中国でブームとなり、日本でも一時期話題となった「ライブコマース」。中国ではインフルエンサー(KOL:Key Opinion Leader)を起用した販売手法として定着していますが、日本では現在も“発展途上”の分野となっています。
その背景には、事前の商品登録の煩雑さや、登録していない商品は紹介できないなど、いくつかの課題が存在していました。しかしコロナ禍のなかで、“会えなくても売れる”ライブコマースに再び注目が集まっています。
リアルストアDXを実現するLIVEテック「TIG LIVE」を生み出した、パロニム株式会社 代表取締役 小林道生さんに「日本におけるライブコマースの現在地、withコロナ時代におけるニーズや活用法」について伺いました。
コロナによって合致した、企業とユーザーのニーズ
——ライブコマースといえば、中国では一気に浸透し、大規模な市場が誕生したイメージがあります。なぜ日本では、中国のような広がりを見せなかったのだとお感じでしょうか。
2020年10月に発表された、大手会計事務所のKPMGとアリ研究院のレポートによれば、中国のライブコマース市場は拡大の一途をたどっています。
2019年の中国のライブコマースの市場規模は4338億元(約6兆9408億円 1元=約16円)で、2020年は1兆500億元、2021年には2兆元規模になると予測されています。つまり毎年、市場規模がほぼ倍になるペースで成長し続けているわけです。
その背景には、中国特有の「返品文化」も大いに影響していると思います。中国では、買って気に入らなければ返品するのが常識となっています。たとえば洋服のサイズも、S・M・Lすべて頼んでみて、合うものだけ残して返品する、なんてことも普通です。
一方で、日本人は「返品」への抵抗感がありますし、とりあえず全サイズを頼んで不要なものは返す、という発想もありません。
加えて、「おもてなし」の有無も関係していると思います。中国の店舗では、いわゆる日本的な接客の文化はありません。商品の説明をしてくれたり、服探しをサポートしてくれたりするような“おもてなし”がないのです。しかしライブコマースでは、インフルエンサーが丁寧に商品を説明してくれる。むしろ店舗を訪れるよりも、多くの情報を得られてしまう、という側面があります。
対して日本では、店舗を訪れた方が丁寧な接客を受けられるなどのメリットが大きく、これまでなかなかライブコマースが定着しませんでした。
しかしそんな日本で現在、再び「ライブコマース」ニーズが企業とユーザー、双方の間で高まりを見せています。
——それは新型コロナウイルスの影響が大きいのでしょうか。
はい。コロナ禍のなかで、「会わずに売りたい」という企業側の思惑と、「会わずに買いたいけど、知ってから買いたい」というユーザーニーズがマッチしたことは大きな要因になっていると思います。
withコロナ時代の現代は、オンラインとオフラインをいかに効率的に活用するかが非常に重要になっています。そのなかで、「デジタルを活用して、売上を生み出す方法」を模索する企業が増え、自然とライブコマースへの期待感が再び高まったと考えています。
ライブコマースと聞くと、アパレルを思い浮かべる方が多いと思うのですが、当社には旅行関係をはじめ、さまざまな業種の企業から「セールスツールとしてのライブコマース活用」について、問い合わせをいただくケースが増えています。今後、さまざまな業種でライブ配信とコマースを組み合わせる動きが加速していく可能性もあるように感じています。
その成功のためには、ユーザーにとって「楽しい」が不可欠です。そこで私たちが開発した「TIG LIVE」では、ユーザーフレンドリーで“一緒に買い物を楽しんでいるような感覚”を目指し、新しい体験に出会えるライブコマースのカタチを生み出しました。
自由度を拡張することで生まれた、「共感」と「行動」
——ライブコマースにおける「楽しさ」とは、どのようなものでしょうか。
これまでのライブコマースは、「制約」が多過ぎました。たとえば、紹介できる商品は事前に登録したものだけ。そのため、紹介する商品以外が映り込まないようにセットを用意し、そこで話すことになるわけです。
たとえセットがなくても、ユーザーからコメントで「後ろの服を見せて」と要望があっても、ECサイトに飛ぶ導線は案内できない。ですから、これまでのライブコマースは、インタラクティブのようで、実は一方通行。本当の意味ではインタラクティブではなかったんです。
ユーザーが見たいもの、知りたいことに応える。もっと自由で双方向性のあるライブコマースを実現できれば、“ユーザーはより楽しめる”はずだと考えました。加えて、店舗には、ブランドの世界観が反映されています。実は店内を歩き回れない(紹介できない)、というのは、非常にもったいないことでもありました。
しかしTIG LIVEであれば、スマホ一台で、自由に店内を歩き回りながら、ユーザーのコメントを拾って展開することが可能です。
加えてTIG LIVEでは、配信者側が紹介したい商品のバーコードを読むだけで、店頭のどの商品も、リアルタイムにユーザー側の画面上に表示されるアイコンを“タップ”するだけで、商品詳細(購入)ページへの遷移が可能です。そのため、ユーザーが「後ろの服を見せて!」とコメントすれば、出演者はその服を手にしてサイズ感や印象などを伝えて、その後バーコードをスキャンすれば、ユーザーは詳細(購入)ページへとシームレスに進むことができるわけです。
これによって、出演者は店舗内を自由に歩き回れますから、“ユーザーと一緒に店舗を回る体験”を共有しながら、ブランドの世界観に触れることを実現します。結果、コンテンツとしての自由度は拡張し、段取りではないリアルな買い物体験を共有できるのです。
さらにTIG LIVEはウェブブラウザで閲覧できるため、プラットフォームに依存せず視聴可能な点も特長のひとつです。
