2021.06.18

DtoC、CtoCに新たなコミュニケーションを創出する「スマートコインロッカー」の可能性

無人店舗やショーケースとしての活用が可能に

ECで注文した商品が、店舗やボックス等から受け取れるサービスなどが広がる中、スマホで簡単に予約・開閉が可能な、スマートコインロッカー(スマートロッカー)が注目されています。
駅ナカや商業施設での商品や荷物の受け渡し、無人の販売スペースとしての活用が可能で、今までにない購買体験や空間活用、物流、PR等を実現する、新たな仕組みの一つです。
具体的には、どのような活用や効果が期待できるのでしょうか。スマートコインロッカー事業を展開する、「SPACER(スペースアール)」の田中さんにお話を伺いました。

目次

“預けた人とは別の人が受け取れる”新型ロッカー

——通常のコインロッカーではない、宅配便や郵便物、洗濯物や生鮮食品等の配達サービスの商品を受け取るタイプなど、ロッカー型・ボックス型のサービスが増えています。中でも新機軸として注目される「スマートコインロッカー(スマートロッカー)」ですが、どのような仕組みなのでしょうか。

私たちが展開する「SPACER」は、スマホで簡単に検索、予約、開閉操作、決済ができるスマートロッカーです。駅や商業施設を中心に、全国約300カ所に設置しています。

スマホ上でのデジタルキーの共有ができて、知人間・非対面での荷物の受け渡しが可能なことが特徴。料金や稼働時間は、ロッカーの場所や大きさによって異なる

——どのような方法での利活用が可能でしょうか。

主に、次のような利活用が可能です。

・通常のコインロッカーと同様、一時的に荷物を預ける
・預けた人がスマホ上で知人等にデジタルキーを渡すことで、別の人が荷物を受け取れる
・ECで購入した商品、調剤薬局から処方された医薬品、クリーニング後の洋服などを受け取る
・透明なロッカー内に商品を展示。スマホでのデジタルキーの受け渡しによって、無人・非対面の状態で商品を販売・購入する

位置や空き状況を検索し、事前予約できるロッカーや手荷物預かりサービス、また特定のECと連動した宅配便の受け取りロッカー等は、今までにもありました。しかし、「預けた人とは別の人が荷物を受け取ることができる」コインロッカーはありませんでした。BtoC、DtoCはもちろん、CtoC間でも気軽に利用できます。ここが「SPACER」の革新的なポイントです。

コロナ禍で求められている、物流の増加、非接触・非対面での荷物の受け渡し、電子マネー決済などへの対応策としても注目されています。
ニューノーマルの社会で役立つプラットフォームを促進する、東京都主催の「スタートアップ実証実験促進事業」にも採択され、社会実装による効果の検証などを行っています。

無人・省スペースで、時間を問わず荷物を受け渡し

——スマートロッカーを使った、具体的なサービスや実証実験の事例を教えてください。

例えば、スマートロッカーを通じた調剤薬局での処方薬の受け取りサービスは、待ち時間の短縮や混雑を避けるメリットで好評です。
2020年9月から一定の要件の下でのオンライン服薬指導が解禁されたことに対応して、同年末~2021年2月に神奈川県内のドラッグストアチェーンで、神奈川県の公的支援を受けて実証実験を行いました。 2021年1月からは、福岡県の薬局にも導入されています。将来的なオンライン診療の実施の実現と並行して、ニーズが向上すると考えています。

薬の説明を受けて、ロッカーでの受け取りを希望すれば、スマホに通知が届き、都合のいい時間にピックアップできる。スマホが苦手な人向けに、テンキーで開錠する仕組みも展開

駅ナカ・駅関連施設に設置したスマートロッカーでの、各種サービスと連携した活用も、様々な形で進めています。

2020年12月から小田急SCディベロップメントが運営する「本厚木ミロード」では、ドラッグストアやアパレルといったテナントと連携して、商品の受け取りサービスの実証実験を行いました。処方薬や洋服のお直しの完成品を、ミロードの閉店後も小田急線の終電までロッカーから受け取れるという形です。

