これまでのビジネスや生活様式を変える新常識「ニューノーマル時代」の業界動向や今後の展望をご紹介するこの企画。昨年7月にアメリカでの注目トピックスをご紹介しましたが、いまだ新型コロナウイルスの勢力が衰えないなか、「ニューノーマル」という新しいライフスタイルはアメリカで定着しつつあるようです。今回は特に注目すべき「食」「小売・ショッピング」「ソニック・マーケティング」といったテーマから、人々の動向の変化や、トレンド、新しい施策などをご紹介します。
※調査データ提供元:株式会社TNC
コロナ禍での外出制限やレストランの閉鎖により、自宅で料理をする人が増えています。「ハーバード・ビジネス・レビュー」によると、アメリカでは料理をする消費者の数は過去20年減少を続け、人口の10%ほどにまで減っていた状態。ですが、新型コロナウイルスの影響により54%が以前より料理をするようになり、35%がこれまで以上に料理を楽しんでいることがわかっています。
特に、メニューを考える必要のないミールキットは人気が高く、旬の食材の詰め合わせやエキゾチックなレシピ、世界のスナックの詰め合わせなど、マンネリ化を回避するサプライズ要素のあるキット(詰め合わせ)のサブスクリプションが好評を得ています。
従来「時短」「手軽さ」を理由に利用されていたミールキットですが、今後は中食市場の拡大、多様化によりリッチなバリエーションも生まれてくるかもしれません。
【参考URL】
A Monthly Box from Around the World | SnackCrate
宅配サービスの「非接触化」が進んでいます。シリコンバレーでは、スタートアップの「Starship Technologies」が手掛ける配送ロボットが、運用を開始。専用アプリで注文・決済すると、ダウンタウンにある飲食店の料理やスーパーマーケットの商品を自宅やオフィスなどの指定場所に届けてくれます。また、元Googleのエンジニア2人が立ち上げた、自動運転テクノロジー企業「Nuro(ニューロ)」も、地元コミュニティの宅配サービスによって急伸しています。
非接触の環境はもちろん、人手不足解消にも一役買いそうな配送ロボット。今後の動向にも引き続き注目していきたいサービス領域です。
【参考URL】
https://nuro.ai
飲食店も「密」を避けて変わってきています。注目されているのが、宅配・テイクアウトに特化した実店舗を持たない飲食店「ゴーストキッチン」。初期投資額や運営経費を抑えられることから、世界の大都市で急速に成長している業態です。
「Sous Vide Kitchen」は、ニューヨークで2019年に登場したバーチャルフードホール。各ベンダーでオーダーする通常のフードホールと違い、複数のレストランの食事を一箇所のキオスクからキャッシュレスで注文し、オーダーすべてを同時にピックアップできます。食べ物は、すべてスービー(低温真空調理法)を利用して同じキッチンで作られるため、プロでなくても毎回完璧に素早く仕上げられ、料理ごとにかかる時間差が少ないというメリットも。
デリバリーが一般化していくことで、相対的に飲食店で食事を楽しむこと全般が贅沢な行為として付加価値化していくかもしれません。
【参考URL】
https://wapo.st/32osdqx
https://clickvirtualfoodhall.com/
https://www.svkfoodhall.com/
食の世界でもAR・VRが活用されてきています。飲食店のメニューをARで見せることで、事前に大きさや盛り付けを把握してもらい、実物との乖離を少なくするという試みは、ニューヨークの「マグノリア・ベーカリー」や、「ドミノピザ」「パネラ・ブレッド」のキャンペーンなどにも取り入れられています。また、VR空間での食事によって五感を刺激することは、非日常的でよりユニークな食体験の提供にも役立っているようです。
今後、匂いや食感まで遠隔で伝えることができるようになれば、「食×XR」の分野はさらなる注目を集めそうです。
B2Bのオンラインマーケットプレースの「NuORDER」は、新型コロナウイルスで大打撃を受けた、アパレルや小売業者の支援を目的に、オンライン体験を通じてブランドが商品を展示できるバーチャルショールームサービスを開始。顧客は商品を360度ビューで見たり、ズームインして詳細を見ることができます。ランウェイルックやビデオ映像、インスピレーションイメージ、デザイナーインタビューなどのコンテンツでさらなる体験価値も提供可能に。