——すでに事例があるそうですが、「新しい体験」はどのような効果を生んだのでしょうか。
昨年11月、ABCマートのスペシャルストアである「ABC-MART GRAND STAGE SHIBUYA109店」でNIKEのアパレル・シューズアイテムを紹介するTIG LIVEを実施しました。
これまでのライブコマースは、ともするとテレビの通販番組のようになってしまい、ユーザー満足度が低く、やり方によってはブランドイメージを毀損してしまう可能性さえありました。
しかしTIG LIVEであれば、ユーザーの声に耳を傾けて進行できるため、満足度の高いコンテンツが実現できます。コメント機能はもちろん、アンケート機能も搭載しているため、「紹介する商品を投票で決める」といったインタラクティブな仕掛けも可能です。結果、出演者のリアルなリアクションを楽しめるため、「嘘がなく」、視聴ユーザーの共感性も高まりやすい傾向にあります。
今回、出演者には「ABC-MART GRAND STAGE」と「NIKE」のキャンペーンモデルを務める、人気インフルエンサーの古川優香さんと佐藤ノアさんに登場いただきました。参加ユーザーは20代が中心。ふたりが商品だけでなく、店舗を楽しそうに巡っている様子もユーザーには好評で、当日は非常に多くのコメントが投稿されました。
参加ユーザーはまるで“有名人と一緒に買い物を楽しんでいるような感覚”で、「あれ見せて!」などのコメントを投稿。出演者のふたりがその要望に応える形で、商品のバーコードをスキャンしながら紹介していきました。スキャンすると、画面にアイコンが現れ、タップすると画面上で商品情報をストック。あとから購入できるようにしたことで、TIG LIVEを介してのEC購入もあったようです。
さらに、配信後に、店舗を実際に訪れたユーザーも多かったそうで、「楽しそうな雰囲気」がオンラインを通じて届いた証だと感じました。
——視聴したユーザーの満足度も高かった、ということでしょうか。
そうですね。コメント欄には、出演者への応援メッセージや、商品や店舗へのポジティブなコメントがずらりと並びました。一方で、ネガティブなコメントはほぼゼロだったことは私たちにとっても驚きでした。
むしろSNS上では、「TIGピ(TIG LIVEで商品を読み取ること)」なる造語が生まれ、「TIGピすごい!」などの投稿も多く見られました。若年層にとっても、リアルとオンラインがシームレスにつながる様子は新鮮に映ったようで、大きな手応えを感じる取り組みとなりました。
オンラインとオフラインをつなぐ「ライブコマース」
——取り組みを通して見えた、「発見」や「課題」があれば、教えてください。
発見は、TIG LIVEを視聴したユーザーが実店舗を訪れる、という興味喚起をオンライン上で実現できたことです。
今後はこれを見越して、クーポンを配布するなどの施策を組み合わせることで、より大きな効果を生めると感じました。これまでのライブコマースはオンラインで完結するものが多かったですが、TIG LIVEによって、オンラインとオフラインをつなぐ役割もライブコマースが担える可能性があると思っています。
一方で見えた課題として、TIG LIVEを活用したライブコマースは、コンテンツの自由度が拡張しますから、ユーザーにとっても参加意識が高まるため、コメントが想像以上に投稿されることがわかりました。
となると、ユーザーからの質問など、本当は拾いたいコメントが埋もれてしまう、というリスクもそこに生まれます。今後は仕様を改善し、ユーザーからの質問がピックアップされるような仕組みなどを実装できたらと考えています。
——ライブコマースへの期待値が高まるなか、今後TIG LIVEはどのような役割を果たすとお考えでしょうか。
たとえコロナが収束しても、すべてが元通りになるとは考えづらいと思います。一方で、さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速して、デジタルだけの世界になるという可能性も低いでしょう。ユーザーは今後、オンラインとオフラインを上手に使い分けて活用していくはずです。
TIG LIVEは“オンラインとリアルをつなぐ”LIVEツールという側面もありますから、「リアルを楽しくするツール」として定着していけたらと考えています。
やはり、ECサイトの中だけで、商品の魅力を伝えるのは限界があります。店舗など、ブランドが持つリアルの資産をしっかり活用して、オンラインでのコミュニケーションを最大化していくことで、ユーザーとのエンゲージメントは高まると思います。ライブコマースも同様で、配信中に得られたコメントを店頭のVMDに反映したり、商品開発に活かしたり、といったことも有効なアイデアのひとつだと感じています。
現在、LINEとも連携することで、これまで取得できなかったユーザー情報の見える化を実現するなど、TIG LIVEは今後もさらなる進化を遂げる予定です。加えて、商業施設や小売店などとも取り組みを進めていますが、さらに活用いただける業種を広げていくことで、「顧客と店舗の架け橋」として、業種問わず求められるサービスに成長していけたらうれしいですね。
オンラインにおけるユーザーとのコミュニケーションの重要性が増すなかで、ライブコマースを“インタラクティブなエンタメ”へとアップデートした「TIG LIVE」。コンテンツの自由度を拡張した次世代ライブコマースは、ニューノーマル時代らしいサービスと言えます。そこで最大の価値となっているのは、やはり“体験”です。オフラインならではの「楽しさ」を、いかにオンラインで提供するか。電通テックとしても今後、オンライン上で顧客とのエンゲージメントを高めるソリューションの提供に注力していく予定です。
- Written by:
- BAE編集部