2019.07.18

応援や貢献を通じた自己表現活動、若者たちは「ヲタ活」にお金を使っている

SHIBUYA109 lab.の所長に聞く、Z世代の消費実態

若者がモノを買わなくなったといわれて久しく、シェアリングエコノミーやフリマアプリの普及も、その流れに拍車をかけているようです。しかし、女子高生・女子大生の消費行動の実態からは、決してお金を使わない訳ではない、若者たちのリアルな姿が見えてきます。株式会社電通テック +tech labo研究員でZ世代の研究をしている堀 かおりが、若者のマーケットリサーチや消費に詳しいSHIBUYA109 lab.所長の長田麻衣さんにお話を伺いました。

目次

TPOに合わせた「自分らしさ」を作る

長田さんは株式会社SHIBUYA109エンタテイメントにて、若者マーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab.」を設立し、所長を務められていますね。本日はいろいろとお話を伺えればと思うのですが、まず今の女子高生・女子大生は、昔と比べたらだいぶ消費が少ないといわれます。実際にどれくらいのお金を持っているのでしょうか。

長田麻衣さん
株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 マーケティング戦略部 長田麻衣さん
長田

around20(15歳〜24歳)を対象としたアンケートでは、高校生はお小遣いで月1万円くらい、大学生になったらアルバイトをして月7〜8万円程度の収入が平均的です。今20代後半〜30代前半の人たちの感覚からはあまり変わっていないと思います。ただ、そのお金を何に使うかが、以前とは変わってきています。

持っているお金の額が減ってしまったのではなく、お金の使い方に慎重ということでしょうか。

長田

「お金を無駄使いしたくない」とか「失敗したくない」という気持ちがあり、買い物にはとても慎重です。ファッションだったらInstagramなどで流行のファッションを探して、自分にも似合いそうか、着ている人の感想や口コミを必ずチェックします。それから店頭に行って試着をして、その場では買わずにいったん戻り、ネットで少しでも安く買えるお店がないかどうか探すというのが購入までのジャーニーです。

購入前検討でSNSを参考にする比重が高いですね。ただし、最近は大型のインフルエンサーやインスタグラマーよりも、もっと身近な人の口コミを重要視するそうですね。

長田

インフルエンサーが「良い」と言った程度で即買いすることがほぼありません。以前と変わってきたのは、SNSで参考にする相手が有名人というよりも、大学の先輩とか、友達の友達といったフォロワーにしてもだいたい1,000人程度の身近な存在になっていること。直接の友達ではなくても身近なつながりから自分の趣味に合った人をフォローして、「あの人に合っているなら、私も大丈夫かも」といった風にシミュレーションの参考にしたり、情報として信頼する傾向にあります。

それこそSHIBUYA109界隈で「アムラー」や「ガン黒ギャル」が発生したような、この人の真似をしたい!というようなカリスマはいないですよね。

長田

いないですね。ただ、10年前の読モブームも、雲の上のモデルより背格好も似た身近な女性のほうが愛されていたとか、AKBが「クラスで二番目、三番目に可愛い女の子」を標榜を集めたと言われていたのと同じだと思います。そこからガラっと変わってしまったわけではなく、SNSなどが加わりだんだんと細分化されていったということだと思います。

面白いのは、ファッションブランドで好きなものはどこですか?という質問に対する若者たちの回答の第一位は、どこだと思いますか?

ブランド志向は薄いと思うので、たとえば「H&M」とか「ユニクロ」なんていう答えはどうですか。

長田

とても惜しいですね。答えは「特になし」です。ブランド名を聞いても興味がないとか、自分が着ている服をどこで買ったかということも覚えていない。それくらいお店やブランドにはこだわりがないんですね。かといっておしゃれじゃないわけではなく、おしゃれには興味があります。それも、TPOでの使い分けをします。学校の友達とカフェに行くときのファッション、ヲタ友と会うときのファッション、イベントに行くときのファッションなどなど。

以前と同じ予算の中でも、SNSの調査力とノーブランド志向で、お金をかけずに、いろいろなファッションができている。

堀 かおり
株式会社電通テック プラステックラボ研究員の堀 かおり
長田

はい。その反面、同調圧力が強いというか、会う仲間によってファッションを変えるだけでなく、会話や自分自身のキャラも使い分けしている印象があります。たとえばSNSアカウントを2〜3個使い分けるくらいが普通で、SNSで「見られたい自分」の出し分けをすることに慣れているんですね。今の子たちの「自分らしさ」は、「私はこうありたい」のではなく、「他人からどう見られているか」という結果であって、それを「どうそれらしく見せていくか」なんです。

若者たちにはリアルとバーチャルの境目もないので、SNSとリアル、どちらも普通の自分ではありますね。

長田

今までSNSで切り替えていたものが、なんとなくリアルの世界にも落ちてきたという感じではあるのかな。それを巧みに使い分けできるだけでなく違和感を感じないのもデジタルネイティブの特徴かもしれません。

ヲタ活とヲタ友との絆に手間や時間、お金を注ぐ

彼女/彼らがお金を多く使う分野は何でしょうか。

長田

一言でいえば、さまざまな「ヲタ活——オタク活動」です。以前はネガティブな意味だった「オタク」という呼称ですが、今はむしろポジティブな意味で、「好きなことに取り組む」「趣味に没頭する」くらいの意味で使われています。