オンラインマーケットプレース大手「Storefront」は、ARとVRプラットフォームを提供するスタートアップ企業「Obsess」と提携し、オフラインの小売業者、ファッションブランド、デザイナーがVRストアを通じて新規顧客を獲得する支援プログラムの提供を開始。小売業者の在庫から展示ラインナップを簡単にカスタマイズできるほか、既存店舗をそのままVRストアにしたり、新規VRストアの構築もできます。もちろん買い物客はVRストア内を見て回り、欲しい商品をその場で購入可能。小売業者は、スマートフォンを利用して買い物ができる360度の店舗体験、VRヘッドセットを使って、実際に歩き回って商品を見られる、よりリアリティの高いバーチャル体験を提供しています。
オフラインでの販促が困難になった今、バーチャル空間の中でのより高い顧客体験の構築がこれからの販促のポイントとなっていきそうです。
【参考URL】
https://www.nuorder.com/virtual-showrooms
https://www.thestorefront.com/
https://www.youtube.com/watch?v=8rPPnK-EIRU
外出自粛中、人気スーパーは入場制限の長蛇の列で買い物に時間を要し、気軽に日用品を買うことができない状況が続きました。高齢者や体の不自由な方、仕事や育児に追われて買い物に時間を割けないという家庭も多くあります。そこで高まっているのが「買い物代行」サービスのニーズ。
NYの家事代行サービス「Hello Alfred」は、パンデミック以降に新しい「買い物代行」サービスを開始。利用には、毎週定額25ドルとサービス料として注文した商品代金の5%がかかりますが、大変好評を得ています。
また、感染リスクが高い高齢者がスムーズに買い物をできるように、開店前の1時間を高齢者限定の時間にする動きが広がっています。そのような中、Uberがスーパーマーケットチェーンの「Stop&Shop」と連携し、高齢者の来店客の運賃を半額にする期間限定サービスを始めました。60歳以上が対象で週に2回、午前6時~7時半の間利用できるサービスで、Uber利用の際に専用のプロモーションコードを入力すれば、上限20ドルが割引きになります。
【参考URL】
https://helloalfred.com
「レジャーとしてのショッピング」は、コロナ禍によって奪われた楽しみの一つ。その打開策として、仲間と一緒にショッピングに行く楽しさをオンラインでリアルタイムに体験できるサービスが増えてきています。
元L’Oréalのブランドマネージャーが開発した「Squadded Shopping Party」は、ブラウザのエクステンションとして埋め込まれ、Asos、Boohoo、Missguided、NA-KD、PrettyLittleThingなどのECサイトで、グループでのショッピング体験を楽しむことができるサービス。オンラインショップにアクセスして友人を招き、欲しいものリストの共有、意見交換などのチャットをしながら買い物ができます。 ターゲットは15〜25歳のZ世代で、Netflix PartyやInstagramのCo-Watching機能を皮切りに、欧米で「オンラインのグループアクティビティ」が増加中ですが、それがオンラインショッピングにも広がる見通しとされています。
また、中国でのライブストリーミング・ショッピングの成功事例を欧米にも取り入れようという流れもあります。ライブストリーミングは、販売者に対して視聴者がリアルタイムで商品に関する疑問や質問をコメントすることができる双方向性があるので、これによりこれまでのeコマースに欠けているとされていた「信頼性」と「透明性」を担保できるのでは、と期待されています。
【参考URL】
https://www.voguebusiness.com/consumers/the-rise-of-squad-shopping-online-with-friends
https://www.squadded.co/shopping-party
