森 そうですね。「スモールマス」みたいになっていますよね。「趣味縁」でしたっけ。 飯田 「趣味縁」? 森 何か「血縁」とか、そういう「縁」ですね。「血縁」とか「職縁」とかが昔はベースで考えられていたんですけど、今は「趣味縁」で、同じ趣味の人たちの「縁」っていうものをターゲットにして考える、とかがあるみたいです。 飯田 ああ、なるほど。それが友達とかではなく、SNSとかを通じて1つのコミュニティになっている、と。 森 コミュニティになって、そこを狙って何か広告を打ったりとかしていく世の中になってきているみたいです。 飯田 はい。 森 僕もよく分かっていないんですけど、でも「確かにそうだな」と思って。何か、もう本当にSNSとかで誰とでもつながれるから、別に同じクラスの友達とばかり遊ばなくてもよくなって、同じ趣味の人たちと情報交換したり、というものが盛んになってきているな、と思います。 飯田 1つの趣味が1つのマーケットみたいになっているのかなと。 森 はい、なっているかなと。本当に多様性だな、と思いますけど。 企画って何だと思いますか? 飯田 最後に改めて「企画を考える」ということについて、大切にしていることを教えてもらえますか? すごく広いテーマですが。 森 広いですね。でも、何か、仕事とは思っていないです。 飯田 なるほど。 森 遊びとかゲームとかに近いかもしれないです。「楽しいからやっている」って感じです。 飯田 なるほどね。でも、やっぱり企画を考えるのは楽しいですよね。 森 楽しいですね。で、それが面白いと思ってもらったり、売れなくても話題とかになったらそれだけでうれしいです。 飯田 企画を考えて、それを具現化していく工程も楽しいですね。 森 はい、楽しいです。 飯田 それを世の中に出す時も、反応もワクワクします。今日はいろいろな話をどうもありがとうございました。 森 ありがとうございます。 森 昭太 株式会社 電通 関西支社 コピーライター/CMプランナー 電通テックに在籍中に「パンダの穴」で4点の企画を生み出す。中でも「シャクレルプラネット」は今最もヒットしている商品の一つで「パンダの穴」の中でも最大のヒット商品となっている。現在は大阪を拠点として広告制作やプロダクト開発を手掛けておりTCC新人賞など多数受賞。 インタビュアー飯田 雅実 株式会社 電通テック「パンダの穴」クリエーティブディレクター 広告領域で様々な企画制作を行うなか数多くのプレミアムグッ ズを手掛けたノウハウを活用し2013年ガチャブランド「パンダの穴」を株式会社タカラトミーアーツと立ち上げる。「パンダの穴」クリエーティブディレクター「パンダの穴」は累計3000万個を突破し昨年台湾で初の単独イベントを行い16万人を動員するなど、国内外で活動のフィールドが広がっている。 電通テック パンダの穴 第2回はこちら Written by: BAE編集部 関連記事:なぜ、ガチャは50年も生き残ったのか?(前編) 関連記事:なぜ、ガチャは50年も生き残ったのか?(後編) 関連記事:なぜ、外国人旅行者は空港でガチャを買うのか?