これからの未来を描くであろう、最新トピックスをお届けする「さきトレ」。コロナ禍において身の回りの生活のバーチャル化は、さらに加速の兆しを見せています。人間の五感を再現して体験可能にするバーチャル技術。これまでにBAEでも視覚・触覚などのバーチャル技術を紹介してきました。聴覚も、指向性スピーカーなどで特定の人・場所へ特定の情報を伝えることができるようになっています。
そして、いよいよ味覚もバーチャルに体験できる時代がやってきそうです。
リモートでも味わえる「味ディスプレイ」
人間の舌は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5種類を感じるようになっていて、「味」は基本的にこの組み合わせでできあがっています。化学調味料や香料などを使うことで、味を再現することはできますが、食べ物がそこにはないのに味を感じることができるのが、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の宮下芳明教授が開発した「味ディスプレイ」です。海苔巻きサイズの筒の先から5つの突起が飛び出したスティック状のデバイスで、さまざまな味が再現できるのだそうです。
デバイスの突起部は、塩化ナトリウムやクエン酸、グルタミン酸ナトリウムといった電解質がとけこんだゲルが内蔵されていてます。そのままでは5つの味すべてを感じてしまいますが、電気をかけることで、ほとんど味を感じないぐらいにそれらの味を「弱める」ことができるという、引き算で「味」を再現するという仕組みです。
5つの味をそれぞれ巧みにコントロールすれば、理論上は無限に味の組み合わせが可能。それをデータ化すれば、さまざまな味をデジタルで送信可能になるのだとか。
他にもある味覚や風味を擬似体験できる技術
世界に目を向けると、シンガポールではDigital Lollipop(デジタルロリポップ)というデバイスを開発中の研究チームがシンガポール国立大学にあります。以前に塩味を感じるデジタルスプーンも開発しているそう。食事中に「ちょっと塩味が足りないな」と思ったら、ボタンを押して味を強調し、実際に塩を入れずに済むというアイデアもおもしろいです。
また、人間の食の感覚は、5つの味覚のみでできているわけではないそうです。味わいは歯ごたえや匂いに支えられており、風味によっても味が変わることがわかっています。もちろん、見た目や食感も関係するでしょう。たとえば、以前BAEでも取材した香りを感じられるVR「VAQSO VR」と組み合わせるなどすれば、香り+味でよりリアルな体験価値が生み出せそうです。
ECサイトでも試食や試飲ができる時代に?
味覚に関する擬似体験技術は、医療や健康といった分野への活用が期待されていますが、マーケティングにおいても用途は無限大にありそうです。もし近い将来、ひとりに1台のデバイスが持てるようになれば、グルメ番組やCMを見ながらデータを読み込んでさまざまな食品の味を試食することもできそうですし、ECサイトなどでワインやお酒、コーヒーなど、味の特徴を言葉で表しづらい嗜好品を選ぶ際も、好みの味を見つけることが可能になるかもしれません。そうすれば、これまで実物でないと買いづらかった食品も、オンライン注文や遠隔発注がしやすくなるでしょう。
ヘッドセットとディスプレイで食品街を家にいながら散策……。アフターコロナ時代、そんなデパ地下の試食にとって変わるようなアイデアも出てくるかもしれません。
また、VRのゲームやコミュニケーションに味が加わったらどうなるでしょう? ゲーム内でお友達からのプレゼントやパーティのごちそうが味わえるようになりさらに楽しいものになりそうです。
おいしい食べ物を仲間と食べる……レストランで外食するという普通の行為が普通でなくなってきた昨今、未来の食の楽しみ方の多様性は、もっと注目されてくるのではないでしょうか。
- Written by:
- BAE編集部