アメリカのZ世代以降の若者とってSiriやAlexaといった音声サービスは、身近で信頼に値するツールであり、知りたいことがあればAIに聞くという流れは今や一般的。この世代は、映像なしの「音」だけで情報を得る機会も多いことから、今後は「聴覚」に訴える「ソニック・マーケティング」の重要性が増すと考えられています。
日本でも音を活用したマーケティングの可能性は注目されていますが、アメリカでは、音が味覚を左右するという研究結果からレストランのBGMを選んだり、音と食のペアリングを試みる「ソニック・シーズニング」を採用するレストランやエアラインも登場しているほか、子どもたちが苦手な食材(健康に良い野菜など)を、美味しく食べてもらうためのアプローチの一つとしても活用方法の研究が進んでいます。
【参考URL】
https://www.genzinsights.com/power-of-sonic-branding-when-consumers-listen-rather-than-look
「聴覚」と「味覚」の相互関係を利用した野心的な試みも登場。UKのフードアーティストと音楽家、および「ガストロフィジクス※」の第一人者チャールズ・スペンス教授は、「Unusual Ingredients(稀な材料)」と称する、音楽ライブイベントを企画し、「音」と「風味」の関係を育む感覚的(multi-sensory)なプロジェクトを展開。舌触り、風味、食材の存在感などを、的確な音波や音楽的表現を加えることで、より魅力的なものへと拡大する取り組みです。ライブイベントでは、弾けるキャンディー、蜂蜜、コーヒー、海藻などをそれぞれ音楽とペアリングすることで、味の変化を体験することができます。
こういった音の効果、作用は、特に食品や飲食業界のマーケティングで効果的に活用できそうです。
※ガストロノミー(美食)とサイコフィジクス(精神物理学)を合わせた造語
【参考URL】
https://unusualingredients.co/
聴覚を刺激して心地よさをもたらす「ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)」動画は、以前から若い世代を中心に睡眠導入やストレス解消に利用されていましたが、近年、大企業も活用する注目のマーケティング手法です。 2020年4月の時点で、YouTubeのブランド名以外のアメリカでの検索のトップワードは「ASMR」で、約320万件の検索数となっています(出典:ahrefsblog)。
さらに、食品メーカーも次々とソニック・マーケティングを活用しはじめました。「ASMR」に注目するのは、商品の「特徴」以外に訴求ポイントを感覚的に提供できる点。特に「KFC」や「Pepsi」などの食品メーカーは、比較的早期から採用。囁き声などで提供される「ASMR」は、初めて聴く人にも「リラックスできる静かな音」として認知され、元気で大きな音が溢れるオンライン動画やCMの中で差別化されています。
特徴的な事例としては、2018年9月のマインドフルネスデイに「KFC(UK)」がローンチした、瞑想(メディテーション)とフライドチキンを作る音を組み合わせた、ユニークでリラックスできるコンテンツがあります。フライドチキンを揚げる音が、睡眠の質や記憶力を高めると言われる心地よい雑音「ピンクノイズ」であるということがインスピレーションになっているようです。「リラックス」「アンワインド」「デストレス」の3つの音源があり、「マインドフルネス」をフックにした意外性のあるマーケティングは、これまでとは違う消費者にもリーチしました。
メジャー化しつつあるソニック・マーケティング。スマートスピーカーなどデバイスも多様化し、まだまだ活用できる余白のあるツールなだけに、各分野での今後の展開が気になるところです。
【参考URL】
https://japan.kfc.co.jp/news_release/news190409kfc02.html
コロナによって失われた日常をテクノロジーによって充実させていくたくましさは、さすが大国アメリカといったところ。
料理や宅配サービスの需要の伸びは日本でも同様の傾向ですが、ARを使った新しいコンテンツ、世代別に合わせたサービス提供など、CXを重視したサービスは参考になりそうです。
また、音を使ったマーケティング「ソニック・マーケティング」は日本でも注目されはじめている分野であり、アメリカでの先端事例から学ぶことは多そうです。