「ヲタ活」の対象となるものは何でしょうか。

長田

「ヲタ活」で多いのは、ジャニーズやK-POPなどアイドルのファン活動、「推し」の応援がありますが、コンテンツ系では、アニメ・マンガ・声優・ゲーム、それからダンスやアーティスト系やバンド、演劇俳優、YouTuberなどいろいろです。ポイントは本人の熱意や思いの深さですから、写真を撮ったり、スポーツや旅行をするなど、いわば昔なら「趣味」といわれていたようなものも含まれています。

具体的に「ヲタ活」はどういったことをするのですか。

長田

活動の内容はさまざまで、アイドル系ではTwitterなどで情報収集アカウントや発信アカウントを作って好きな「推し」の応援をしたり、ツアーや上演に遠征したりですね。また手帳好きで日記や映画レポを書く方も多いですよ。

グッズを購入するだけでなく、ハンドメイドのグッズ作りが捗るということで「ネップリ(ネットプリント/ネットワークプリントの略称)」が人気上昇中です。というのも、ファン友達にリアルで会ったときに、手作りしたオリジナルグッズをプレゼントするのが通例になってきているからです。共通の趣味や推しがいる人と共有しあうのが、手間暇かけて作るグッズなんです。ヲタ友と同じ思いを共有したいという面や、リアルでコミュニケーションする機会が少ないからこそ手もかけるという面があるかもしれませんね。

お金ではなく、手間も時間もかけて熱意をつぎ込んでいます。

グループインタビューの様子
長田

それから、作ったグッズやイラストプリントなどをSNSで上げて「#○○のファンとつながりたい」といったハッシュタグを付けたり、「グッズが欲しい方はDMください」と発信したり、リアルとSNSを絡めての活動も多い印象です。

以前のネットの世界ではリアルで会うことにみんな抵抗感があったと思うんですけど、TwitterとK-POPの流行がその垣根をなくした印象がありますね。実は私もかつてK-POPにハマっていた時期があるのですが、例えば90年生まれなら「#90ライン」ってハッシュタグを作って、グループになって、コンサートが近づくと、連絡を取り合いながら現場集合で自己紹介をして、それからずっと友達関係が続くということが普通でした。

長田

そのノリは今も変わりませんね。オフラインとオンラインの境目がなくなりつつあるのと、以前のいわゆる“オタク”は、「自分」と「モノ」との一対一の関係ですけれど、今の子の「ヲタ活」はコンテンツと一対一ではなくて、ヲタ友と盛り上がったり、コンテンツを通じて横に広がっていくというところを大切にしますね。

好きなことで一緒に盛り上がったりコミュニケーションをすることが楽しいんですね。体験や好きな気持ちを共有したいということも今の若者たちの特徴と言えそうです。

「余白」や「貢献」がヲタ活にアプローチする際のキーワード

みなさん、ヲタ活にどのくらいのお金をかけるのでしょうか?

長田

アンケートでは、全国でだいたいのボリュームゾーンが年間1〜5万円ですが、SHIBUYA109ガールズでは3〜5万円がボリュームゾーンで、全国平均より高めです。年間に15万円以上と答えた割合も13%と突出しています。

少ないお小遣いのなかからファッションもコスメも賢く買い、ヲタ活にもだいぶ金額を割いているんですね。「ヲタ活」をする若者たちにアプローチしたい場合に、企業はどんなことに注意するといいでしょう。

長田

先ほどの「ネップリ」もそうですが、市販のものでもヲタ活に使える「余白」だとかがすごく大事だなと思いますね。たとえば飲料系のノベルティグッズで名前を入れられる札を配っていたんですが、本来の用途から外れて、ヲタの子が推しの名前を書いて飾るのに使われていたというケースがあります。「これはヲタ活に使えそうだな」と思ってもらえるのは、ちょっとカスタマイズできる自由な「余白」があるものだったりします。

それから、「このブランドの人を応援してあげたいな」というふうな親近感を持ってもらうことが重要だなと思います。ヲタ活の根幹は「この子を応援することで人気に貢献する」「みんなで応援して育てていこう」といったことなので。そこを押さえたコミュニケーションが重要じゃないかと思いますね。

「好きなことに貢献したい」「応援して大きくなってくれるために支える」みたいな貢献心も強いですよね。いろいろなヒントをありがとうございました。


若者たちのお金の使いどころが「自己表現」であることは、一昔前と変わっていないように感じます。一方で、SNSでアカウントを複数使い分けている感覚がリアルにも浸透したことで、自己表現の場も細分化、それぞれの場の文脈に合わせて服装など見た目も合わせていくというような行動傾向が表れ、お金の使い方にも影響を与えているようです。

また、お金を使っている場所が「ヲタ活」であるということが興味深いお話でした。自分が価値を感じることに貢献すること、応援することが自己の満足につながり、またそれがコミュニケーションの手段ともなっています。また若者たちへのアプローチには「貢献」「応援」の文脈と、自分用にカスタマイズができる「余白」を意識した取り組みも必要となってくるでしょう。

長田 麻衣(おさだ まい)

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略事業部 マーケティング戦略部 SHIBUYA109 lab. 所長

総合マーケティング会社にて、主に化粧品・食品・玩具メーカーの商品開発・ブランディング・ターゲット設定のための調査やPRサポートを経て、2017年に株式会社SHIBUYA109エンタテイメントに入社。 SHIBUYA109マーケティング担当としてマーケティング部の立ち上げを行い、 2018年5月に若者研究機関「SHIBUYA109 lab.」を設立。 現在は毎月200人のaround20(15歳〜24歳の男女)と接する毎日を過ごしている。 好きなものは、うどん、カラオケ、ドライブ。

堀 かおり(ほり かおり)

株式会社電通テック +tech labo研究員

2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。昨年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)を運用している。

+tech labo
Written by:
BAE編集部