また、同じく昨年から、今年にかけて、西武ホールディングスと連携して、西武鉄道の各駅にスマートロッカーを設置。専用ウェブサイトで注文したスイーツやコスメなどの商品を、西武鉄道の駅構内で受け取れるサービス「BOPISTA(ボピスタ)」も展開しました。

こちらは、トライアル導入中がバレンタインデー、ホワイトデーの時期と重なり、職場でプレゼントするスイーツギフトをまとめて注文して、駅で受け取るというケースが多くみられました。期間中は所沢駅や富士見台駅でのロッカー利用が増え、1日に十数件稼働したロッカーもあります。 「チョコレートギフトの購入者が、デジタルキーを贈りたい相手に送信し、購入者とは別の人がロッカーから受け取って帰る」という使われ方もみられました。

施設の営業時間に縛られず商品の受け取りが可能。ユーザー側も店舗側も、手間や時間をカットできる

——無人販売などに関連する使われ方については、どのような事例がありますか。

2021年1月中旬に行った三菱地所が運営する、有楽町の「micro FOOD&IDEA MARKET」(※)内での実証では、透明アクリル板で中身が見えるタイプのロッカーを使った、アーティストの作品販売が話題になりました。

SNSで人気のインフルエンサーが、透明ロッカーを1週間レンタルしてイラスト作品の展示販売を行ったところ、ユニークな手法としてSNSでシェアされ、約1700件の「イイネ」を獲得したそうです。
※三菱地所が丸の内中通りで運営する実験的スペース。イベントや、日本各地の食材の販売、アート関連のユニークな物販などを展開

スマートロッカーが新たなマイクロショーケースとして機能した事例。画廊のように一定期間にわたってレンタルすることで、作品を展示販売するという新たな使い方が示された

2021年3~4月には、新丸ビル3階アトリウムに「ショールーム兼試着室」を付属したロッカーを展開し、試着・購入体験の需要や、体験者の購入率、施設回遊率などを検証しました。
D2Cブランドのアイテムを「試着をしてから購入したい」「実物を見たい」というユーザーの希望に応えるもので、スマホからの日時予約によって約10ブランドの商品が試着可能、ロッカーから取り出して試着を行ったあとは、購入も返却も可能という形です。

費用対効果や収益性の面では、商品の入れ替えコストや価格などとのバランスの検討が必要ですが、こちらもサービス向上や話題性の面で、一定の評価が得られました。

その他にも、クリーニング店頭での仕上がり品受け取りサービス、「TSUTAYA」でのレンタル品の受け取りサービスの実証、家電量販店「エディオン」での店頭注文品の受け取りサービス、シェアリングサービス「MonooQ(モノオク)」と協業したアイテムの受け渡し、神戸市の「みなと銀行」のATMコーナーへのロッカーの設置などを展開しています。

適材適所の使い方や機能がアレンジできる

——特に、どのような場所に設置されているスマートロッカーがよく活用されているのでしょうか。

やはり、終日人通りの多い駅ナカや駅周辺のロッカーは、一般的な一時預かりを含めて、非常によく使われています。池袋や博多といったターミナル駅だけではなく、そこから数駅離れた、乗降客の多い駅のロッカーがよく使われる傾向にあるようです。薬局のように、受け渡しの用途や使う人がほぼ固まっているタイプの稼働も順調です。

ただ、実は駅や都心を離れたポイントにあるロッカーも、我々の予想以上に稼働しています。例えば、住宅街の近くで塾に行く子どもが家族から着替えや勉強道具を受け取ったり、大学構内や近隣で学生同士が資料や部室のカギの受け渡しを行ったりと、やはり「預ける人と受け取る人が別」であることの利点が買われているようです。

ユーザーの属性は20~40代の男女がボリュームゾーンですが、薬局やクリーニング等、サービスによっては、それ以上の年齢の方にも広く利用されています。

西武鉄道、小田急電鉄、JR九州などの駅構内に設置。近畿大学内に設置されたスマートロッカーも学生を中心に好評。学内でのイベント時などには特によく活用されている

——新たな空間活用法・顧客体験の提供法として、スマートロッカーを導入する場合の考え方のポイントなどがあるでしょうか。

台数や箱の数をただ増やせばいいというものではなく、適材適所の使い方を検討する必要があると思います。 スマートロッカーの設置は、周辺のユーザーの利便性の向上はもちろん、「ここで便利なサービスが使える」というアピールになりますし、ラッピングを工夫すれば、イメージや情報の伝達にも役立つでしょう。

ロゴなどがあしらわれたスマートロッカー。スマートロッカーの認知や稼働率は、ラッピングによる視認性とも比例する

今後は、10箱分のスマートロッカーを設置する場合、半分は通常の一時預かり用、3箱は透明なショーケースとして、2箱はラッピングを変えてマーケティングやキャンペーンと連動させる、といったように、空間やニーズを最大限に生かす形でのコーディネートも可能にしていきます。

——キャンペーンやPRなどは、どのような形での実施が可能でしょうか。

例えば、SNSやゲーム等を通じてデジタルキーを配布して、スマートロッカーからプレゼントを受け取ったり、複数のロッカーを巡ることで特別なロッカーを開けられるようにするなど、様々なマーケティングやデジタライゼーションとの連動が可能になると思います。

先述の、試着室やショーケースのように、特定の期間に、特定の場所でのみ限定商品を販売したり、意外な場所で意外なものをテスト販売したりといった試みも可能です。アイデアによっては、スマートロッカーのある場所にユーザーを集めることなども可能でしょう。
コインロッカーとしての収益性のみにこだわらない、話題性やプレミアムを優先した活用も増やしていきたいと考えています。

——今後の課題や展望、目標などを教えてください。

日本全国には現在約140万台のコインロッカーがあり、設置台数は微増傾向にありますが(※)、実は未だほとんどが硬貨を入れて物理的な鍵で施錠するタイプです。 これらのロッカーのDX化を進め、新しいロッカーの使い方を広めていくことで、物流の増進に貢献し、新たな空間活用や顧客体験を提供していきたいと思います。また、生鮮食品を補完できる冷蔵タイプのボックスなど、ロッカー自体の機能の拡張も進めていきます。
※2019年矢野経済研究所調べによる

2021年5月からは、スーパーアプリなど、「SPACER」以外のアプリ内でのデジタルキーの受け渡しや、直接の開閉も可能にします。また、フリマアプリ等との連動なども進めていきます。
バレンタインギフトの受け渡し方法として使われた例のように、提案によってはDtoC、CtoC間での、オンラインとオフラインを融合させたコミュニケーションを増やせるでしょう。

スマート化によって開閉のログやセキュリティを確実に担保していますし、利用料金等も自在に調整ができますから、将来的にスマートロッカーの台数が増えれば、ロッカー間の荷物の移動など、ネットワークとしての機能を持たせることも検討していきたいと考えています。
スマートロッカーに関心を示してくださる企業やサービスと連携して、今後も皆さんに様々なサービスを届けていきたいと思います。

株式会社SPACER(スペースアール) 代表者 田中章仁(たなか・あきひと)さん

無人販売や展示にも活用が可能なスマートロッカー。周辺施設や各種サービスとの連携はもちろん、今後、スーパーアプリ内やフリマアプリ内からの直接の利用が可能になれば、注目度はさらに増すでしょう。
キャンペーンやPRと連動して、特定のスポットにユーザーを誘導したり、ギフトを楽しく受け取ってもらったり、マーケティングデータを取得したりするための、新しい手段としての活用も進みそうです。


最近では、ネットで注文した商品の店舗受け取るサービス形態BOPIS(Buy Online Pickup In Store)を導入する企業も増えており、電通テックでも、BOPIS導入サポートを行っています。

Written by:
BAE編集部